第44話 『追放した元・上司がやってきた。宮廷料理長の暴言「燻製など貧乏人の餌だ」と、受けて立つ「至高の鴨肉(マグレカナール)」対決』
いつも応援ありがとうございます!
前回、勇者パーティすらもピザで餌付けし、名実ともに最強の店となった『森の燻製工房』。
しかし、光が強ければ影も濃くなるもの。
ついに、カオルのトラウマの元凶であり、この物語の始まりである「追放劇」を仕組んだ男が現れます。
宮廷料理長、ヴァルジェス。
伝統と格式を重んじ、新しい技術を否定する彼は、カオルの店から漂う「美味しそうな匂い」が許せません。
「王命」という最強のカードを切ってきた彼に対し、カオルは逃げずに立ち向かいます。
次回、料理対決編の開幕です!
「……なんだ、この下品な匂いは」
平和な昼下がりの『森の燻製工房』に、場違いなほど尊大な声が響いた。
店内の空気が一変する。
ピザを食べていた勇者が手を止め、カウンターでワインを飲んでいたイグニス(赤竜)が不快そうに目を細める。
入り口に立っていたのは、たっぷりと脂の乗った腹を、豪華な白いコックコートに包んだ中年の男。
後ろには、王宮の兵士を数名引き連れている。
俺は、燻製チップを補充する手を止めた。
忘れるはずもない。
俺の燻製技術を「煙臭いゴミ」「保存食作りは料理人の仕事ではない」と否定し、宮廷から追放した張本人。
「……久しぶりですね。ヴァルジェス料理長」
「フン。こんな薄汚い小屋で、煙にまみれて生き恥を晒していたか、カオルよ」
ヴァルジェスはハンカチで鼻を覆い、露骨に嫌悪感を示しながら店の中へ入ってきた。
そして、客席を見回し、鼻で笑う。
「冒険者に、平民か。……やはりお前には、こういう底辺の客がお似合いだ」
ピキッ。
店内の空気が凍りついた。
「底辺」呼ばわりされた客の中には、身分を隠している王女エリアーナ、騎士団長セシリア、そして人類最強の勇者パーティや、最強種のドラゴンが含まれている。
彼らが一斉に殺気を放とうとしたが、俺は目配せでそれを制した。
これは、俺(料理人)の問題だ。
「……俺の客を侮辱するのはやめていただきましょう。それで、今日は何の用で?」
「王命だ」
ヴァルジェスは懐から、玉璽の押された羊皮紙を取り出した。
その言葉に、セシリアとエリアーナがビクリと反応する。
「先日、陛下が晩餐会で食した『ローストビーフ』……。あのような下賤な煙の味が忘れられぬと仰せだ。私の作る正統派フレンチには手を付けずにな! ……これは王宮料理長である私への最大の侮辱だ!」
ヴァルジェスの顔が怒りで赤黒く歪む。
どうやら、俺が第36話で成功させた晩餐会のせいで、彼のプライドはズタズタらしい。
王様も王様だ。「あの時の肉が食いたい」と駄々をこねたのだろう。
「そこでだ。陛下の誕生祝賀会にて、料理対決を行う。テーマはメインディッシュの肉料理」
「俺が勝ったら?」
「……フン。勝てるわけがないが、もし勝てば、お前の追放処分を取り消し、宮廷に戻してやってもいい」
「戻る気はありません。俺が勝ったら、二度と俺の店と、俺の燻製技術に干渉しないと誓ってください。それと……この店への『王室御用達』の看板を正式に認めること」
「よかろう。だが、私が勝てば……この店を潰し、その不愉快な『燻製窯』を破壊する。そして二度と料理ができぬよう、その腕をへし折ってやる」
狂気じみた条件だ。
だが、断れば「王命違反」で即、店は取り潰しになるだろう。
やるしかない。
「テーマの食材は?」
「**『鴨』**だ」
ヴァルジェスがニヤリと笑った。
鴨肉。それはフレンチの華であり、最も繊細な火入れとソース作りが求められる食材。
伝統的な『鴨のコンフィ』や『オレンジソース煮込み』を得意とするヴァルジェスにとって、絶対の自信がある分野だ。
逆に、燻製にすれば「パサパサになる」「香りが強すぎて繊細な脂の味が死ぬ」と、料理界では敬遠されがちな食材でもある。
「……いいでしょう。受けます」
「ハッ! 愚かな。煙臭い肉で、私の芸術に勝てると思うなよ!」
ヴァルジェスは高笑いと共に店を出て行こうとした。
その時、彼がカウンターの上の小皿に目を留めた。
そこには、俺が試作していた『燻製ミックスナッツ』が置いてあった。
「……なんだこれは。ゴミか?」
「ナッツの燻製です。……一つ、どうです?」
「穢らわしい!」
ヴァルジェスはナッツを指で弾き飛ばし、そのまま床に落ちたそれを踏み潰した。
「二度と私に餌を勧めるな」
バタンッ!
扉が閉まる。
静まり返る店内。
次の瞬間、ドゴォォォォン!! という音が響いた。
イグニスが怒りのあまり、握っていたワイングラスを粉砕し、カウンターの一部を焦がしていた。
「……あの豚、殺していいか?」
「僕が聖剣で微塵切りにしてきますよ、カオルさん」
ドラゴンと勇者が立ち上がる。
セシリアも剣に手をかけている。
エリアーナに至っては、悔しさで目に涙を溜めていた。
みんな、俺のために怒ってくれている。
「ありがとう、みんな。でも、手出しは無用だ」
俺は床に落ちた粉々のナッツを拾い上げ、静かに言った。
「料理人の喧嘩は、料理で決着をつける。……それに、奴は墓穴を掘った」
俺は厨房の奥にある、熟成庫を見つめた。
そこには、ちょうどいい具合に仕上がっている『ある食材』がある。
「鴨か……。奴は知らないんだ。鴨肉と燻製、そして『フルーツ』の組み合わせが、どれほどの破壊力を生むかを」
俺の目には、すでに勝算が見えていた。
ヴァルジェスの「伝統」という名の古い鎧を、俺の「革新」の煙で貫く。
「ロロ、準備だ! 最高級の『マグレカナール(フォアグラを採取した後の鴨胸肉)』と、季節の『イチジク』を用意しろ! ……宮廷料理長に、本物の『大人の味』を教えてやる」
戦いの火蓋は切られた。
決戦は3日後、王宮大広間。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
いよいよ始まりました、料理対決編!
相手は典型的で嫌な奴、元上司のヴァルジェスです。
彼が選んだ食材は「鴨」。
フレンチの王道ですね。
しかし、カオルには燻製という魔法があります。
鴨の脂は、燻製の煙と恐ろしく相性がいいのです。
次回、ヴァルジェスの超高級フレンチに対し、カオルが出すのは……「鴨とイチジクの瞬間燻製」?
いいえ、もっと驚くような仕掛けを用意します。
ざまぁ展開まで、あと少し!
ヴァルジェスの鼻をへし折る準備はできています。
皆様、カオルの勝利を信じて応援してください!
「ヴァルジェス腹立つ!」
「早くぎゃふんと言わせて!」
「鴨の燻製、絶対美味い!」
と、拳を握りしめた方は、ぜひブックマークと☆☆☆☆☆の評価で、カオルに力を貸してください!




