第32話 『ミスリル窯の火入れ式! 丸鶏の燻製ローストチキンと、溢れ出す黄金の肉汁』
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前回、ドワーフの親方たちの手によって、厨房に鎮座することになった『ミスリル製・魔導燻製窯』。
今回はその性能テスト、いわゆる「火入れ式」です。
ターゲットは、丸々と太った『大森林の若鶏』。
普通のオーブンではパサつきがちな胸肉さえも、飲み物に変える魔法の調理。
パリッ、ジュワッ。
最高の音と香りを、皆様にお届けします!
「……すごい。熱が、完全に均一だ」
早朝の厨房。
俺は、新しく設置された銀色に輝く『ミスリル製・魔導燻製窯』の前で、感動に震えていた。
試しに火を入れただけだが、窯内部の温度計(魔導表示)は、ピタリともブレない。
以前の煉瓦窯では、場所によってムラがあり、常にチップの位置を調整する必要があったが、これなら「放置」でも完璧に仕上がる。
「ご主人様、すごい銀色……! 鏡みたいです!」
「カオル様、これで何を作るんですか?」
早起きしたロロとエリアーナも、新しい相棒に興味津々だ。
「こいつの性能を限界まで引き出す料理だ。……今日は『丸焼き』にするぞ」
俺が取り出したのは、ドノバン様から仕入れた『フォレスト・チキン』の丸鶏だ。
普通の鶏より一回り大きく、脂の乗りが良い。
これを昨晩から、塩、砂糖、ハーブ、黒胡椒、そして白ワインを混ぜた『ソミュール液』に漬け込んでおいた。
「まずは、腹の中に詰め物だ」
ニンニク、タマネギ、そして香りの強いローズマリーを鶏のお腹にぎっしりと詰め込む。
さらに、皮と肉の間に指を入れ、バターの塊を滑り込ませる。これが溶けて肉に染み込み、ジューシーさを加速させるのだ。
「いくぞ。点火!」
今回のチップは、鶏肉と相性抜群の『サクラ』と、甘い香りの『リンゴ』のブレンド。
ミスリルの扉を閉めると、カチリと心地よい音がして密閉された。
ここからが、この窯の真骨頂だ。
《スキル【燻製マスター】Lv.2:リンク接続》
《ミスリル窯の『熱伝導増幅』機能を確認。内部気圧を高め、圧力鍋に近い状態で『熱燻』を開始します》
普通の窯なら、高温で長時間燻すと水分が飛び、パサパサになってしまう。
だが、この窯は違う。
煙を逃さず、圧力をかけ、肉汁を繊維の一本一本に閉じ込めたまま、火を通すことができるのだ。
――60分後。
「……そろそろだ」
俺の言葉に、ロロが鼻をクンクンさせ、エリアーナがゴクリと喉を鳴らす。
俺は厚手の手袋をして、重厚な扉を開けた。
ブワァァァァァッ……!!
溢れ出したのは、厨房が白く染まるほどの濃厚な白煙。
そして、その奥から現れたのは――。
「「うわぁぁぁぁぁ……ッ!!」」
二人の歓声が重なった。
そこには、神々しいまでに輝く『黄金の鶏』が鎮座していた。
飴色の艶やかな皮は、パンパンに膨れ上がり、張り裂けんばかりだ。
表面を流れる脂が、キラキラと宝石のように光っている。
「完成だ。『丸鶏の圧力燻製ロースト』」
俺は大皿に鶏を乗せ、テーブルへ運んだ。
ナイフを入れる瞬間が、一番のショータイムだ。
「いくぞ」
ザクッ。
ナイフが皮を突き破る、軽快な音。
その直後だった。
ドバァァァァァッ……!!
「えっ!?」
「洪水ですぅ!?」
切っ先から、透明な肉汁が、まるで噴水のように溢れ出したのだ。
皿があっという間に脂の海になる。
肉の中に閉じ込められていた旨味のスープが、解放を求めて暴れ出したのだ。
「さあ、熱いうちに食べてくれ」
俺はモモ肉を切り分け、二人に渡した。
ロロは骨付き肉にかぶりつき、エリアーナはナイフで優雅に(しかし素早く)口へ運ぶ。
「パリッ……ハフッ、ハフッ……!」
ロロが目を丸くした。
「皮がパリパリで……おせんべいみたい! でも、中のお肉は……飲める!? お肉がとろけて、飲めますぅ!」
「んんっ……! 信じられません……!」
エリアーナも頬を染めて悶絶している。
「胸肉なのに……どうしてこんなにしっとりしているの? 噛むたびにハーブの香りと、燻製の甘い香りが口いっぱいに……。バターのコクも染み渡って……カオル様、これは『罪』な味です……」
俺も一口食べる。
……完璧だ。
ミスリル窯の熱対流が、骨の髄まで火を通しつつ、水分を一切逃していない。
燻香もしっかりと中心まで浸透している。
これなら、高級レストランのメインディッシュとしても通用する――いや、圧倒できる。
「おいおい! 朝からとんでもねぇ匂いさせやがって!」
その時、勝手口からドワーフのガルガン親方が顔を出した。
メンテナンスの確認に来たらしいが、その目は完全に鶏に釘付けだ。
「親方、いいところに。窯の性能、最高ですよ」
「だろ!? ……で、その鶏、味見させてくれるんだろうな?」
結局、親方と、匂いにつられてやってきたレイモンドまで加わり、即席の試食会(という名の宴会)が始まった。
巨大な丸鶏は、あっという間に骨だけになった。
「この窯があれば、作れる料理の幅が広がる」
俺は、銀色に輝く窯を愛おしく撫でた。
魚、肉、チーズ、ナッツ。
そしてこれからは、もっと手のかかる「煮込み燻製」や「長時間熟成」も可能になる。
『森の燻製工房』の第2章が、この黄金の鶏と共に幕を開けたのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ミスリル窯、恐るべし。
「肉汁の洪水」は、ローストチキンのロマンですよね。
皮のパリパリ感と、肉のジューシーさのコントラスト。そこに燻製の香りが加われば、もう敵なしです。
さて、設備もスタッフも揃い、向かうところ敵なしのカオル。
しかし、そんな順調な彼を、遠くから見つめる視線がありました。
それは、街一番の高級レストランのシェフか、それとも教会の追っ手か?
次回、工房に「招待状」が届きます。
平和な試食会から一転、カオルの料理が「公の場」で試される時が来ます!
「チキン食べたすぎる!」
「ロロの『飲めます』が可愛い」
「飯テロの火力が上がってるw」
と、お腹を空かせていただけた方は、ぜひブックマークと☆☆☆☆☆の評価で、カオルの快進撃を応援してください!
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