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第6話 『広場の騒動と商人ギルド、そして規格外の価値』

前回。広場で燻製チーズトーストを食べていただけなのに、その魔性の香りで人だかりの中心になってしまったカオルとエリアーナ。


「それを売ってくれ!」という群衆の声。この絶体絶命(?)のピンチ、どう切り抜けるのか!?


人気作の王道、有力者の登場――。


カオルの作る燻製が、ついにこの世界の「経済」とリンクする瞬間です。お見逃しなく!


「兄ちゃん、頼む!それを一切れでいいから売ってくれ!」


「なんだその食べ物は!匂いだけで白飯が食えそうだ!」


「金なら出す!銅貨5枚でどうだ!」


 俺の手にある、ただの燻製チーズを乗せたパンに、数十の飢えた視線が突き刺さる。


 広場の人々は、我先にと俺たちを取り囲み、ちょっとしたパニック状態に陥っていた。


「ひっ……!」


 エリアーナが俺の腕にしがみつく。彼女を怖がらせてしまったことに、俺は罪悪感を覚えた。ただ、小腹が空いたからおやつを食べただけなのに、なんでこんなことに……。


「み、皆さん、落ち着いてください!これは売り物では……!」


 俺の声は、群衆の熱狂にかき消されてしまう。まずい、このままだと押し倒されかねない。俺はエリアーナをかばうように、背中を向けた。


 その時だった。


「――静粛にッ!!」


 地を這うような、しかしよく通る威厳に満ちた声が、広場全体に響き渡った。


 モーゼの奇跡のように、群衆が左右に割れる。その間から現れたのは、上質な服を身につけた、恰幅のいい初老の男だった。鋭い眼光は商人のそれだが、どこか人の良さそうな雰囲気を漂わせている。付き従うように、街の衛兵が数人付き従っていた。


「商人ギルドのドノバン様だ……!」


「なんでギルドマスターがこんなところに?」


 群衆がざわめく。この人が、この街テルムの商人ギルドのトップらしい。


 ドノバンと名乗った男は、騒ぎの中心にいる俺たちを一瞥すると、騒ぎの原因――俺の手にある燻製チーズトーストに視線を固定した。


 そして、くん、と鼻を鳴らす。


「……ほう。この香りは……」


 彼の目が、カッと見開かれた。


「衛兵、騒ぎを収めろ。そして若いの、君たちには少し話を聞かせてもらおうか。もちろん、その『現物』も一緒にだ」


 有無を言わさぬその言葉に、俺は頷くしかなかった。


 ◇


 通されたのは、商人ギルドの豪華な応接室だった。


 ふかふかのソファに腰を下ろした俺たちの前に、ドノバン様がどっかりと座る。


「さて。単刀直入に聞こう。君が持っていたあの食べ物、名はなんという?」


「ええと……燻製チーズ、です。それをパンに乗せただけで……」


 俺は正直に答えた。


 ドノバン様は衛兵にパンを準備させると、「一口、相伴にあずかろう」と言って、俺に燻製チーズを切り分けるよう促した。


 俺がナイフでチーズをスライスすると、再び部屋中に濃厚で香ばしい香りが満ちる。


 ドノバン様はゴクリと喉を鳴らすと、パンに乗せたそれを受け取り、慎重に口へと運んだ。


 そして――数秒の沈黙。


「…………ッ!!!」


 ドノバン様は目を見開いたまま、硬直した。


 その顔は驚愕に染まり、やがて恍惚へと変わっていく。


「なんだ、これは……ッ!?ただのチーズではない!ミルクの芳醇な旨味とコクが、上品な燻香によって極限まで高められている!塩加減も絶妙……口の中でとろけながら、幸せな余韻だけを残していく……こんなものは、王都の最高級レストランですら味わったことがないぞ!」


 商人ギルドのトップが、子供のようにはしゃいでいる。その姿は、少し滑稽ですらあった。


「若いの!君はとんでもない逸品を創り出した!これをどうやって作った!?どこで手に入れたんだ!?」


「え、いや……森で自分で……」


「自分でぇ!?」


 ドノバン様の興奮は最高潮に達していた。


 彼はテーブルに身を乗り出すと、真剣な目で俺に言った。


「カオル君、と言ったかな。この燻製チーズ、そして君が作るという他の燻製も……すべて、この商人ギルドで独占的に買い取らせてはくれんだろうか!?値段は言い値で構わん!金ならいくらでも積もう!」


「は、はぁ……」


 話がデカすぎる。俺はスローライフを求めて異世界に来たはずなのに、なぜか国家予算レベルの商談みたいなことになっている。


「あの、すみません、ドノバン様」


 俺は正直な気持ちを伝えることにした。


「俺は、別に大儲けしたいわけじゃないんです。ただ、自分のペースで、美味いと思うものを作って……まあ、生活できるくらい稼げれば、それで十分で」


 この欲のない言葉が、逆にドノバン様の興味を引いたようだった。


 彼は一度落ち着きを取り戻すと、面白いものを見るような目で俺を観察し始めた。その視線は、隣に座るエリアーナにも向けられる。


「ふむ……。それに、そちらの御令嬢も、ただ者ではない気品をお持ちだ。カオル君、君はいったい何者なんだね?」


「ただの燻製好きですよ」


 俺がそうはぐらかすと、ドノバン様は楽しそうに笑った。


「はっはっは!気に入った!無理強いはすまい。だが、考えが変わったら、いつでもこのギルドを訪ねてきなさい。君のような男は、このテルムの街が、いや、この国が放っておかんよ」


 そう言うと、ドノバン様は一枚の金属製のプレートを俺に手渡した。


「これはギルドの準登録証だ。それがあれば、街への出入りは顔パスになる。面倒なチンピラ避けにもなるだろう。今日の迷惑料、そして未来の取引への期待の証だ」


 これは、願ってもない申し出だった。


 こうして、俺たちは商人ギルドを後にした。


 街の人々の視線は、先ほどとは違い、畏敬の念が混じっているように感じた。


 森への帰り道、エリアーナが興奮した様子で俺の袖を引いた。


「カオル様、すごいです……!あなたの燻製が、あんなにすごい人を夢中にさせて……!まるで、物語の始まりみたいです!」


「大げさだな。……でも、まあ、これで工房の材料は心置きなく買えるな」


 俺は手の中にあるギルドの登録証を眺めながら、ぽつりと呟いた。


「なんだか、とんでもないことになってきたな……」


 スローライフへの道は、どうやら一本道ではなさそうだ。


 俺の作る燻製の煙は、俺自身の思惑を超えて、この世界の常識を静かに燻し始めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ついにカオルの燻製が、商人ギルドマスターという「最高権威」のお墨付きを得ました!


これで、ただの趣味から、本格的な「ビジネス」への道が拓けたわけですが……カオル本人はあくまでマイペース(笑)。このギャップが、彼の魅力ですね。


ギルドの登録証も手に入れ、これで街との往復も安心。


いよいよ次回は、森に戻って本格的な「工房建設」がスタートします!


カオルのキャンプスキルと、エリアーナの聖なる力が合わさる時、どんな素敵な拠点が出来上がるのか!?


「ドノバン様、いいキャラしてる!」


「主人公の欲のなさが最高」


「工房づくり、ワクワクする!」


と思っていただけましたら、どうかブックマークと、ページ下の☆☆☆☆☆での評価を、ぜひともお願いいたします!


皆様の星が、工房の建材になります!

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