第27話 『沼の主(ヌシ)襲来! 巨大ウナギの解体ショーと、極上の燻製蒲焼き丼』
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さて、前回は王女様と可愛いナッツの回でしたが、今回は打って変わって「男の料理」全開です。
ドノバンギルドマスターが持ち込んだのは、巨大すぎる「沼の主」。
見た目は凶悪でも、その身は……?
日本人なら抗えない「あのタレ」の匂いと、炭火ならぬ燻煙の香ばしさ。
白米必須の第27話、開幕です!
「カオル君!! 道を空けてくれ!! デカすぎて店には入らん!!」
その日の朝、ドノバン様の怒号のような声と共に、店の前の通りが封鎖された。
何事かと俺とエリアーナが外に出ると、そこには荷馬車を三台連結させ、ようやく運べるほどの「山」があった。
ぬらりとした黒光りする巨体。丸太のように太い胴体。
それは、街の近くにある巨大な湿地帯「大沼」の主と呼ばれる魔物だった。
「『グランド・サーペント』……いや、これは巨大なウナギか?」
「そうだ! 冒険者たちが総がかりで討伐したんだがな。肉が泥臭すぎて食えたもんじゃないと評判でな。だが、脂の乗りだけは一級品だ。……君なら、こいつを化けさせられるんじゃないかと思ってな!」
ドノバン様がニカっと笑う。
俺は、目の前の巨体を鑑定した。
《素材:大沼の主》
《特徴:極めて濃厚な脂を持つが、強力な泥臭さとぬめりがある。通常の調理では食用不可》
食用不可。普通の料理人なら逃げ出すレベルだ。
だが、俺の職人魂(と食い意地)が疼いた。
ウナギだ。しかも、天然物の最高級品を数百倍に濃縮したようなオーラを放っている。
「……やりましょう。エリアーナ、手伝ってくれるか?」
「はい! お任せください!」
ここから先は、店の前での公開調理――いや、「解体ショー」だ。
通りがかった人々や冒険者たちが、物珍しさに集まってくる。
「まずは、このぬめりと臭みを取ります!」
エリアーナが前に出る。
彼女が手をかざすと、清浄な水球が現れ、巨体を包み込んだ。
《聖女の浄化》
本来は毒消しや治療に使う神聖魔法を、なんと「ウナギのぬめり取り」に使う贅沢さ。
泥臭い粘液が一瞬で剥がれ落ち、美しい黒と白の肌が現れた。
「よし、次は俺の番だ!」
俺はミスリル製の包丁を構えた。
相手は丸太サイズ。通常の魚のさばき方では無理だ。
俺はスキルを発動させる。
《スキル【燻製マスター】Lv.2:『構造看破』》
《骨の位置、身の繊維、脂の層を完全に把握しました》
ズバッ!!
俺は目にも止まらぬ速さで包丁を走らせた。
首を落とし、背開きにし、中骨を取り除く。
全長10メートル近い巨体が、わずか数分で美しい「切り身」の山へと変わっていく。
その手際に、見物人たちから「おおぉっ!」と歓声が上がった。
だが、本番はここからだ。
俺は、特大の焼き網を店の前の広場に設置した。
炭火を起こし、その上にチップを撒く。今回使うのは、香りが強く、魚の臭みを完全に消し去る『ナラ』のチップだ。
「いくぞ……『燻製蒲焼き(かばやき)』だ!」
俺は切り身を白焼きにしてから、一度蒸す。
そして、大鍋に用意した「秘伝のタレ」にくぐらせる。
醤油、酒、砂糖(と蜂蜜)、そして燻製したウナギの骨から取った出汁を煮詰めた、黒蜜のようなタレだ。
ジュワァァァァァァッ……!!!
タレにつけた肉を、煙の上がる網に乗せる。
タレが焦げる香ばしい匂いと、燻製の芳醇な香りが混ざり合い、暴力的なまでの「食欲の嵐」となって広場を襲撃した。
「ぐわぁっ! なんだこの匂いは!?」
「腹が……腹が鳴って止まらねぇ!」
「おい! 白飯だ! 誰か白飯を持ってこい!!」
観客たちは半狂乱だ。
俺はタレにつけては燻し、つけては燻し、を三度繰り返す。
《スキル【燻製マスター】Lv.2:『多重燻香』》
《タレの層と煙の層を交互に重ね、味の深みを無限に増幅させます》
完成した。
表面は飴色に輝き、焦げ目が食欲をそそる。
俺は炊きたての白米を丼によそい、その上にドカリと、特大の切り身を二枚乗せた。
「お待たせしました! 『主の燻製蒲焼き丼』です!」
一番手はもちろん、持ち込んだドノバン様だ。
彼は震える手で丼を受け取ると、箸で肉を持ち上げた。
箸を入れただけで、ホロリと崩れる柔らかさ。
「……頂くぞ!!」
ガブッ。
ドノバン様が、肉と飯を一緒にかき込む。
「んんっ……んんぐッ!?」
彼はカッと目を見開き、一瞬硬直した後、猛烈な勢いで食べ始めた。
「美味いッ! なんだこれは!? 泥臭さなど微塵もない! 皮はパリッと香ばしく、身はフワフワで……噛むたびに脂の甘みとタレの旨味が爆発する!!」
「燻製の香りが、脂のしつこさを消してくれているんです」
「それだけじゃない! 体の奥から力が……うおぉぉっ!!」
ドノバン様の全身から、湯気のようなオーラが立ち上った。
「主」の生命力と、エリアーナの浄化、そしてカオルの調理バフ。
それらが合わさり、食べた瞬間にスタミナと魔力が全回復し、さらに上限突破する『超・滋養強壮食』になってしまったようだ。
「俺にもくれ! 金なら払う!」
「並べ! 今すぐ並ぶんだ!」
広場は、即席の「ウナギ屋」と化した。
巨大な主の肉は、数百人分の丼となり、テルムの街の人々の胃袋へと消えていった。
「……ふぅ。また完売か」
夕暮れ時。
俺とエリアーナは、心地よい疲労感と共に、空になった大鍋を見つめていた。
街の人々は満腹で幸せそうな顔をして帰っていった。
ドノバン様に至っては、「力が有り余った」と言って、そのまま走り込みに行ってしまった。
「カオル様、疲れましたね」
「ああ。でも、楽しかったな」
俺たちは、自分たちの分として取り分けておいた「尻尾の一番脂が乗った部分」を乗せた丼を、二人で分け合って食べた。
夕焼けの下で食べる燻製ウナギは、格別の味がした。
だが、この「主の蒲焼き」がもたらした効果は、スタミナ回復だけではなかった。
街中の冒険者たちが元気になりすぎた結果、翌日からダンジョンの攻略スピードが異常に跳ね上がるという、嬉しい悲鳴がギルドに響くことになるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ウナギ! 蒲焼き!
書いていて一番お腹が空いた回かもしれません。
「タレの焦げる匂い」というのは、なぜあんなにも人を狂わせるのでしょうか。
しかも燻製してあるので、香りの深さは倍増です。
さて、巨大食材も難なく(?)攻略し、街の人々の胃袋を完全に掌握したカオル。
次回は、そんな『森の燻製工房』の名声を聞きつけて、ちょっと変わったお客さんが訪れます。
人間……ではなく、「森の住人」。
エルフ? ドワーフ?
いえいえ、もっとモフモフした、あの種族です!
「ウナギ食べたすぎる……」
「浄化魔法の使い方w」
「飯テロ罪で有罪!」
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