第37話 『氷の女騎士団長と、熱々の誘惑。とろとろに溶ける「丸ごとカマンベールの燻製」と厚切りベーコン』
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前回、王宮での大役を果たし、意地悪な大臣を成敗したカオルたち。
しかし、その帰り道に立ち塞がったのは、王国最強の騎士団長・セシリアでした。
「王女誘拐」の疑いをかけられ、剣を突きつけられる絶体絶命のピンチ。
カチコチに凍りついた彼女の心を溶かすのは、説得でも魔法でもありません。
外はパリッ、中はトロッ。
熱を加えることで最強の破壊力を持つ「チーズの燻製」です。
深夜の道端で行われる、背徳の飯テロ回、スタートです!
王宮からの帰り道、月明かりの下。
俺たちの馬車の前には、銀色の鎧を纏った美しい女性が立ちはだかっていた。
「……問答無用。その馬車から王女殿下を下ろせ」
冷徹な声と共に、切っ先が俺の喉元に向けられる。
彼女はセシリア・オルコット。
王宮騎士団長にして、『氷の剣聖』の異名を持つこの国最強の剣士だ。
エリアーナ(王女)の護衛役であり、彼女が失踪してから血眼になって探していたらしい。
「セシリア! 待ってください! 私は誘拐されたのではありません! 自分の意志で……」
エリアーナが馬車から飛び出し、俺を庇うように前に出る。
だが、セシリアの青い瞳は揺らがない。
「姫様、騙されてはいけません。平民が王族をたぶらかすなど、何らかの洗脳魔術を使っているに違いない。……この男を斬り捨て、目を覚まさせて差し上げます」
殺気。
本気だ。このままでは問答無用で斬られる。
ロロが唸り声を上げて臨戦態勢に入るが、相手は剣聖。勝てる保証はない。
(……力尽くじゃ無理だ。なら、別の方法で武装解除させるしかない)
俺は、セシリアの顔をじっと見た。
整った顔立ちだが、目の下には濃いクマがある。頬も少しこけている。
エリアーナを探して、何日も寝ずに走り回っていたのだろう。
そして何より――。
グゥゥゥゥゥ~~~……。
静寂な夜道に、可愛らしい音が響いた。
セシリアの顔が、瞬時に真っ赤に染まる。
「……失礼。武人の嗜みとして、空腹など……」
「腹が減ってるんですね?」
「なっ、無礼な! 私は姫様を取り戻すまで、食事など……」
図星だ。
極度の緊張と疲労、そして空腹。
今の彼女に必要なのは、尋問ではない。カロリーだ。
「話をするにしても、腹が減ってはなんとやらです。……少し時間をください。悪いようにはしませんから」
俺は馬車の荷台を開けた。
そこには、王宮から持ち帰ったばかりの『ミスリル製・魔導燻製窯』が積んである。
まだ窯の中には余熱が残っていた。
「な、何を始める気だ? 武器を取り出せば斬るぞ!」
「ただの夜食作りですよ」
俺が取り出したのは、丸い木箱に入った『カマンベールチーズ』と、自家製の『ブロックベーコン』。
疲れた脳と体には、脂と塩分、そして旨味が一番効く。
「いくぞ、ロロ。……『カマンベールベーコン』だ」
俺はチーズの上面に十字の切り込みを入れ、黒胡椒を振る。
そして、厚切りにしたベーコンをフライパンでカリカリに焼き、その脂ごとチーズの上に乗せた。
これをアルミホイルの皿に乗せ、ミスリル窯へ放り込む。
「設定温度、120度。『熱燻』で一気に香りを纏わせる!」
使うチップは『サクラ』。
短時間で強い香りがつき、チーズのコクを引き立てる王道のチップだ。
「き、貴様……ふざけているのか? 私は今、公務の最中で……」
セシリアが怒りの声を上げようとした、その時だった。
ジュワワワワァァァ……!
窯の通気口から、暴力的な香りが噴き出した。
焼けたベーコンの香ばしい匂い。
そして、熱せられたチーズ特有の、濃厚でクリーミーな乳製品の香り。
サクラのチップの甘い煙がそれらを包み込み、夜風に乗ってセシリアの鼻腔を直撃した。
「っ……!?」
セシリアの喉が、ゴクリと鳴る。
剣を持つ手がわずかに下がった。
「はい、お待ちどうさま」
わずか10分。
俺は窯を開け、熱々の皿を取り出した。
そこにあるのは、破壊の化身。
白かったカマンベールチーズは、煙に燻されて美味しそうなキツネ色に染まっている。
そして十字の切れ込みからは、マグマのようにトロトロになった中身が溢れ出し、上のカリカリベーコンを飲み込もうとしていた。
「『丸ごとカマンベールの燻製・ベーコン添え』です。……毒なんて入ってませんよ。姫様も食べるものですから」
俺はバゲットを薄く切り、そのトロトロのチーズにつけて差し出した。
「た、食べるものか……! 私は騎士として……」
「セシリア、あーん」
エリアーナが横からバゲットを奪い、セシリアの口元へ持っていく。
王女直々の「あーん」を、騎士が拒否できるはずもない。
セシリアは真っ赤になりながら、恐る恐る口を開けた。
ハフッ。
熱々のチーズが口の中に入った瞬間。
彼女の「氷」の仮面が砕け散った。
「んんッ!? ……熱ッ、でも……うまぁ……!?」
燻製のスモーキーな香りが鼻に抜けた直後、濃厚なチーズのコクが舌の上で爆発する。
カリカリベーコンの塩気が、甘みすら感じるチーズと絡み合い、噛めば噛むほど旨味が溢れ出す。
「なんだこれは……! チーズなのに、外側はパリッとしていて、中はスープのように……! 煙の香りが、疲れた体に染み渡るようだ……!」
「ほら、ワインもありますよ」
俺はすかさず、安物だが飲みやすい赤ワインを渡した。
濃厚なチーズには、赤ワインが鉄板だ。
彼女はもう止まらなかった。
バゲットにチーズをたっぷりと絡め、ベーコンを乗せ、口に放り込み、ワインで流し込む。
「はふっ、はふっ……! こんな……こんな美味しいものが、世の中に……!」
鬼の形相だった騎士団長は、今はただの「お腹を空かせた女の子」になっていた。
あっという間にチーズを完食した彼女は、我に返ってハッとした。
「……はッ!? わ、私は何を……敵の施しを受けるなど!」
「敵じゃありませんよ。……ね? 姫様は元気でしょう?」
俺が笑うと、セシリアはバツが悪そうに俯き、チラリとエリアーナを見た。
エリアーナは幸せそうに、残ったチーズの焦げ目を齧っている。
その笑顔を見て、セシリアは深い溜息をつき、剣を収めた。
「……負けだ。姫様がこれほど楽しそうに笑っておられるのを、城では見たことがない」
彼女は真剣な眼差しで俺を見た。
「カオル殿、と言ったか。……貴殿を誘拐犯と断定するのは保留とする。だが!」
「だが?」
「姫様の護衛として、そして……この料理の監視役として! 私も貴殿の店に常駐させてもらう! い、いいな!?」
顔を真っ赤にして宣言するセシリア。
要するに、「またこれを食べさせろ」ということらしい。
ロロが「ライバルが増えましたぁ」と呑気に尻尾を振った。
こうして、王宮騎士団長までもが、『森の燻製工房』の常連(監視役)として加わることになったのだった。
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カマンベールチーズの燻製!
これ、本当に「悪魔の食べ物」です。
普通のチーズより、熱燻で外の皮をパリッとさせて、中を溶かした時の破壊力は桁違い。
バゲットもワインも一瞬で消えます。
さて、まさかの「騎士団長、駐在決定」。
王女、犬耳娘、そして女騎士。
工房の戦力(と食費)がとんでもないことになってきました。
次回、セシリアが店に加わったことで、街のゴロツキやクレーマーも裸足で逃げ出す「最強のセキュリティ」が完成?
そして、カオルは新たな「酒のつまみ」開発へ!
「チーズとろとろ最高!」
「チョロい女騎士かわいいw」
「飯テロの火力が上がってる」
と、夜中にチーズが食べたくなった方は、ぜひブックマークと☆☆☆☆☆の評価で、カオルの次回作を予約してください!
よろしくお願いいたします!




