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第46話 『燻る(いぶる)野心と、落ちる巨星 ~宮廷料理長の失脚~』

 いつもお読みいただきありがとうございます!

 前回、圧倒的な香りと旨味で審査員を唸らせたカオル。

 しかし、プライドの高いヴァルジェス料理長が素直に負けを認めるはずもなく……?

「なろう」名物、待望のスカッと回です。エリアーナとロロの「威光」にもご注目ください。

「ありえん……! こんな貧相な調理法が、私のコンフィに勝つなど……ッ!」

 王城の饗応きょうおうの間。

 静まり返る貴族たちの中で、ヴァルジェスの金切り声だけが木霊していた。

 彼は脂汗を額に浮かべ、カオルの皿と、それを空っぽにした国王陛下を交互に睨みつけている。

「陛下! 騙されてはいけません! 『煙』などという不衛生なものを食材に纏わせるなど、正気ではありませんぞ! きっと何か、味覚を麻痺させる薬物でも――」

「――見苦しいぞ、ヴァルジェス」

 陛下の低い声が、広間の空気を凍らせた。

 カオルは腕を組み、哀れな元上司を冷ややかに見下ろす。

 隣では、銀色の毛並みを持つ少女――神狼のロロが、「あのおじさん、うるさい」とばかりに耳をパタパタと動かし、カオルの腰に隠れた。

「薬物だと? 余の舌が、そしてここにいる美食家たちの舌が、すべて狂っていると申すか」

「し、しかし陛下! 燻製などという平民の、いや、野営キャンプのごとき下等な料理を宮廷に入れるなど、国の恥です!」

 ヴァルジェスは最後の切り札として「権威」を持ち出した。

 伝統と格式。それが彼の守ってきた城壁だった。

 だが、その壁を内側から崩したのは、カオルの料理ではなく、意外な人物の一言だった。

「……下等、ですか。私の『救い』を、そう呼びますか」

 凛とした声が響く。

 カオルの後ろで給仕を手伝っていたエリアーナが一歩、前に出たのだ。

 その身に纏うのはウェイトレスのエプロンだが、放たれる気品は隠しようもない。

「エ、エリアーナ……? なぜ、追放された聖女がここに……」

「森で倒れていた私を救ったのは、カオル様の燻製肉でした。生きる力を失いかけていた私に、温かなスープと、香り高いベーコンがどれほどの活力をくれたか。……それを『下等』と断じるなら、この国の聖女たる資格もまた、下等なものでしょうね」

「グルルゥ……」

 呼応するように、ロロが喉を鳴らす。

 その愛らしい瞳が、一瞬だけ本来の「神狼」の金色の輝きを帯び、凄まじい威圧感がヴァルジェスを襲った。

 本能的な恐怖。

 ヴァルジェスは「ひっ」と短い悲鳴を上げ、腰を抜かして尻餅をついた。

「聖女が認め、神狼が愛し、そして余が美味と断じた。……これ以上の証拠が必要か?」

 陛下が手を振ると、控えていた衛兵たちがヴァルジェスの両脇を固めた。

「ヴァルジェス。貴様の料理は確かに技術の粋を集めたものだ。だが、そこには『食べる者への敬意』が欠けている。カオルの皿には、素材への愛と、食べる者を楽しませようという『探究心』があった」

「ま、待ってください! 私はただ、宮廷の伝統を……!」

「その伝統にあぐらをかき、才ある者を追放した罪は重い。……連れて行け。宮廷料理長の座は、本日をもって剥奪とする」

「いやだ、いやだぁぁぁッ! 私の地位が! 私の名誉がぁぁッ!!」

 断末魔のような叫びを残し、ヴァルジェスは引きずられていった。

 かつてカオルを「ゴミ」のように捨てた男は、今、自らが「不要なもの」として掃き出されたのだ。

「……ふぅ。やっと静かになったな」

 カオルが息を吐くと、ロロが心配そうに袖を引いた。

「カオル、だいじょうぶ?」

「ああ、大丈夫だ。……ありがとうな、ロロ。それにエリアーナも」

 カオルが頭を撫でると、ロロは嬉しそうに尻尾をブンブンと振り、エリアーナは頬を染めて微笑んだ。

 その光景を見て、陛下はニヤリと笑う。

「さて、カオルよ。約束通り、褒美を取らせねばな。宮廷料理人に戻る気はないか?」

 会場中の視線が集まる。

 だが、カオルの答えは決まっていた。

「謹んで辞退いたします、陛下。俺の城は、あの森の小さな工房ですので」

「くくく、そう言うと思ったわ。……ならば、こうしよう」

 陛下は宣言した。

「森の燻製工房を、『王室御用達』として認定する! ただし――たまには余にも、その『新作』とやらを届けによこせ。よいな?」

 会場から割れんばかりの拍手が巻き起こる。

 こうして、過労死キャンパーだった俺は、いつの間にか国一番の料理人として、その名を轟かせることになってしまったのだった。

(……忙しくなるのは勘弁してほしいんだけどなぁ)

 カオルの贅沢な悩みは、まだまだ続きそうだ。

 ヴァルジェス、退場!

 これにて一件落着……と思いきや、「王室御用達」になってしまったことで、カオルのスローライフ計画はさらに遠のきそうです。

 さて、次回からは新展開。

「王室御用達」の噂を聞きつけて、とんでもない客が森にやってきます。

 そして、ロロの「神狼」としての秘密にも少しずつ迫っていく……かも?

「スカッとした!」「ロロ可愛い!」と思っていただけたら、ぜひブックマークと評価(☆☆☆☆☆)をお願いします!

 作者のモチベーションになり、更新速度が上がります(燻製チップの補充代になります)!

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