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それはあまりにも突拍子もない質問で、僕を唸らせるには十分なものだった。

「…う〜ん、そりゃガキの頃は良く考えたけど。今はなぁ…いつ何がどう転ぶか分かんねぇし」

「お前、現実主義だなぁ」

「そういう清水はどうなんだよ」

「オレ?…まぁ、正直似てる考えもあるけどな。ただ…」

「ただ?」

「“こうなってる”って思うよりも、“こうなりたい”って考える方かもしれない」

「そりゃ随分と前向きで…」

「前向きにでもなんなきゃ、やってらんないだろ。グダグダ悩んでたって、どうしようもないことはある」

「…清水、なんか言ってること矛盾してきてるぞ」

「あのな、続きがあんの。最後まで聞いてくれよ。

…だからさ、どうしようもないことを、どうにかしていこうって考える。それがこの先の自分に出会う最大の近道なんだ、とオレは思うわけよ」

清水はそう言って、トンと軽く手摺りから身を乗り出すと、少し腕を引いてタメた後、フッと遠く目がけて手に持っていた紙飛行機を飛ばし放った。

清水の手から放たれた紙飛行機は、ゆるい上昇気流の中、自由気ままにふわりふわりと漂って、はるか彼方へと向かっていく。

「お〜意外と思ったより飛ぶんだなぁ」

妙に感心したように間延びした声を清水が上げる。

それでもやがて紙飛行機はゆっくりと下降し始め、太陽の逆光も手伝って、視界にはすっかり映らなくなってしまった。

でもそれでも、清水はまだその場を離れようとする気配は感じられなかった。たった一言ですら口にすることなく、ただただ紙飛行機が見えなくなった地点を眺めているだけだ。

やはり今日の清水はどこか何かが違っている。いつもひょうきんで明るすぎなくらい明るくて、しょうもないボケをかます奴だと思っていたけど。

そんな清水だって、きっと誰にも言えずに人知れず悩んでいたりするのかもしれない。

「なぁ…清水」

僕はそう話し掛けてみたものの、正直何を言ったら良いのか分からなかった。

冷静を装っておきながら、本当に肝心な時に僕は何も出来やしない。うすうすは分かっていたけど、それでは何か言いたくて仕方なかった。

でも結局は言葉がそこで止まってしまい、しまいには

「なんつ〜顔してんだよ」

情けねぇ面、と清水が悪態つく方が先だった。

きっとこの時の僕は、清水の言う通り、本当に情けない面をしてたんだろうと思う。

でも裏を返せば、これは清水のせいでもあるのだ。

清水は自分自身じゃ気付かなかったのかもしれないけど、僕に悪態をついた時の清水の表情は、どこか物悲しかったから。

「んじゃ、紙飛行機も見えなくなっちまったことだし、そろそろ持ち場に戻りますか。何だかんだ文句垂れても、やることはやんね〜となっ」

僕がどこか切なくゆるみだした表情を引き締めようと唇を噛み締めていると、清水はそんなことを言いながらグッと両手を上で組み、背を反らした。

もうこの時には、いつものひょうひょうとした清水に戻っていて、僕はそんな清水を見て少しホッとして、でも少し淋しくもなった。

踏み込まずにすんだ安心感と踏み込むことが出来なかった淋しさと…でもいつもの清水が僕は好きだったから、これ以上踏み込まずにいよう…そう思った。

「清水からそんな真面目な言葉が聞けるとは」

「あらぁ、またヒドイこと言って、オレって意外と真面目なのよ?」

「はいはい」

「あ〜こいつ、かるくあしらいやがって。このやろ〜」

「いててて!やめろって」清水はそう言いながら、僕に軽くラリアットをかましてきた。


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