第34話 『宮廷からの使者。拒食の国王陛下と、箸で切れる「極厚・熟成燻製ローストビーフ」』
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前回、美食ギルドのガストンシェフを「真鯛の加圧燻製」で黙らせたカオルたち。
その噂は、瞬く間に王都中枢へと届いていました。
今回のお客様は、ついに「ラスボス」級。
国の食卓を預かる【宮廷料理長】が、お忍びではなく、正規の使者として工房を訪れます。
突きつけられた難題は、「肉を受け付けなくなった国王陛下に、極上の肉料理を食わせろ」。
脂っこいものはNG。でも精のつくものを。
そんな矛盾を解決するのは、ミスリル窯による「低温熟成」と、赤身肉の最高峰です。
肉汁したたるローストビーフ回、スタートです!
美食ギルドとの一件以来、『森の燻製工房』の評判は天井知らずだった。
「鮮度を超えた鮮度」と称された真鯛の燻製を求め、連日行列ができている。
そんなある日の午後。
店の前に、一台の豪華な馬車が停まった。
車輪には衝撃吸収の魔導サスペンション、扉には金箔の装飾。
明らかに、これまでの貴族客とは格が違う。
「……カオル様。あれは……王宮の馬車です」
窓から外を覗いたエリアーナが、サッと顔を青ざめ、厨房の奥へと引っ込んだ。
(……ん? エリアーナの様子がおかしいな?)
と思う間もなく、カランコロンとドアベルが鳴る。
現れたのは、白いコックコートに、勲章をつけた初老の男。
鋭い眼光だが、その瞳には深い疲労の色が滲んでいる。
前回の会場の2階席にいた、あの男だ。
「店主のカオル殿だな。私は王宮で料理長を務める、ヴァルジェスという者だ」
店内がざわつく。
「おい、ヴァルジェス様だぞ……」「伝説の料理人じゃないか」
客たちが恐縮して道を空ける中、彼はカウンター席に座り、深く頭を下げた。
「単刀直入に頼む。……力を貸してくれ」
「宮廷料理長が、俺のような市井の燻製屋に何の用でしょう?」
ヴァルジェスは重苦しく口を開いた。
「国王陛下のお加減が優れないのだ」
話を聞けば、国王は病気というわけではないが、加齢と公務のストレスにより、極度の「食欲不振」に陥っているという。
特に「肉」を受け付けない。
脂の匂いを嗅ぐだけで気分を害してしまう。
だが、医者は「体力を戻すために、滋養のある獣肉を摂らせろ」と言う。
「我々も、最高のヒレ肉を煮込んだり、蒸したりして提供した。だが、陛下は一口も召し上がらない。『脂が重い』『獣臭い』と……。このままでは、陛下が倒れてしまう」
ヴァルジェスは拳を握りしめた。
「先日、君の『真鯛の燻製』を見た。あの技術……香りで食欲を刺激しつつ、余分な脂を感じさせないあの魔法のような調理法なら、陛下を救えるのではないかと思ったのだ」
なるほど。
「コッテリした肉は嫌だ、でも肉を食わないと死ぬ」
わがままな話だが、命に関わる。
「わかりました。脂を感じさせず、かつ最高に柔らかい『肉料理』を作りましょう」
俺は厨房に入り、ロロに指示を出した。
「ロロ、とっておきの『熟成肉』を出すぞ」
取り出したのは、赤身の味が最も濃いとされる部位『ランプ』の塊肉。
これを一週間、乾燥熟成させておいたものだ。
「いいか、ロロ。老齢の方には、脂の甘みよりも『赤身の旨味』だ」
肉の表面を強火でサッと焼き、旨味を閉じ込める(リソレ)。
そして、ここからがミスリル窯の出番だ。
「設定温度、58度。誤差プラスマイナス0.1度」
使うチップは、香りが上品で癖のない『ブドウの古木』。
低温でじっくりと熱を入れながら、燻煙を纏わせる。
普通のローストビーフではない。
煙の成分で肉の繊維を極限まで解し、酵素の働きを活性化させる。
《スキル【燻製マスター】Lv.3:『低温熟成燻』》
《タンパク質分解酵素を活性化させ、肉を『飲み物』レベルまで柔らかく変質させます》
3時間後。
窯から出した肉は、美しい薔薇色に仕上がっていた。
余分な脂は燻製過程で落ちているが、肉汁は完全に保持されている。
俺はそれを厚切り――ステーキほどの厚さ――にカットし、皿に盛る。
ソースは、燻製醤油とワサビ、そしてすりおろした玉ねぎを煮詰めた『ジャポネソース』だ。
「どうぞ。試食を」
ヴァルジェスが、疑心暗鬼のままナイフを入れる。
その瞬間。
「……なっ!?」
ナイフの重みだけで、肉が切れた。
まるで豆腐か、柔らかいケーキのように。
口に運んだ彼が、目を見開いて固まる。
「…………」
「どうですか?」
「……消えた」
ヴァルジェスが震える声で呟いた。
「噛む必要がない……。舌の上で、肉が繊維の一本一本まで解けていく……。脂っこさは微塵もないのに、濃厚な肉の旨味と、ブドウの木の甘い香りが、口いっぱいに広がる……!」
彼は無我夢中で、厚切りの肉を平らげた。
食欲不振の王の話をしていた本人が、皿に残ったソースまでパンで拭って食べている。
「これだ……これなら、陛下も召し上がれる! いや、むさぼり食うはずだ!」
ヴァルジェスは立ち上がり、俺の手をガシッと握った。
「カオル殿! 正式に依頼する! 来週の『国王生誕祭』、メインディッシュはこの『燻製ローストビーフ』で頼む! 城へ来てくれ!」
「……城へ、ですか」
厨房の奥で、エリアーナが「ひっ」と息を呑む気配がした。
彼女の事情も気になるが、料理人として、この依頼を断る理由はなかった。
「謹んで、お受けします」
こうして、俺の『森の燻製工房』は、ついに国一番の晴れ舞台――王宮の晩餐会へと出張することになった。
だが、俺たちはまだ知らない。
その晩餐会には、食欲不振の王だけでなく、エリアーナを探す「ある人物」や、俺の燻製を敵視する大臣たちが待ち構えていることを。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ローストビーフ!
それも、58度という神の温度で管理された、極厚かつ激柔のやつです。
ワサビ醤油ベースのソースで食べると、白飯が無限に消えますよね。
宮廷料理長も陥落させ、いよいよ舞台は王城へ!
そして、厨房の奥に隠れたエリアーナ。
王宮の馬車を見て青ざめる彼女の正体とは?(まあ、読者の皆様はお察しかもしれませんが!)
次回、カオル一行、王都へ乗り込みます。
しかし、用意された厨房には、嫌がらせのような「ボロボロの食材」しかなくて……?
逆境からの大逆転劇、ご期待ください!
「ローストビーフ食べたすぎ!」
「低温調理×燻製は最強」
「エリアーナちゃん逃げてー!」
と、肉の断面のロゼ色に魅了された方は、ぜひブックマークと☆☆☆☆☆の評価で、カオルの王宮デビューを応援してください!
よろしくお願いいたします!




