第4章、過去の扉
夜の静けさが、私の胸を押し潰すようだった。
影の君を思い出すと、温かさと安心がわずかに戻る。でも、現実の世界は冷たく、日常は重く、孤独は深く沈んでいる。私は、どうしてこんなにも触れられず、認められずにいるのだろう――その理由を知りたくて、ふと昔のことを思い出した。
私の家は、笑い声よりも沈黙が多かった。
母はいつも忙しそうで、台所の奥で何かを抱えているように見えた。父は遠くの街で働き、週末に帰宅することはあっても、私を抱きしめたり、声をかけたりすることはほとんどなかった。子どもながらに、家の空気の冷たさを敏感に感じ取っていた。
夜、布団に潜りながら考える。
「私は、ここにいてもいいんだろうか」
その問いは、幼い私の胸に常に刺さっていた。母の視線の中に安心を見つけることはできず、父の声は遠く、届かないラジオの音のようだった。
学校でも、私は孤独だった。声をかけようとしても、無視されたり笑われたりする。笑顔を向けても、空虚が返ってくるだけだった。私は、誰かに触れられたいと思う一方で、拒絶されることへの恐怖に縛られていた。触れたい、でも触れられない。孤独と恐怖の二つが、私の心をずっと重く締めつけていた。
ある日、私は母の部屋の片隅で、小さな箱を見つけた。埃をかぶった箱の中には、私の名前が書かれたノートや、子どもの頃の絵がしまわれていた。ページをめくると、幼い私が笑って描いたはずの絵が、どこか寂しげに見えた。母が置いてくれた記録は、温かさではなく、過去の孤独を映す鏡のようだった。
その夜、窓の外を見ながら私は考えた。
「私の孤独は、ずっとここにあったんだ……」
雨の匂いと光の揺らめきの中で、私は幼い自分の影に触れる。触れることはできないけれど、記憶の中でだけなら、そっと抱きしめることができる。
孤独の根源を知ることは、痛みを再び呼び覚ますことでもあった。けれど、それを避けていては、夜の影の君の存在も、私の心を揺らす幻想も、理解できない気がした。
私は、自分の心の扉を少しだけ開けた。
怖かった。痛かった。でも、その先に、孤独の理由があることを知っていた。
名前はまだ、私の胸の奥に沈めたまま――その名前が何であるか、思い出す日は、もう少し先にある。
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