第35話 『王宮の厨房と意地悪な大臣。すり替えられた廃棄肉、そしてミスリル窯の「超・長時間熟成」』
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前回、宮廷料理長ヴァルジェス氏の依頼を受け、国王陛下を救うために王宮へ向かうことになったカオル一行。
しかし、正体を隠したいエリアーナ(聖女)にとっては、そこは虎の穴。
彼女はフードを目深に被り、「助手のエリ」として同行することに。
そして王宮の厨房で待ち受けていたのは、予想通りの「洗礼」でした。
「えっ、これがメインディッシュの肉!?」
靴底のように硬いスジ肉を前に、カオルが不敵に笑います。
逆境こそが燻製の最高の隠し味。
カチカチの肉が、ゼリーのように震える肉塊へと変わる魔法をご覧ください!
王都の中心にそびえ立つ白亜の巨城。
その通用門を、俺とロロ、そして目深にフードを被ったエリアーナの三人がくぐった。
「うぅ……広いですぅ。迷子になりそうです」
「しっ。ロロ、静かに。……カオル様、私はあくまで『助手』ですからね。絶対に名前を呼ばないでください」
エリアーナはガチガチに緊張している。
どうやら彼女にとって、ここは実家……いや、因縁の場所らしい。
案内されたのは、王宮の裏手にある広大な調理場。
そこには、料理長のヴァルジェスさんと、何やら意地の悪そうな恰幅のいい男――財務大臣のホフマンが待ち構えていた。
「よく来たな、カオル殿! 準備は万端だ!」
ヴァルジェスさんが俺の手を握る。
だが、横に立つホフマン大臣は、ハンカチで鼻を押さえながら冷ややかな視線を向けてきた。
「ふん。どこの馬の骨とも知れぬ燻製屋が、陛下の誕生祭のメインとはな。……おい、例の食材を持ってこい」
大臣の合図で、兵士たちが巨大な木箱を運んできた。
俺が事前にリクエストしたのは、最高級の『赤身ランプ肉』。
適度な柔らかさと、濃い肉の味が特徴のはずだ。
しかし。
木箱の中身を見た瞬間、ヴァルジェスさんが絶句した。
「なっ……!? なんだこれは!?」
そこに入っていたのは、黒ずんだ赤色をした、スジだらけの巨大な肉塊。
どう見てもランプではない。これは――。
「『ロック・バッファロー』のスネ肉……? しかも、かなり年老いた個体の……」
俺が呟くと、ホフマン大臣はわざとらしく肩をすくめた。
「おや、手違いがあったかな? だが予算の都合でね、用意できたのはそれだけだ。文句があるなら帰っていいぞ? その代わり、ヴァルジェス料理長、君の任命責任も問わせてもらうがね」
完全にハメられた。
ロック・バッファローのスネ肉は、別名『岩肉』。
煮込んでも焼いてもゴムのように硬く、兵士の保存食(干し肉)くらいにしか使われない、いわば「廃棄寸前」の食材だ。
食欲のない国王にこれを出せば、間違いなく激怒される。
これは俺への嫌がらせというより、ヴァルジェスさんを失脚させるための罠だ。
「……ホフマン殿! あんまりだ! これでは料理にならん!」
「おやおや、プロならどんな食材でも美味しくするのが仕事でしょう?」
大臣がニヤニヤと笑う。
ヴァルジェスさんが悔しさで震える中、俺は――肉塊をペタペタと触り、ニヤリと笑った。
「……大丈夫ですよ、料理長」
「カ、カオル殿!? 正気か!? その肉はナイフも通らんぞ!」
「ええ。普通に焼けば、の話です」
俺はロロとエリアーナに目配せをした。
二人はすぐに理解し、テキパキと準備を始める。
「大臣。この肉で構いません。ただし、調理に文句はつけないでくださいね」
「ふん、強がりを。靴底のような肉を出して、処刑されるがいい」
大臣は高笑いをして厨房を出て行った。
邪魔者は消えた。
さあ、燻製屋のショータイムだ。
「ロロ、下処理だ! 肉の表面をフォークで刺しまくれ!」
「はいっ! 滅多刺しにしますぅ!」
「エリアーナ、特製マリネ液の準備を!」
「はい! 玉ねぎのすりおろしと、蜂蜜、赤ワイン、そして……パイナップルの果汁ですね!」
硬い肉を柔らかくする方法。
それは『酵素』の力と、『低温』の時間だ。
俺たちはスネ肉をマリネ液に漬け込み、真空状態にして揉み込む。
玉ねぎとパイナップルの酵素が、強固なタンパク質の結合をズタズタに分解していく。
そして、真打登場。
俺は持ち込んだ『ミスリル製・魔導燻製窯』を設置した。
「スネ肉にはスネ肉の戦い方がある。こいつには『コラーゲン』が大量に含まれているんだ」
硬さの原因であるスジ(コラーゲン)は、長時間加熱することで『ゼラチン』へと変化する。
そうすれば、トロトロにほどける極上の食感に変わるのだ。
だが、普通の煮込みでは味が抜けてしまう。
だからこそ――燻製だ。
「設定温度、65度。時間は6時間」
チップは、香りの強い『ヒッコリー』と、肉の臭みを消す『ローズマリー』。
ミスリル窯の完全密閉機能により、水分を一切逃さず、圧力鍋のように内部まで熱を伝える。
《スキル【燻製マスター】Lv.3:『膠質融解燻』》
《低温でコラーゲンのみを選択的に融解させ、肉汁をゼラチン質でコーティングして内部に封じ込めます》
――数時間後。
厨房の外まで、暴力的なまでに美味そうな香りが漏れ出し始めていた。
様子を見に来た大臣の手下が、扉の隙間から涎を垂らして覗いているのが見える。
「……仕上げだ」
俺は窯から肉を取り出した。
黒ずんでいた『岩肉』は、艶やかな飴色の塊へと変貌していた。
見た目は巨大なハムのようだ。
俺はそれをフライパンに移し、表面だけを強火で焼き上げ、香ばしさをプラスする。
「よし……切るぞ」
包丁を入れる。
抵抗は……ゼロ。
スッ……。
刃の重みだけで、分厚いスネ肉が切断された。
断面は、鮮やかな薔薇色。
網の目のように入り組んでいた硬いスジは、すべて透明なゼリー状に溶け出し、肉の繊維の間でキラキラと輝いている。
「なんという……美しさだ……」
ヴァルジェスさんが呆然と呟く。
一切れ味見したロロが、目を丸くして叫んだ。
「はうぅッ! お肉が……お肉がほどけますぅ! 噛んでないのに、口の中でホロホロになって……濃厚なスープみたいです!」
ただの赤身よりも、ゼラチン質を含んだスネ肉の方が、旨味の爆発力は上だ。
大臣の嫌がらせが、皮肉にも最強のローストビーフを生み出してしまった。
「さあ、時間だ。陛下のもとへ運ぼう」
俺は皿を手に取った。
エリアーナが、祈るように胸の前で手を組む。
次はいよいよ、晩餐会本番。
食欲のない王と、意地悪な大臣の前で、この「元・廃棄肉」がどんな奇跡を起こすのか。
大扉の向こうから、ファンファーレが聞こえてきた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「硬い肉ほど、化けた時に美味い」
これは煮込み料理やBBQの鉄則ですが、ミスリル窯の低温調理×燻製なら、スネ肉が一番の御馳走になります。
プルプルのゼラチン質と、燻製の香りが染み込んだ赤身……想像しただけでお酒が進みます。
さて、次回はいよいよ実食!
「こんなゴミ肉が食えるか!」と嘲笑う大臣。
しかし、一口食べた国王陛下の反応は……?
そして、エリアーナの正体に気づく者が!?
爽快な「ざまぁ」と、感動の「完食」シーン。
そして物語が大きく動く第36話へ続きます!
「飯テロすぎる!」
「スネ肉のローストビーフ食べてみたい!」
「大臣の顔色が青くなるのが楽しみw」
と、肉の仕上がりに期待してくださる方は、ぜひブックマークと☆☆☆☆☆の評価で、カオルの配膳を手伝ってください!
よろしくお願いいたします!




