第5話 『初めての街とチンピラ、そして市場を揺るがす香り』
皆様の応援のおかげで、ついに二人は森の外へ!
さて、第5話は待望の「初めての街編」です!
活気あふれる市場、新しい道具、そして未知の食材との出会い。
もちろん、異世界のお約束(?)なトラブルも……?
カオルの持つ現代知識とキャンプスキルが、意外な形で火を噴きます。お楽しみに!
森を抜けると、視界が一気に開けた。
眼下に広がるのは、石造りの城壁に囲まれた、活気のある街並み。辺境と聞いていたが、想像していたよりもずっと大きく、賑やかだ。
「あれが……街……」
エリアーナが、深く被ったローブのフードの隙間から、不安と好奇心の入り混じった瞳で街を見つめている。俺もまた、文明の光景に少しだけ感動を覚えていた。
「よし、行こう。街の名前はテルム、だったか。あの商人が言ってたな」
俺たちは街の門へと向かった。
門番の衛兵による簡単なチェックがあったが、銀貨を一枚渡して「森で薬草を採っていた」と説明すると、あっさりと通してくれた。エリアーナの顔を執拗に見られることもなく、俺は内心ほっとする。
街の中は、まさに混沌としたエネルギーに満ちていた。
行き交う人々、響き渡る怒声や笑い声、様々な食べ物や香辛料の匂い。五感全てが刺激されるこの感覚は、久しぶりだった。
「すごい……人が、たくさん……」
「はぐれるなよ」
俺はエリアーナの手をそっと握った。彼女の手は少し冷たく、震えている。その手を守るように、俺は人混みをかき分けて進んだ。
まずは目的の道具屋だ。
店主の頑固そうな親父と交渉し、頑丈な斧とノコギリ、それから釘をひと袋購入した。銀貨2枚。これで俺たちの工房計画は、大きく前進する。
次に立ち寄ったのは、食料品店だった。
そこで俺は、この世界の「保存食」の現実を目の当たりにする。
棚に並んでいるのは、カチカチに乾燥して黒ずんだ干し肉と、塩が吹きすぎて真っ白になった魚の塩漬け。値段を見ると、これがまた驚くほど高い。
(……なんだこれ。どう見ても美味そうじゃないのに、こんな値段するのか)
自分の作った燻製ニジマスやベーコンが、いかに規格外のクオリティだったかを思い知らされる。
「これなら……売れるな」
俺の口から、無意識にそんな言葉がこぼれた。
趣味で作っていた燻製が、明確に「商品」として意識された瞬間だった。
その時だ。
「おい、そこの嬢ちゃん。いいもん持ってんじゃねぇか」
下卑た笑い声とともに、柄の悪い男たち数人が俺たちの前に立ちはだかった。チンピラだ。異世界にもいるんだな、こういう分かりやすい連中は。
狙いは、エリアーナが肩にかけている鞄のようだ。
「顔を隠してコソコソしやがって。さっさとその鞄を渡しな」
「やめてください……!」
エリアーナが俺の後ろに隠れる。
俺はため息を一つついて、チンピラたちの前に立った。
「悪いが、見逃してくれないか。こっちは急いでるんだ」
「ああん?なんだテメェ。やんのか?」
リーダー格の男が、ナイフをちらつかせて威嚇してくる。
面倒ごとはごめんだが、ここで引き下がるわけにもいかない。
俺は懐から、道中の非常食として持ってきた、あるものを取り出した。
猪の肉を極限まで乾燥させ、カチカチに仕上げた『燻製ハードジャーキー』だ。
「なんだそりゃ。そんなもんが武器になるかよ」
チンピラが嘲笑う。
俺は何も言わず、その石のように硬いジャーキーに指をかけ、
パキンッ!
乾いた音を立てて、いとも簡単にへし折って見せた。
スキル【燻製マスター】の地味な応用だ。燻製時の水分量を調整すれば、強度も自在に変えられる。
「なっ……!?」
チンピラの顔色が変わった。石のような塊を指で砕く俺の姿が、とんでもない握力の持ち主に見えたのだろう。
「次はお前の骨がこうなるかもしれないぞ?」
俺が冗談めかして言うと、チンピラたちはひるんだ。
リーダー格の男が逆上し、「なめるな!」とナイフを振りかざして突進してくる。
俺は慌てず、バックパックの脇に差していたただのロープを抜き、キャンプで慣れ親しんだロープワーク――もやい結びの要領で輪を作ると、男の足元に放り投げた。
「うわっ!?」
男の足に見事にロープが絡みつき、派手にすっ転ぶ。戦闘じゃない。ただの技術だ。
リーダーが無様に倒れたのを見て、残りのチンピラは「ひぃっ!」と悲鳴を上げると、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「……大丈夫か、エリアーナ」
「は、はい……!カオル様、すごい……!」
エリアーナが、潤んだ瞳で俺を見上げてくる。その顔は恐怖よりも、尊敬と、少しの熱がこもっているように見えた。
買い物を再開し、最後に香辛料店に立ち寄った。
店内に足を踏み入れた瞬間、様々なスパイスの刺激的な香りに、俺の料理人魂が奮い立つ。見たこともない木の実や、色鮮やかな粉末。宝の山だ。
《スキル【燻製マスター】が反応》
《未知のスパイス『炎山椒』を発見。燻製肉に使用すると、辛みと痺れるような風味が加わり、極上の味わいを生み出します》
《『星屑の岩塩』を発見。まろやかな塩味が素材の味を最大限に引き出します》
俺は残っていた銀貨で、スキルが推奨するいくつかのスパイスと、上質な岩塩を買い込んだ。これは未来への最高の投資だ。
買い物を終え、俺たちは街の広場にある噴水のそばで一休みすることにした。
持ってきたパンと、燻製チーズを取り出す。ナイフで切り分けたチーズをパンに乗せると、昼の日差しを浴びて、チーズの脂がじわりと溶け出し、たまらない香りを放ち始めた。
俺たちがそれを頬張っていると、異変が起きた。
「……なんだ?この匂いは……」
「腹が……鳴る……」
「おい、あの二人が食ってるやつ、とんでもなく美味そうな匂いがしないか?」
広場にいた人々が、次々とこちらに視線を向ける。その視線は、俺たちの手にある燻製チーズトーストに釘付けになっていた。
じわり、じわりと、人の輪が俺たちを中心にできあがっていく。
まるで、一つの事件が始まろうとしているかのような、奇妙な熱気の中で。
カオルの作る燻製が、この街テルムに最初の波紋を広げるまで、あとほんの少し。
俺はまだ、自分のしでかしたことの重大さに、全く気づいていなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
初の街編、いかがでしたでしょうか?
カオルの意外な(?)強さと、燻製の新たな可能性。そして、ついにその存在が公になってしまいました。
広場の人々に囲まれてしまったカオルとエリアーナ。
この状況、どう切り抜けるのか!?
そして、この騒ぎが、新たな出会いとビジネスチャンスを呼び込むことに……!?
次回、物語はさらに加速します!「伝説の始まり」を、ぜひその目で見届けてください!
「ジャーキーで撃退は笑ったw」
「燻製チーズトースト、罪深すぎる……」
「この引きはズルい!早く次を!」
と思っていただけたら、ぜひブックマークと、ページ下の☆☆☆☆☆での評価を!
皆様の応援が、カオルをこのピンチ(?)から救う力になります!




