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第3話 『燻製ニジマスと初めての来訪者、そして付けられた値段』

無事に聖女様を保護したカオル。二人のぎこちない共同生活が始まります。


今回のテーマは「朝ごはん」と「初めてのお客さん」!


ただの趣味だった燻製づくりが、カオルとエリアーナの運命を大きく動かし始める……そんな予感に満ちた回です。


飯テロの煙、増量してお届けしますので、ハンカチのご用意を!

 翌朝、俺が目を覚ますと、焚き火の前に小さな人影が座っていた。


 エリアーナだ。


 彼女は俺が起きたことに気づくと、びくりと肩を震わせ、不安そうな顔でこちらを見つめてきた。


「あ、おはようございます、カオル様……。その、火が消えそうでしたので、勝手に……」


「いや、助かるよ。ありがとう。よく眠れたか?」


「は、はい。こんなに安心して眠れたのは、久しぶりです……」


 そう言ってはにかむ彼女の顔は、昨日よりも少しだけ血色が良く見えた。ちゃんとここにいてくれたことに、俺は内心ほっと胸をなでおろす。


 さて、朝飯だ。


 腹が減っては何も始まらない。俺は昨日残しておいたベーコンを厚切りにし、焚き火で軽く炙る。さらに、スキルが「食用可能、少し酸味があって美味」と教えてくれた木の実を拾い集め、平たい石の上で潰してペースト状にした。


「ほら、朝飯だ。パンはないから、木の葉で巻いて食ってくれ」


 ベーコンの塩気と脂の旨味、そして木の実ペーストの爽やかな酸味。即席のベーコンラップサンドとでも言うべきそれは、我ながらなかなかの出来だった。


「……美味しい。毎日が、ご馳走です」


 幸せそうに頬張るエリアーナを見て、なんだかこっちまで嬉しくなる。


 食事が終わると、彼女はおずおずと俺に切り出した。


「あの、カオル様。私はここで、何のお手伝いもできていません。もしよろしければ、何か私にできることはないでしょうか?」


「手伝い?いいよ、客人にそんなことさせられない」


「いいえ、客人ではありませ……!私は、あなたに救っていただいた身です。どうか、このご恩を少しでもお返しさせてください!」


 真剣な眼差しだった。彼女なりの誠意なのだろう。ここで無下に断るのも違うか。


「……分かった。じゃあ、少し手伝ってもらおうかな。今日は今後のために、保存食をたくさん作る」


 俺たちは近くを流れる川へ向かった。目的は魚だ。


 スキルのおかげで、魚が集まるポイントはすぐに見つかった。俺が木の枝を尖らせて作った即席のヤスで次々と魚を仕留めていく。


「すごい……!カオル様は、狩りもお上手なのですね」


「いや、まぐれだよ」


 澄んだ水の中で銀色に輝く、ニジマスに似た魚が面白いように獲れた。


 キャンプ地に戻り、魚のはらわたを取って下処理をする。エリアーナは最初こそ戸惑っていたが、すぐにやり方を覚えて健気に手伝ってくれた。


《スキル【燻製マスター】が発動》


《対象:リバーレインボー(川虹鱒)。最適な風味付け:『清流のミント』『森のワイルドオニオン』。推奨燻製時間:低温で4時間》


 またもスキルが的確なアドバイスをくれる。


 エリアーナにハーブ摘みをお願いし、俺は魚を塩水に漬け込むソミュール液の準備を始めた。彼女が摘んできたミントとワイルドオニオンを刻み入れると、辺りに爽やかな香りが広がる。


 二人での共同作業は、思った以上に楽しかった。


 黙々と手を動かしながらも、時折交わす言葉や、エリアーナが時折見せるようになった柔らかな笑顔が、ただの作業を温かい時間に変えていく。


 そして数時間後。


 桜のチップでじっくりと燻された『燻製ニジマス』が完成した。


 飴色に輝く皮はパリッとしていて、その身は驚くほどふっくらとしている。ハーブの爽やかな香りが、川魚特有の臭みを完全にかき消していた。


「……なんて、綺麗な……」


 エリアーナがうっとりと完成品を眺めている。


 その時だった。


 ガサッ、と茂みが大きく揺れ、一人の男が転がり出るように姿を現した。


 小太りで人の良さそうな顔立ちをしているが、その目は鋭い。身なりからして、行商人といったところか。


「ひぃっ!お、驚かさないでくれよ!……ん?なんだ、あんたたち、こんな森の奥でキャンプかい?」


 男は俺たちを見ると、ほっとしたように息をついた。だが、すぐにその鼻がひくひくと動く。


「……なんだ?この、たまらなく腹の減るいい匂いは……!?」


 男の視線は、俺たちが作ったばかりの燻製ニジマスに釘付けになっていた。


 その腹が「ぐぅぅ〜〜」と、エリアーナに負けないくらい盛大な音を立てる。

 

 結局、道に迷って腹を空かせていたその商人に、俺は燻製ニジマスを一本振る舞うことにした。


「う、うめぇぇぇぇぇ!!!なんだこりゃあ!!」


 一口食べた瞬間、商人は椅子から転げ落ちんばかりの勢いで叫んだ。


「皮はパリパリで香ばしいのに、身はしっとりしてて旨味が凝縮されてる!しかもこの爽やかなハーブの香り!クソまずい干し肉とは天と地ほどの差だ!こんな美味い保存食、生まれてこの方、食ったことがねぇ!!」


 商人は涙を流さんばかりの勢いで燻製を平らげると、興奮した様子で俺に詰め寄った。


「兄さん!頼む!残りの燻製、全部俺に売ってくれ!いや、言い値で買う!金貨……いや、金貨1枚じゃ足りねぇか!?」


「き、金貨!?」


 エリアーナが素っ頓狂な声を上げる。この世界の貨幣価値はまだよく知らないが、金貨がとんでもない大金であることくらいは想像がつく。


「いや、そんな大金は……。ただの趣味で作ったもんだし……」


「趣味でこんなものが作れるか!これは革命だ!この燻製があれば、旅人や冒険者はもうあの不味くてカチカチの干し肉を食わなくて済むんだぞ!」


 結局、俺は商人のあまりの熱意に押され、持っていた燻製ニジマスの半分を、銀貨5枚で売ることになった。それでも商人は「安すぎる!」と大喜びで去っていった。


「……必ずまた来るからな!その時はもっとたくさん作っといてくれよ!」


 嵐のように現れ、去っていった商人。


 手元には、ずしりと重い5枚の銀貨。これが、俺がこの世界で初めて稼いだ金だった。


「すごい……カオル様の料理は、人をこんなにも幸せにするのですね……」


 エリアーナが、尊敬の眼差しで俺と、俺の手の中にある銀貨を交互に見ている。


 俺はただ、美味いものが食いたくて、自分の好きなことをしていただけ。


 だが、この世界では、その「好き」が、とんでもない価値を持つらしい。


 手にした銀貨の重みを感じながら、俺はこれから始まるであろう日々の、大きな変化を予感していた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ついにカオルの燻製に、初めて「値段」が付きました!しかも銀貨5枚!


本人はまだ暢気に構えていますが、エリアーナは彼の凄さに気づき始めたようですね。


嵐のような商人が去り、二人の生活はどう変わっていくのか?


手に入れた銀貨で、カオルが次に作るものとは……?


そして、この燻製の噂は、静かな森を飛び出し、やがて街へ、国へと広がっていく……!


「商人の言う通り、これは革命だ!」


「エリアーナの笑顔、プライスレス」


「次回も楽しみ!」


と感じていただけましたら、ぜひともブックマークと、ページ下の☆☆☆☆☆から作品の応援をお願いいたします!


皆様の評価が、次の燻製の材料費になります(笑)!

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