第38話 『女騎士団長、ウェイトレスに転職(?)する。客が震え上がる店内で、黄金の「燻製半熟卵とたくあんのポテトサラダ」』
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前回、王宮騎士団長セシリア・オルコット(氷の剣聖)が、王女の護衛という名目で『森の燻製工房』に常駐することになりました。
王室御用達の看板に、最強の騎士。
これでもう、工房のセキュリティは万全!……かと思いきや?
「いらっしゃいませ(殺気)」
一流の騎士は、接客に関してはポンコツだった!?
客足が遠のきかけた店を救うのは、庶民の味方・ポテトサラダ。
ただし、カオルの手にかかれば、それはメインディッシュをも凌駕する「酒泥棒」に変わります。
カリカリ、トロトロ、ポリポリ。食感のオーケストラをお楽しみください!
『森の燻製工房』に新たな(押しかけ)従業員が増えてから数日。
店は、奇妙な緊張感に包まれていた。
「……き、貴様。注文は決まったか?」
ホールに低い声が響く。
銀色の軽鎧にエプロンをつけたセシリアが、テーブルの客を睨み下ろしていた。
彼女に悪気はない。ただ、長年の騎士生活で染み付いた「威圧感」が、どうしても漏れ出てしまうのだ。
「ひぃっ! ビ、ビールと枝豆で! すぐ帰りますから命だけは!」
「ふむ。迅速な撤退判断、悪くない。……厨房に伝達する!」
客たちは震え上がり、回転率はかつてないほど上がっているが、これではリピーターがつかない。
カウンターの中で、エリアーナが困ったように眉を下げた。
「カオル様……セシリアさん、真面目すぎて怖がられています……」
「ああ……。騎士団長に給仕をさせるのは、さすがに無理があったか」
俺は苦笑しながら、仕込みの手を動かした。
彼女の堅苦しさを解きほぐし、客にも「この店は安全で美味い」と思わせるメニューが必要だ。
気取った料理じゃない。
もっと親しみやすく、それでいて酒が進んで仕方がないやつ。
「よし。今日のオススメは『ポテトサラダ』で行くぞ」
「ポテトサラダ、ですか? 家庭料理の?」
エリアーナが首を傾げる。
確かにポテトサラダは一般的だ。だが、燻製屋が本気で作れば、それは化ける。
「ただのポテサラじゃない。……『大人の燻製ポテサラ』だ」
俺は、あらかじめ仕込んでおいた二つの「燻製食材」を取り出した。
一つは、半熟に茹でた卵を、殻をむいて醤油ダレに漬け込み、15度の冷燻で香り付けした『燻製半熟煮玉子』。
もう一つは――。
「えっ? カオル様、それは……お漬物?」
「ああ。この国では『ラディッシュの塩漬け』だが、東の国では『たくあん』に近いな」
俺は、パリパリに乾燥させた大根の漬物を、桜のチップで強めに燻しておいた。
秋田名物『いぶりがっこ』の再現だ。
「ポテトサラダの極意は『食感』のコントラストだ」
俺は蒸したての男爵イモをボウルに入れ、熱いうちにマッシュする。
完全に潰さず、ゴロゴロとした塊を残すのがポイントだ。
そこに、下味の酢と砂糖、黒胡椒。
そして、刻んだ『燻製たくあん』と、カリカリに焼いた『燻製ベーコン』を大量に投入する。
「マヨネーズは少なめ。代わりに、燻製オリーブオイルで滑らかさを出す」
最後に、黄金色に輝く『燻製半熟煮玉子』を丸ごと一個、サラダの上に鎮座させる。
「セシリア! オーダーだ!」
「ハッ! 直ちに配膳する!」
セシリアがカツカツと足音を立ててやってくる。
俺は完成した皿を渡した。
「これを3番テーブルへ。……あ、その前に、セシリアも一口味見してみろ」
「なっ、勤務中につまみ食いなど……!」
「『毒見』だと思えばいい。商品の説明もできないと困るだろ?」
俺は小皿に取り分けたポテトサラダを、彼女の口元に差し出した。
セシリアは渋々、スプーンを口に運ぶ。
パクッ。
その瞬間、彼女の青い瞳が丸くなった。
「……んんッ!?」
モグモグと動く口が止まらない。
ホクホクのジャガイモの甘み。
その中で、燻製たくあんの「ポリポリ」とした小気味よい食感と、燻製の香ばしさが弾ける。
さらに、半熟卵を崩せば、ねっとりとした黄身がソースのように絡み合い、ベーコンの塩気が全体を引き締める。
「……なんだ、この食感は……! 芋は柔らかいのに、時折現れるカリカリとした歯ごたえが心地いい! 煙の香りが鼻を突き抜けて……こ、これは、酒が欲しくなる……!」
「そうだろ? これを食べれば、客も笑顔になる。……セシリア、その顔で運ぶんだ」
「その顔……?」
エリアーナが手鏡をセシリアに見せた。
鏡の中の彼女は、美味しさのあまり、頬を緩ませてとろけるような「ふにゃふにゃ笑顔」になっていた。
氷の剣聖の面影はどこにもない。
「っ~~~!!///」
「さあ、行ってこい!」
顔を真っ赤にしたセシリアは、しかし覚悟を決めてホールへ出た。
震える客の前に皿を置く。
「お、お待たせした……。その……店主の自信作だ。……とても、美味しかったから……食べてみてほしい」
少し恥ずかしそうに、しかし心からの笑顔で薦めるセシリア。
そのギャップに、客たちは目を奪われた。
「え、あの怖い騎士様が笑った?」
「うわ、このポテサラ美味すぎ! 卵とろとろ!」
「姉ちゃん、こっちにも一つ! 酒も追加だ!」
店内が一気に活気づく。
美味しい料理と、可愛い(ポンコツ)店員。
最強の組み合わせだ。
「ふぅ……。なんとか回ったな」
俺が安堵していると、ロロが尻尾を振って厨房に入ってきた。
「ご主人様! お店の外に、なんか強そうな人たちが並んでます!」
「強そうな人たち?」
窓から外を見ると、大きなリュックを背負い、剣や杖を持った集団が行列を作っていた。
彼らは噂を聞きつけた『冒険者』たちだ。
「おい、ここが『腐らない肉』を作る店か?」
「ダンジョンに持って行ける燻製があるって聞いたぞ!」
王宮での一件、そして騎士団長の常駐。
その噂は、街一番の情報通である冒険者ギルドにも飛び火していたらしい。
どうやら次は、店の中だけじゃなく、「外の世界」への携帯食料需要が爆発しそうだ。
「……忙しくなりそうだ」
俺はミスリル窯を撫でた。
次は、過酷な冒険のお供を作る番か。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
いぶりがっこ(燻製たくあん)のポテトサラダ!
これ、居酒屋で見かけると絶対に頼んでしまいます。
ポリポリとした食感と燻香が、マヨネーズと相性抜群なんですよね。
半熟卵を崩す瞬間もたまりません。
さて、セシリアも無事に(?)看板娘として定着しました。
そして次なる客層は「冒険者」。
彼らが求めるのは、美味しくて、かつ長持ちして、バフ効果もあるような「究極の携帯食」?
次回、ダンジョン攻略の常識を覆す、「ワンハンド燻製」が登場します!
ジャーキー? ソーセージ? いえいえ、もっと凄いものを作ります!
「ポテサラで酒飲みたい!」
「セシリアさん可愛い!」
「冒険者編楽しみ!」
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