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第9話 『脅威の正体と防衛計画、そして最強の囮(おとり)』

前回、完成したばかりの愛の巣(工房)での幸せな祝宴を切り裂いた、謎の咆哮。


ついに、穏やかなスローライフに「戦い」の時が訪れます。


しかし、カオルはただの料理人。エリアーナは戦う力を持たない聖女。


絶望的な状況を、二人はどう乗り越えるのか?


カオルの持つスキルと現代知識が、ついにその真価を発揮する時です!

 地を揺るがすような咆哮の余韻が、森の静寂の中に溶けていく。


 暖炉の炎が、俺たちの顔を不安げに照らしていた。手に入れたばかりの、この温かい場所が、目に見えない脅威に晒されている。


「……カオル様、今のは、ただの獣ではありません」


 俺の腕の中で震えていたエリアーナが、顔を上げた。その瞳には恐怖だけでなく、聖女としての強い意志が宿っている。


「あれは、『瘴気獣しょうきじゅう』です。森の瘴気――邪悪な気が集まって、獣を歪ませ、凶暴化させた存在。普通の動物とは比べ物にならないほどの力と、邪悪な知恵を持っています」


「瘴気獣……」


 厄介な相手であることは、その言葉だけで十分に伝わってきた。


 普通の猪や熊なら、罠や知識でどうにでもなる。だが、ファンタジー世界のモンスターとなると話は別だ。


「逃げましょう、カオル様。あんなものに、私たちだけで敵うはずが……」


「……いや、逃げない」


 俺は、エリアーナの言葉を遮った。


 彼女の震える肩を、今度は力強く抱きしめる。


「ここは、君が『帰る場所』だと言ってくれた場所だ。俺にとっても、そうだ。ようやく手に入れたこの城を、わけのわからない化け物に明け渡してやるつもりはない」


 前世で、俺は全てを諦め、会社に搾取され、ただ死んでいった。


 だが、今は違う。守りたいものがある。守りたい人が、すぐ隣にいる。


「俺は戦士じゃない。剣も魔法も使えない。けどな、俺には俺の戦い方がある」


 俺の決意を感じ取ったのか、エリアーナはこくりと頷いた。


「……はい。私も、戦います。この『家』を、カオル様と一緒に守ります」


 腹が決まれば、やることは一つだ。


 俺は頭をフル回転させ、この絶望的な状況を覆すための作戦を練り始めた。


「瘴気獣とやらが、どれだけ強くても、獣であることには変わりないはずだ。つまり、奴にも食欲がある。そして、縄張り意識も」


「はい。瘴気獣は特に、自分の縄張りに強い執着を示すと聞きます」


「それを利用する」


 俺の作戦は、シンプルだった。


 直接戦わない。徹底的に、罠と地の利を活かした迎撃戦に持ち込む。


 そして、そのための鍵となるのが――。


「最強の『おとり』を作る」


 俺は工房の食料保管庫へと向かった。


 取り出したのは、これまで解体した猪や鹿の内臓の数々。普通なら捨ててしまうような部位だが、これこそが最高の材料だった。


 《スキル【燻製マスター】が反応》


 《瘴気獣を強烈に引き寄せるレシピを閃きました:『腐肉茸ふにくたけ熟成血肉じゅくせいちにくスモーク』》


 《警告:この燻製は強烈な腐臭と誘引効果を持ちます。人間が食すことは推奨されません》


 スキルが物騒な警告を発している。望むところだ。


 俺は、瘴気獣が好むという、森の奥に自生する『腐肉茸』を採取。これを内臓や血の塊と混ぜ合わせ、大鍋で煮込んでいく。


 工房内には、正直、吐き気を催すほどの凄まじい悪臭が立ち込めた。


「うっ……!」


「エリアーナは外に!これは瘴気を帯びた獣を引き寄せるための毒餌だ!」


 エリアーナを外に出し、俺は一人で調理を続ける。


 煮詰まったそれを、今度は燻製器へ。煙をかけることで、匂いをさらに凝縮させ、遠くまで届くように加工するのだ。


 数時間後。


 見た目は黒い炭の塊のような、とんでもない代物が完成した。


 しかし、その塊が放つ、生命の本能を直接刺激するような強烈な匂いは、間違いなくどんな獣をも狂わせるだろう。


「よし。次は、舞台作りだ」


 俺は工房の周囲、森の木々の中に、キャンプで培った知識を総動員して罠を仕掛けていった。


 深く掘った落とし穴。足を絡めとる蔦のロープ。そして、瘴気獣を工房から離れた、特定の場所へと誘導するための獣道作り。


 その間、エリアーナもただ待っているだけではなかった。


 彼女は工房の周囲を静かに歩き回り、祈りを捧げていた。


「聖なる光よ、この地に結界を。邪悪なるものが踏み入る時、我にその存在を示したまえ」


 彼女が祈りを終えると、工房の周囲が、目には見えない清浄な気の壁で覆われたような感覚があった。一種の警報装置だ。


 全ての準備が、陽が沈む前に完了した。


 俺は完成した『最強の囮』を、仕掛けた巨大な落とし穴の先に設置する。


 夜の帳が、森を覆う。


 俺とエリアーナは、工房の窓から、静かにその時を待った。


 暖炉の火だけが、俺たちの緊張を映して揺らめいている。


 そして――。


 ピシッ、と。工房を囲うエリアーナの結界が、微かな音を立てて光った。


 来たんだ。


 耳を澄ますと、森の奥から、ずしり、ずしりと大地を踏みしめる重い足音が聞こえる。


 それは、一直線に、俺が仕掛けた囮の匂いに向かってきていた。


 足音は、俺たちが作った誘導路を正確にたどり、やがて落とし穴を隠した広場の前で、ぴたりと止まった。


 獣の、荒い息遣いが聞こえる。


 静寂。


 心臓の音が、やけに大きく聞こえた。


 次の瞬間。


 ドゴォォォンッ!!!


 地面が揺れるほどの轟音と、これまで聞いたこともないような、怒りと苦痛に満ちた獣の絶叫が、夜の森に響き渡った。


「――かかった!」


 俺は、暗闇の先を睨みつけながら、拳を強く握りしめた。


 俺たちの、スローライフを賭けた防衛戦の火蓋が、今、切って落とされた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ついに、得体の知れない脅威との戦いが始まりました。


カオルの知識とスキル、エリアーナの聖なる力。二人の力が合わさり、見事に敵を罠にかけることに成功しました!


しかし、相手はただの獣ではない「瘴気獣」。


このまま、すんなりと倒せる相手なのでしょうか?


落とし穴の底で、一体どんな恐ろしい姿が待ち受けているのか……?


次回、ついに瘴気獣の全貌が明らかに!そして、カオルの燻製スキルが、予想だにしない形で「切り札」となる!


「最強の囮、臭そうだけど効果は抜群だ!」


「二人の連携プレイが熱い!」


「この引きは卑怯!早く来週になってくれ!」


と、手に汗握っていただけましたら、ブックマークと☆☆☆☆☆の評価で、二人の戦いを応援してください!


皆様の星が、瘴気獣への次なる一手になります!

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