第29話 『聖女の甘いおねだり、ウィスキー香る燻製生チョコ、そして黒いチーズケーキ』
いつも温かい応援、本当にありがとうございます!
前回は、強面の狼族たちがジャーキーを噛み締める、男臭さ全開の回でした。
その反動でしょうか、今回はヒロイン・エリアーナのターンです。
「カオル様……甘いものが、食べたいです」
そんな彼女の可愛いおねだりに、カオルが本気で応えます。
燻製=しょっぱい、という常識を覆す「甘美な煙」の世界。
ウィスキーの樽を使ったチップで燻した、大人のスイーツにご期待ください!
狼族のヴォルグたちが去り、店に再び静けさが戻った午後。
仕込みをしていた俺の袖を、クイクイと引っ張る手がった。
「……あの、カオル様」
「ん? どうした、エリアーナ」
振り返ると、そこには少し頬を赤らめ、上目遣いのエリアーナがいた。
最近、店の手伝いや浄化魔法(主にウナギの泥抜き)で大活躍の彼女だ。何か悩み事だろうか。
「その……最近、お肉やお魚ばかりでしたので……」
「うん」
「たまには……あ、甘いお菓子が、食べたいな……なんて」
彼女は消え入りそうな声でそう言った。
なるほど。聖女といえど、年頃の女の子だ。
毎日ソーセージやベーコン、ジャーキーの試食ばかりでは、甘味が恋しくなるのも無理はない。
「よし、任せろ。ちょうど俺も、新しい領域に挑戦したいと思っていたところだ」
「えっ? で、でも、燻製屋さんでお菓子なんて……」
エリアーナは驚いているが、前世の世界では『燻製スイーツ』は、知る人ぞ知る極上の嗜好品だった。
特に、カカオやチーズ、ナッツといった油脂分の多い素材と、煙の相性は抜群なのだ。
「甘いだけじゃない。香りを楽しむ『大人のスイーツ』を作ってやるよ」
俺が取り出したのは、ドノバン様経由で手に入れた『ウィスキー・オーク』のチップ。
古酒を熟成させていた樽を砕いたチップだ。これに火をつけると、芳醇な洋酒の香りが立ち上る。
「まずは、これだ」
俺はボウルにたっぷりのチョコレートを溶かし、そこに温めた生クリームを混ぜる。
生チョコ(ガナッシュ)のベースだ。
これをバットに流し込み、固まる直前の柔らかい状態で、燻製器へ入れる。
《スキル【燻製マスター】Lv.2:『冷燻・香気封入』》
《熱を与えず、ウィスキー樽の甘い香気成分だけを、カカオの油脂に溶け込ませます》
温度は20度以下。絶対に溶かさない。
煙のヴェールを、優しく、優しくチョコレートに纏わせる。
そしてもう一品。
クリームチーズ、卵、砂糖、生クリームを混ぜて焼き上げた『バスクチーズケーキ』。
表面をわざと焦がしたこのケーキを、さらに『サクラ』のチップで軽く燻す。
「……できたぞ」
数時間後。
テーブルには、漆黒のココアパウダーをまぶした『燻製生チョコレート』と、表面が黒く焦げた『燻製バスクチーズケーキ』が並んだ。
「……黒いです。でも、すっごくいい香り……」
「まずはチョコからいってみてくれ」
エリアーナは、フォークで生チョコを一粒刺し、口へ運んだ。
「…………んッ」
口に入れた瞬間、彼女の肩がビクリと跳ねた。
体温でとろりと溶け出すチョコレート。
そこから溢れ出したのは、カカオの苦味と甘み、そして――鼻腔をくすぐる、豊潤なウィスキーの香り。
アルコールは入っていないのに、まるで極上の洋酒入りチョコ(ボンボン)を食べているような錯覚。
「……お酒のような、深い香りがします……。甘いのに、くどくない。煙の香りが、甘さをキリッと引き締めて……」
「次はチーズケーキだ」
彼女は、ケーキにフォークを入れた。
表面の焦げ目は香ばしく、中はトロトロの半熟だ。
「……ああっ……!」
食べた瞬間、エリアーナがとろんとした目になった。
濃厚なチーズのコク。
そこに、サクラチップの華やかな香りと、表面の焦げ目のほろ苦さが加わる。
甘味、酸味、苦味、燻香。
味のカルテットが、舌の上で踊る。
「カオル様……これ、ダメです……」
「ダメか?」
「美味しすぎて……私、これを知ったら、もう普通のお菓子に戻れません……」
エリアーナは、うっとりと頬に手を当て、幸せそうに溜息をついた。
その笑顔は、『聖女』としての慈愛に満ちたものではなく、ただの『幸せな女の子』のものだった。
「……ふふっ。ごちそうさまです、カオル様」
そんな甘い空気が流れていた、その時だ。
カランカランッ!
「こんにちはー! ……って、あら? なんだかすごく甘くていい匂いがするわね?」
入ってきたのは、冒険者ギルドの受付嬢たち三人組だった。
仕事上がりの彼女たちは、疲れ切った顔をしていたが、店内の香りを嗅いだ瞬間、獣のように目を輝かせた。
「ちょっと店主さん! そのテーブルにある黒いケーキ、何!?」
「私たち、冒険者の相手でクタクタなの! 甘いものが必要なの!」
「そのチョコ、売ってくれるんでしょうね!?」
……どうやら、スイーツの香りは、狼族以上に恐ろしい「お疲れ女子」たちを引き寄せてしまったらしい。
「あ、ああ……もちろん販売しますよ」
その日。
『森の燻製工房』に、新たな行列ができた。
冒険者、貴族、狼族に続き、街の女性客たちが殺到したのだ。
「このチョコ、香りが良くて一粒で満足感がすごい!」
「ワインに合うケーキだわ!」
俺の店は、ついに「女子会」の聖地としても認知され始めてしまった。
スローライフ(大繁盛)は、どこまでも続いていく。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
スイーツ回、いかがでしたでしょうか。
「ウィスキー香る生チョコ」……想像しただけで食べたくなります(自爆)。
お酒が苦手な人でも楽しめる、香りのスイーツ。
エリアーナのとろける笑顔が見られて、カオルも満足げです。
そして、予想通り(?)新たな客層、女性陣をゲット!
これで『森の燻製工房』は、老若男女、種族問わず愛される店になりました。
しかし、店が繁盛すればするほど、カオルの「人手不足」問題が深刻化します。
次回、ついに新スタッフ雇用!?
応募してきたのは、意外なスキルを持った「小さな訪問者」?
可愛い新キャラの予感!
「チョコ食べたい!」
「エリアーナちゃん可愛いすぎ」
「女子会に混ざりたいw」
と、甘い香りに誘われた方は、ぜひブックマークと☆☆☆☆☆の評価で、カオルのお店を応援してください!
よろしくお願いいたします!




