第25話 『決戦の宴、王女の鋭い眼差し、そして真鴨の香りが支配する』
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皆様のブクマと評価のおかげで、カオルたちはついに華やかな貴族の宴へと辿り着きました。
しかし、そこはただのパーティー会場ではありません。
「聖女」を探し求める第三王女ルミナスと、正体を隠すエリアーナ。
一触即発の火薬庫です。
この危険な状況を打破するのは、カオルが手塩にかけて仕込んだ『真鴨の燻製ロースト』。
「香り」が「疑念」を上回る瞬間、パーティー会場はカオルの独壇場と化します!
ゼフィル男爵の屋敷、大広間。
シャンデリアの煌めきの下、着飾った貴族たちが談笑する声がさざめいている。
その絢爛豪華な光景を、俺とエリアーナは臨時の調理スペースから眺めていた。
「……緊張しているか、エリアーナ」
「は、はい……。あの方が、王女様……」
エリアーナの視線の先には、会場の中央で優雅に微笑む一人の少女がいた。
プラチナブロンドの髪、透き通るような碧眼。
第三王女、ルミナス様。
彼女は笑顔を絶やさないが、その瞳は時折、会場の隅々までを鋭く観察しているように見えた。まるで、何かを探すように。
(……聖女の気配を探っているのか?)
会場の隅には、給仕に変装したレイモンドの姿もある。彼が顎で「やれ」と合図を送ってきた。
「大丈夫だ。料理が始まれば、全員の意識は皿の上だ」
俺はエリアーナの背中を軽く叩き、最後の仕上げに取り掛かった。
本日のメインディッシュ、『真鴨の燻製ロースト・オレンジと蜂蜜のソース』。
すでに厨房での仕込みは完璧だ。あとは、客の前で切り分け、ソースをかけ、香りを解き放つだけ。
「――皆様、本日のメインディッシュでございます」
男爵の合図とともに、俺たちはワゴンを押して会場の中央へと進み出た。
貴族たちの視線が集まる。
ルミナス王女の視線も、俺たち――いや、フードを目深に被ったエリアーナへと注がれた。
「……あら? あそこの助手の方……」
王女が小さく呟き、歩み寄ろうとした、その瞬間。
俺は、銀色のドームカバー(クロッシュ)を、大袈裟なほどの勢いで開け放った。
「『真鴨の瞬間燻製』でございます!」
フワァァァァァァッ……!!
ドームの中に閉じ込められていた白煙が、一気に溢れ出す。
それはただの煙ではない。
《スキル【燻製マスター】Lv.2:『香気爆発』》
リンゴとサクランボの甘いチップの香り、そして鴨の脂が焼ける芳醇な匂いを、魔法のように会場全体へと拡散させる。
「な、なんだこの香りは!?」
「甘い……いや、香ばしい!?」
「まるでお花畑と、肉焼き小屋が同時に現れたようだわ!」
強烈な「香り」の暴力。
それは貴族たちの嗅覚をジャックし、思考を一時停止させた。
ルミナス王女も例外ではない。彼女は驚きに足を止め、鼻をひくつかせた。
「……いい香り……。これは、果実?」
その隙を、俺は逃さない。
素早くナイフを振るい、薔薇色に輝く鴨肉を切り分ける。
エリアーナが震える手で皿を差し出し、俺がそこへ肉を乗せ、特製のバルサミコソースを回しかける。
「さあ、ルミナス様。熱いうちにどうぞ」
俺は恭しく皿を差し出した。
王女は、目の前の皿に釘付けになっていた。
艶やかに光る皮目、しっとりとした赤身。そこから立ち上る湯気が、彼女を誘惑する。
王女は、エリアーナへの疑念を一瞬忘れ、フォークを手に取った。
そして、小さく切った肉を、桜色の唇へと運ぶ。
会場中が、固唾を飲んで見守る中。
王女が、それを噛み締めた。
「…………ッ!!!」
カチャン。
王女の手から、フォークが滑り落ち、皿にぶつかる音が響いた。
「……嘘、でしょう……?」
王女は口元を手で覆い、震える声で呟いた。
「噛んだ瞬間に……溢れ出す肉汁の甘み……。皮のパリッとした食感の後に、鼻に抜けるこの上品な煙の香り……。オレンジの爽やかさが脂を洗い流して……次の一口を、体が求めてしまう……!」
王女の頬が、見る見るうちに紅潮していく。
それは、美味しいものを食べた時の反応を超えて、ある種の陶酔に近い表情だった。
「……これは、料理ではありませんわ……。これは、芸術……いいえ、『魔法』です!」
その言葉を皮切りに、会場は爆発したような騒ぎになった。
「美味い! なんだこの深い味わいは!」
「これが燻製!? 私が知っている保存食とは別物だ!」
「ワインだ! 最高級の赤を持ってこい! この鴨にはそれしか合わん!」
男爵が勝ち誇った顔で、俺にウインクを送る。
作戦は成功だ。
圧倒的な「美味」の情報量が、貴族たちの脳を埋め尽くした。誰も、助手の顔など気にしていない。
俺はこっそりとエリアーナと顔を見合わせ、小さくガッツポーズをした。
彼女も、フードの下で安堵の涙を浮かべていた。
――だが。
宴が最高潮に達し、俺たちが撤収しようとした時だった。
「待ちなさい」
凛とした声が、俺たちを引き止めた。
振り返ると、そこには、すっかり皿を空にしたルミナス王女が立っていた。
その瞳は、もう陶酔していない。
王族としての、鋭い光を取り戻していた。
「料理長、あなたは素晴らしいわ。褒美を取らせます」
「恐悦至極に存じます」
俺が頭を下げると、王女は一歩、近づいてきた。
そして、俺の背後に隠れるエリアーナを、じっと見つめた。
「……ところで。そちらの助手の方」
心臓が跳ねる。
レイモンドが、壁際で剣の柄に手をかけるのが見えた。
「……あなたのその『マント』。……そして、料理から微かに感じる『清浄な気配』……」
王女はゆっくりと、エリアーナの目の前まで歩み寄る。
逃げ場はない。
俺が割り込もうとした、その時。
王女は、思いがけない言葉を口にした。
「……あなた、もしかして……『私の生き別れの姉』ではないかしら?」
「……は?」
「……え?」
俺とエリアーナの声が重なった。
会場が、再び静まり返る。
「……えっと、人違いでは……?」
「いいえ! 間違いありません! その慈愛に満ちた雰囲気、そして美味しい料理を生み出す清らかな心……! あなたこそ、私がずっと探していた『お姉様』ですわ!」
王女が、エリアーナの手をガシッと掴んだ。
その目は、完全に「推し」を見つけたオタクのそれになっていた。
……どうやら、この王女様。
勘違いの方向が、少し斜め上にぶっ飛んでいるらしい。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
大成功! そして……まさかの展開!?
鴨のローストが美味すぎて、王女様の思考回路がショートしてしまったようです(笑)。
「聖女」としてバレるかと思いきや、「生き別れの姉(妄想)」認定。
危機的状況には変わりありませんが、とりあえず処刑ルートは回避……できたのでしょうか?
美食で黙らせるつもりが、逆に王女様のハートに火をつけてしまったカオルたち。
この「勘違い」は、吉と出るか凶と出るか?
次回、王女様が工房にお持ち帰り!?
「お姉様と一緒に暮らします!」
暴走する王女と、頭を抱えるカオル&レイモンド。
スローライフは、まだまだ遠い!
「鴨肉の描写でお腹すいた……」
「王女様、ポンコツ可愛いw」
「姉認定は予想外!」
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