表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/44

第36話 『国王の涙と大臣の誤算。靴底のはずの肉が、口の中で解ける「魔法のゼリー」に変わる時』

 いつも熱い応援、本当にありがとうございます!

 前回、財務大臣ホフマンの嫌がらせにより、メインディッシュに「廃棄寸前の硬いスネ肉」をあてがわれてしまったカオル。

 しかし、ミスリル窯による「65度・6時間」の膠質融解燻ゼラチン・メルトは、そのピンチを最大のチャンスに変えていました。

 いよいよ実食です。

「あんなゴム肉、噛めるわけがない」と嘲笑う大臣。

 食欲を失い、死んだような目をしている国王陛下。

 その目の前に、プルプルと震える肉塊が置かれます。

 ナイフ不要。唇で切れる奇跡のローストビーフ、解禁です!

 王宮の大広間には、重苦しい空気が漂っていた。

 煌びやかなシャンデリアの下、長いテーブルの最奥に座る国王陛下は、土気色の顔で頬杖をついている。

「……ヴァルジェスよ。また肉か。余は、脂の匂いを嗅ぐだけで吐き気がすると言ったはずだ」

 陛下のか細い声に、隣に控えるホフマン大臣が意地悪く口角を上げた。

「陛下、申し訳ございません。料理長がどうしても、と申すものですから。……もっとも、用意された肉は『アレ』ですが」

 ホフマンは俺の方を見て、小馬鹿にするように鼻を鳴らした。

 彼の目には、「早く失敗して処刑されろ」と書いてある。

「……お持ちしました。本日のメインディッシュ、『熟成スネ肉の・とろける燻製ロースト』です」

 俺は静かに、陛下の前に皿を置いた。

 エリアーナが震える手で、付け合わせのクレソンを添える。

「スネ肉……だと?」

 陛下が眉をひそめた。

 当然だ。スネ肉といえば、硬くてスジ張った下等な部位。病弱な王に出す食材ではない。

 周囲の貴族たちからも、「なんと無礼な」「正気か?」とざわめきが起こる。

「くくっ……陛下、ごらんなさい。料理長も焼きが回ったようです。あんな岩のような肉を出してくるとは!」

 ホフマンが勝ち誇ったように叫んだ。

 だが、次の瞬間。

 俺がナイフとフォークを使い、肉を切り分けようとした時だった。

 フルンッ。

「……あ?」

 会場の空気が止まった。

 ナイフを入れた肉が、まるでプリンのように揺れたのだ。

 硬いはずの繊維が、何の抵抗もなく離れていく。

「……陛下。どうぞ、一口だけでも」

 俺は切り分けた肉に、燻製醤油のソースを絡めて差し出した。

 陛下は疑わしげに口を開き、その肉を含んだ。

 その刹那。

「――――ッ!!?」

 陛下の目が、カッと見開かれた。

 咀嚼そしゃくしようと顎に力を入れた瞬間、肉が「消えた」のだ。

 硬いスジだった部分は、長時間の低温調理でゼラチン質へと変化し、体温で溶け出すスープの爆弾になっていた。

 口の中に溢れ出すのは、とろとろに甘いコラーゲンの奔流。

 そして、赤身肉の濃厚な旨味。

 鼻に抜けるローズマリーとヒッコリーの香りが、獣臭さを完全に消し去り、食欲中枢を直接殴りつける。

「……なんだ、これは……」

 陛下の手が震え出した。

「肉だ……間違いなく肉の味がする……。だが、脂っこくない。噛む必要もない。飲み込んだ先から、身体の芯に力が湧いてくるようだ……!」

 カチャカチャカチャッ!

 信じられない光景だった。

 食欲不振で一口も食べられなかったはずの陛下が、自らフォークを握り、猛烈な勢いで肉を口に運び始めたのだ。

「美味い! 美味いぞ! 燻製の香りが、胃を動かす! もっとだ、もっと持ってこい!」

「ば、馬鹿な……!? アレは『岩肉』だぞ!?」

 ホフマン大臣が狼狽うろたえて叫んだ。

「ありえん! スネ肉など、兵士の靴底にするようなゴミではないか! なぜ陛下が喜んでおられる!?」

 その言葉は、完全に失言だった。

 ピタリ、と陛下のナイフが止まった。

 陛下はゆっくりと顔を上げ、これまでとは別人のような、精気に満ちた鋭い眼光でホフマンを射抜いた。

「……ホフマンよ。今、なんと申した?」

「ひっ……!」

「そちは知っておったのか? 余の膳に、靴底のような肉を用意したと」

「あ、いえ! それは……その、予算が……!」

「黙れッ!!」

 ドンッ!! と陛下がテーブルを叩いた。

「余が食えぬと分かっていて、粗悪な肉をあてがい、料理長を陥れようとしたな? ……だが、見よ。この皿を」

 皿の上は、ソースの一滴まで拭い去られ、空になっていた。

「この料理人は、そちが『ゴミ』と呼んだ肉を、余にとって『至高の活力』へと変えてみせた。……素材の悪さを言い訳にしなかったのだ。それに引き換え、貴様はなんだ?」

「へ、陛下……お慈悲を……!」

「衛兵! この男を連れ出せ! 後のことは法務官に任せる!」

 ズルズルと引きずられていく大臣。

 会場は静まり返り、やがて、割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 ヴァルジェス料理長が、涙を流して俺に頭を下げている。

「礼を言うぞ、燻製屋のカオルよ。……して、そこの助手も」

 陛下が、不意に俺の後ろにいるエリアーナに目を向けた。

「……そのソースの味。……昔、亡き妻がよく作ってくれた、王家の隠し味(フルーツの配合)に似ておったな」

 ギクリ、とエリアーナが肩を跳ねさせた。

 フードの下で、彼女もまた泣いているのが分かった。

 陛下はそれ以上何も言わず、ただ優しく微笑んだ。

「身体が熱い。力がみなぎるようだ。……褒美を取らせる。カオルよ、望みのものを申すがよい」

 俺はロロとエリアーナと顔を見合わせた。

 望みのもの。

 金貨? 地位?

 いや、俺たちが欲しいのは、そんなものではない。

「陛下。もし叶うなら……」

 俺は、工房の未来を左右する「ある許可」を願い出た。

 それは、街の小さな燻製屋が、王室御用達ロイヤル・ワラントの看板を掲げること。

 そして――。

「……当店の従業員エリアーナを、今後も自由に働かせてやってください」

 陛下は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにフードの「助手」を見て、深く頷いた。

「よかろう。……その店の燻製ならば、余もまた食べたいからな」

 こうして、王宮での波乱の晩餐会は幕を閉じた。

 悪徳大臣は消え、俺たちは「王家公認」という最強の盾を手に入れた。

 だが、これで一件落着……とはいかないのが世の常だ。

 王宮からの帰り道。

 俺たちの馬車の前に、一人の美しい女性騎士が立ちはだかった。

「そこまでだ、燻製屋。……貴様、王女殿下を誘拐しているな?」

 銀色の髪、冷ややかな青い瞳。

 それは、エリアーナを探し回っていた王宮騎士団長、『氷の剣聖』セシリアだった。

 最大の味方を得た直後に、最強の敵(物理)が現れる。

 やはり、俺のスローライフはまだまだ遠いらしい。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 ざまぁ&大勝利!

 ホフマン大臣、自爆にて退場です。

 そして、スネ肉のゼラチン質が溶ける描写……書いていてお腹が空きました。

 硬い肉がプルプルになる瞬間は、料理をしていて一番感動する時の一つです。

 さて、感動の親子再会(未遂)を経て、ハッピーエンドかと思いきや……。

 まさかの「誘拐犯」扱い!?

 現れたのは、堅物で有名な女騎士団長。

 物理攻撃力最強の彼女に対し、カオルはどう立ち向かうのか?

 燻製で剣聖を懐柔できるのか?(チョロい予感しかしませんが!)

 次回、VS女騎士編、スタートです!

「陛下かっこいい!」

「スネ肉食べたい!」

「女騎士キタ――(゜∀゜)――!!」

 と、カオルの快進撃を祝ってくださる方は、ぜひブックマークと☆☆☆☆☆の評価をお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ