表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/49

第42話 『商業ギルドの女帝、襲来。「店を売れ」と迫る彼女を、黒い宝石「燻製コーヒー」と「焦がしバスークチーズケーキ」で沼に沈める』

 いつも応援ありがとうございます!

 前回、赤竜の鱗をホットプレートにするという暴挙で、美味しいハンバーグを堪能し、結束を深めたカオルたち。

 しかし、その賑わいを「カネ」の匂いとして嗅ぎつけた組織が動き出します。

 王都の経済を支配する『商業ギルド』。

 そのトップに君臨する「女帝」が、札束を持って店に乗り込んできました。

「あなたの店、買い取ります」

 圧倒的な財力の前に、カオルが出す答えは「NO」。

 そして、交渉のテーブルに出されたのは、黒く焦げたケーキと、香るコーヒー。

 苦味と甘味、そして煙の魔法が、冷徹な女会長の計算を狂わせます!

「単刀直入に言います。この『森の燻製工房』の全権利と、あなたが持つ燻製技術……金貨5,000枚で買い取らせていただきます」

 開店前の静かな店内に、澄んだ、しかし氷のように冷たい声が響いた。

 カウンターの向かいに座っているのは、仕立ての良い紺色のドレスを着た美女。

 彼女は、この国の流通を一手に担う『商業ギルド』の会長、ミレイユ・ランバートだ。

 背後には、黒服の護衛たちがズラリと並んでいる。

「金貨5,000枚……。一生遊んで暮らせる額ですね」

「ええ。あなたは田舎でのんびり暮らせばいい。技術は我がギルドが管理し、大陸全土に『缶詰』として展開します。悪い話ではないでしょう?」

 ミレイユ会長は、完璧な営業スマイルを浮かべている。

 だが、その目は笑っていない。

 彼女は「味」を見ているのではない。「利益」を見ているのだ。

「お断りします」

 俺は即答した。

 ミレイユの眉がピクリと動く。

「……交渉の余地はないと? 金額が不満ですか?」

「いいえ。俺は自分の手で作って、客の顔を見て提供したいだけです。工場生産の缶詰にする気はありません」

 俺の言葉に、ミレイユはふぅ、と呆れたように溜息をついた。

「職人のエゴですね。素晴らしい技術も、拡散させなければ無価値です。……いいでしょう。ならば力尽くで――」

 護衛たちが一歩前に出る。

 すかさず、店で掃除をしていたセシリアがモップ(!)を構え、ロロが低い唸り声を上げる。

「待ってください、会長さん」

 俺は慌てて制止し、ニヤリと笑った。

「せっかく来ていただいたんです。……少し、『休憩』していきませんか? ビジネスの話は、糖分を補給してからでも遅くない」

「……は? 私は遊びで……」

「当店の新作スイーツです。これを食べても、まだ俺の技術を『缶詰』にできると思うなら、その時は交渉に応じましょう」

 俺の挑発に、ミレイユは少し考え、不敵に笑った。

「面白い。その自信、へし折って差し上げますわ」

 俺は厨房に入った。

 今回用意するのは、交渉の場にふさわしい「大人のスイーツ」。

 まずは飲み物だ。

 深煎りのコーヒー豆を、ミルで挽く前に『ピート(泥炭)』の煙で冷燻にかけておく。

 ウイスキーのようなスモーキーな香りを纏った**『燻製コーヒー』**だ。

 そしてメインディッシュ。

 クリームチーズに生クリーム、卵、砂糖を混ぜ、高温のミスリル窯へ。

「設定温度、230度。一気に焼き上げる!」

 使うチップは『メイプル』。甘い香りのチップだ。

 普通のチーズケーキではない。

 表面をあえて真っ黒になるまで焦がし、その苦味をアクセントにするスペイン生まれの菓子。

 そう、**『バスクチーズケーキ』**だ。

 ただし、俺のはそこに「燻製」が加わる。

「お待たせしました。『燻製バスクチーズケーキ』と『スモーク・ブレンドコーヒー』です」

 ミレイユの前に皿を置く。

 彼女は眉をひそめた。

「……焦げているではありませんか。失敗作を出すなど……」

「まずは一口。焦げこそが調味料です」

 ミレイユは疑わしげにフォークを刺した。

 表面はカリッとした感触だが、中はレアのようにねっとりと重い。

 彼女がそれを口に運ぶ。

 舌に乗せた瞬間。

「……ッ!?」

 ミレイユの瞳孔が開いた。

 最初に感じるのは、焦げた表面の香ばしい苦味ビター

 それが、濃厚で甘いクリームチーズと混ざり合い、絶妙なキャラメルのような風味を生み出す。

 そして、鼻から抜けていくメイプルの燻煙香。

 ただ甘いだけじゃない。

 苦味、酸味、甘味、そして香り。

 それらが複雑に絡み合った、極めて「背徳的」で「大人」な味わい。

「な、なによこれ……! 濃厚なのに、燻製の香りが油っぽさを消して……いくらでも入るわ……!」

「コーヒーもどうぞ」

 彼女がカップに口をつける。

 燻されたコーヒーの香りが、チーズケーキの余韻をさらに引き立てる。

 口の中で完成する、マリアージュ。

「はぁっ……♡」

 カチャン。

 ミレイユの手からフォークが滑り落ちた。

 彼女の頬は紅潮し、冷徹な仮面は完全に崩壊していた。

「……工場では作れないわ」

 彼女はポツリと呟いた。

「この絶妙な焼き加減、その日の湿度に合わせた燻製の時間……。これを機械化するのは不可能。缶詰にすれば、この香りは死んでしまう……」

 彼女は悔しそうに、しかしどこか満足げに、最後の一口を惜しむように食べた。

 そして、ナプキンで口元を拭うと、キリッとした顔に戻った。

 だが、その目にはもう、敵意はない。

「……負けました。買収の話は撤回します」

「賢明な判断です」

「ですが!」

 ミレイユは身を乗り出し、俺の手をガシッと掴んだ。

「独占契約を結びなさい! あなたの店に必要な食材、資材、すべて我がギルドが最高級のものを卸します! その代わり……!」

「その代わり?」

「週に一度、このケーキとコーヒーを私の執務室に届けなさい! ……個人的な契約として!」

「……え、それだけですか?」

「それだけよ! ああもう、あんな美味しいものを知ってしまったら、普通のティータイムに戻れないじゃない!」

 彼女は顔を赤くして叫んだ。

 どうやら、燻製の沼にまた一人、大物を沈めてしまったようだ。

「……ふふ、商談成立ですね」

 こうして、俺は『商業ギルド』という強力なバックアップ(と、やっかいな常連客)を手に入れた。

 王宮、騎士団、ドラゴン、そして経済界。

 着々と最強の布陣が整いつつある。

 だが、俺はまだ知らなかった。

 この店の名声が高まりすぎた結果、遠い隣国の『勇者パーティ』の耳にまで、その噂が届いてしまっていることを。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 バスクチーズケーキの燻製!

 これ、本当に合います。

 表面の焦げと燻製の香りは親和性が高く、コーヒーやワインと一緒に食べると止まらなくなります。

 冷徹な女会長も、甘くて苦い大人の味には勝てませんでした。

 さて、これで国内の主要な勢力はほぼ攻略しました。

「もう敵はいないのでは?」

 いいえ、なろう系の世界は広いです。

 次に現れるのは、かつて魔王を倒した(あるいは倒しに行っている)英雄たち。

『勇者パーティ』。

 彼らは果たして、カオルの味方になるのか、それとも「魔王の手先」と勘違いして攻撃してくるのか!?

 次回、勇者編スタート!

「バスクチーズケーキ食べたい!」

「ミレイユさんチョロくて可愛い」

「勇者vs燻製、どうなる!?」

 と、深夜にスイーツテロを受けた方は、ぜひブックマークと☆☆☆☆☆の評価をお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ