第40話 『最強種、来たる。全てをひれ伏させる「龍圧(ドラゴン・プレッシャー)」と、骨付き巨大肉「トマホーク・ステーキのウイスキー樽燻製」』
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前回、パストラミサンドの大ヒットにより、冒険者たちの胃袋を掴んだカオル。
店は連日大行列ですが、その賑わいが「とんでもない客」を呼び寄せてしまいました。
今回のお客様は、ファンタジー界の頂点「ドラゴン」。
人の姿をしていても、隠しきれない王者の覇気。
震えるロロ、動けないセシリア。
そんな規格外の怪物を満足させるには、皿に上品に盛られた料理では足りません。
必要なのは、暴力的なまでの「肉塊」と、芳醇な「香り」です。
骨ごと喰らえ! 漢のロマン、トマホークステーキ回です!
パストラミサンドの爆発的なヒットから数日。
『森の燻製工房』は、昼下がりのピークタイムを迎えていた。
「店主! サンドイッチ追加だ!」
「俺にもくれ! ダンジョンへ持って行く!」
店内は冒険者たちの熱気と、スパイスの香りで充満している。
セシリアが「並べ! 列を乱すな!」と声を張り上げ、エリアーナがてんてこ舞いで注文を捌く。
平和で、忙しい日常。
――その空気が、一瞬で凍りついた。
カランコロン……。
ドアベルが鳴り、一人の「女性」が入ってきた瞬間だ。
店内の喧騒が、嘘のように消滅した。
真紅のドレスを纏った、長身の女性。
燃えるような赤い髪に、宝石よりも鮮烈な金色の瞳。
そして何より、彼女が放つ圧倒的な**『圧』**が、生物としての格の違いを雄弁に物語っていた。
「……ひッ……!?」
厨房で、ロロが尻尾を股に挟み、ガタガタと震えてうずくまる。
あの剛胆な冒険者たちが、青ざめて直立不動になり、道を開ける。
セシリアだけが、冷や汗を流しながらも、無意識に剣の柄に手をかけていた。
(……間違いない。こいつは人間じゃない)
俺の本能が警鐘を鳴らす。
彼女は悠然とカウンターの中央席に座り、つまらなそうに周囲を見渡した。
「……騒がしいな。雑種どもが群れて何を食っている」
彼女の声は鈴のように美しいが、腹の底に響くような重低音を含んでいた。
彼女は隣の冒険者が食べているパストラミサンドを横目で見て、鼻で笑った。
「パンに挟まれた薄い肉か。……貧相な。それが貴様らの『御馳走』か?」
「お言葉ですが、お客様」
俺は震えそうになる足を叱咤し、カウンター越しに対峙した。
「当店自慢のパストラミです。味には自信がありますが」
「ふん。……我は、ちまちました餌など食わん」
彼女が俺を睨む。その瞳孔が、爬虫類のように縦に細く収縮した。
ビンッ! と空気が張り詰める。
「我の名はイグニス。……貴様なら、その名が何を意味するか分かるな?」
イグニス。古代語で『炎』。
そしてこの圧倒的な魔力。
正体は明白だ。伝説の最強種族――**『赤竜』**だ。
「……竜のお客様とは、光栄です」
「ほう、気絶せぬか。……ならば料理人よ、我を満足させてみろ。パンなど不要。野菜も不要。我の牙が喜ぶ『本物の肉』を出せ。……もし不味ければ、この店ごと灰にしてやる」
理不尽な要求。だが、断れば死ぬ。
何より、料理人として「貧相」と言われたままでは終われない。
「分かりました。……最高級の『骨付き肉』を焼きましょう」
俺は冷蔵室の奥から、とっておきの肉塊を取り出した。
牛の背肉を、あえて肋骨ごと切り出した巨大な塊。
その形状がネイティブアメリカンの斧に似ていることから、**『トマホーク・ステーキ』**と呼ばれる部位だ。
重さは優に1キロを超える。
「ほう……悪くない大きさだ」
イグニスが少しだけ興味を示した。
だが、ただ焼くだけではドラゴンの舌は唸らせられない。
彼らは火の達人だ。生半可な焼き加減では「生焼け」か「黒焦げ」と罵られるだろう。
だからこそ、**『香り』**で勝負する。
「使うチップはこれだ。『ウイスキーオーク』」
古くなったウイスキーの熟成樽を砕いたチップだ。
これには、長年染み込んだ洋酒の甘く芳醇な香りと、樽材の重厚な香りが凝縮されている。
「表面を強火で焼き固める(リソレ)! 肉汁を一滴も逃すな!」
ジュウウウウゥッ!!
巨大なフライパンからはみ出るほどの肉を焼き、メイラード反応を起こす。
そして、即座にミスリル窯へ投入。
「設定温度、110度。時間は40分。……『内部浸透燻』!」
魔力を込める。
ミスリル窯の機能により、煙が肉の分子レベルまで浸透していく。
ウイスキーの豊潤なアロマが、赤身肉の鉄分と脂の甘みと融合する。
低温でじっくり火を通すことで、中心部は鮮やかなレアを保ちつつ、決して生臭くない「熟成された生」の状態を作り出す。
――40分後。
冒険者たちが固唾を飲んで見守る中、俺は窯を開けた。
ブワァァァッ……!
立ち昇ったのは、まるで最高級のブランデーを開封したかのような、甘く、酔わせるような香り。
そして、現れたのは――。
原始的な骨付き肉。
しかし、その表面は美しい飴色に輝き、骨の髄から滲み出た旨味成分が、表面でパチパチと音を立てていた。
「お待たせしました。『特大トマホーク・ステーキのウイスキー樽燻製』です」
ドンッ!
皿からはみ出す肉塊を置く。
ナイフとフォーク? そんなものは無粋だ。
「骨を持って、そのままかぶりついてください」
イグニスは目を細め、熱々の骨を素手で掴んだ。
「……ふん。人間にしては、豪快な真似をする」
彼女は大きな口を開け、1キロの肉塊に喰らいついた。
ガブッ、ミチィッ……!
分厚い肉が引き裂かれる音。
その瞬間、イグニスの動きが止まった。
「……!」
口の中に溢れたのは、熱い血の滴るような肉汁。
だが、そこに「獣臭さ」は皆無だ。
ウイスキーオークの甘美な香りが、肉の野性味を「高貴な味わい」へと昇華させている。
噛むたびに、熟成酒のような余韻と、濃厚な脂の旨味が脳髄を揺さぶる。
「……なんだ、これは」
イグニスが呟く。
「焼いただけではない。……煙だ。煙が、肉の中で踊っている……!」
彼女は一心不乱に肉を貪り始めた。
骨の周りの、一番美味しいスジ肉まで、強靭な顎で噛み砕き、しゃぶり尽くす。
その姿は、人の形をしていても、間違いなく「捕食者」のそれだった。
わずか数分で、巨大なトマホークは綺麗な骨だけになった。
「……ふぅ」
イグニスが艶っぽく唇を舐める。
その表情からは、険しい殺気は消え、代わりに恍惚とした満足感が浮かんでいた。
「……認めよう。貴様の燻製とやらは、我ら竜の火よりも奥深い」
彼女は懐から、キラキラと輝く『赤い鱗』を一枚取り出し、カウンターに置いた。
「代金だ。……釣りはいらん。その代わり」
彼女はニヤリと笑い、セシリアと俺を交互に見た。
「我もこの店の『常連』になる。……次にまた、極上の肉を用意しておけ。よいな?」
言い残すと、彼女は風のように去っていった。
残されたのは、国宝級の価値がある『赤竜の鱗』と、放心状態の店内。
「……カオル様」
「なんだ、エリアーナ」
「……私のお店、どうなっちゃうんでしょうか……」
王族、騎士団長、そしてドラゴン。
もはや『森の燻製工房』は、この大陸で最も危険で、最も美味い場所になってしまったようだ。
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トマホークステーキ!
骨付きのリブロース、いわゆる「マンガ肉」のリアル版です。
これをウイスキー樽のチップで燻すと、本当にお酒の香りが移って、高級ホテルの鉄板焼きをも超える味になります。
ドラゴンも納得のワイルド&ラグジュアリー。
さて、ついに最強種まで餌付けしてしまったカオル。
置いていかれた「竜の鱗」は、武具にすれば一国が買えるレベルの代物ですが、カオルはこれをどう使うのか?(たぶん、調理器具の強化に使います)
そして次回、物語は新章へ!
これだけ目立てば、当然「悪い奴ら」も動き出します。
店の権利を狙う巨大商会、あるいは王宮内の暗闘?
いえ、まずは――増えすぎた従業員(居候)たちの「賄い飯」問題から解決しなければ!?
「トマホーク美味そう!」
「イグニス様かっこいい!」
「竜の鱗で支払いとかw」
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