表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/34

第23話 『美食家男爵の憂鬱、冷燻(れいくん)の魔法、そして宝石のサーモン』

 いつも温かい応援、本当にありがとうございます!

 前回、冒険者たちの胃袋をガッツリ掴んだカオル。

 今回は、ドノバン様の紹介で、ついに「貴族」の元へ乗り込みます!

 相手は、美味しいものを食べ尽くして退屈している美食家の男爵様。

「燻製? あの硬くて塩辛い保存食か?」

 そんな偏見を持たれている状況で、カオルが繰り出すのは、燻製の常識を覆す「生」の食感。

 スキルLv.2が火を(いや、煙を)噴きます!

 とろけるような魚介回、スタートです!

「……燻製、だと? ドノバンよ。私が求めているのは『驚き』だ。そんな貧乏人の保存食ではない」

 案内された男爵家のサロンで、当主であるゼフィル男爵は、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 恰幅の良い体躯に、豪華な衣服。彼はこの街でも指折りの資産家であり、同時に、国中の美味珍味を食べ尽くしたという、筋金入りの美食家グルメだった。

「まあまあ、男爵様。まずは一口、食べてみて判断してください。このカオル君は、ただの職人ではありませんから」

 ドノバン様がウィンクを送ってくる。

 俺は、背後に控えるエリアーナに頷くと、持参したバスケットを開いた。

 今回の依頼は『私の舌を満足させる、未知の前菜』。

 そのために俺が用意したのは、肉ではない。「魚」だ。

 清流で育った、脂の乗った『カイザーサーモン(皇帝鮭)』。

「ほう、鮭か。だが、鮭の燻製など、干からびてパサパサだろう?」

 男爵の隣に控えていた、この屋敷の料理長らしき男も冷ややかな視線を向けてくる。

「旦那様、このような得体の知れない料理人の料理など……我々のフレンチの足元にも及びませんよ」

 無理もない。この世界での燻製は、あくまで「保存」が目的。水分を抜き、ガチガチに硬くするのが常識だ。

 だが、俺の燻製は違う。

「男爵様。俺が作るのは『冷燻れいくん』です」

「レイクン……?」

 俺は皿の上に、美しくスライスされたサーモンを並べていく。

 それは、干からびた保存食とは似ても似つかない代物だった。

 透き通るような鮮やかなオレンジ色。表面は艶やかに輝き、まるで宝石のよう。水分を失うどころか、瑞々しささえ感じさせる。

「……なんだこれは? 生、なのか?」

「はい。煙の温度を20度以下に保ち、食材に熱を通さず、香りだけを纏わせ、余分な水分だけを抜く。それが『冷燻』です」

 本来、冷蔵庫のないこの世界で、しかも気温の高い時期に冷燻を行うのは不可能に近い。温度管理を間違えれば、ただ腐るだけだ。

 だが、俺にはスキルがある。

 《スキル【燻製マスター】Lv.2:『絶対冷燻アブソリュート・コールド』発動中》

 《煙の温度を15度に固定。バクテリアの繁殖を抑制し、旨味成分のアミノ酸のみを増幅させます》

「さあ、どうぞ。ソースはかけず、そのままで」

 俺の言葉に、男爵は半信半疑でフォークを手に取った。

 料理長は「お腹を壊しても知りませんよ」と囁いているが、男爵の好奇心が勝った。

 透き通るサーモンが、男爵の口へと運ばれる。

 そして、舌に乗った瞬間――。

「――っ!?」

 男爵の目が、これ以上ないほどに見開かれた。

 噛む必要すらなかった。

 舌の熱で、サーモンの上質な脂がとろりと溶け出したのだ。

「生」特有のねっとりとした滑らかな食感。

 しかし、生臭さは微塵もない。

 代わりに鼻に抜けるのは、爽やかで甘い、リンゴの木のチップの香り。

 そして、水分が抜けたことで凝縮された、強烈なサーモンの旨味と甘味が、口内を蹂躙する。

「……な、なん……だ、これは……ッ!!」

 男爵の声が震えている。

「刺身のような瑞々しさがありながら、味の深さは熟成肉のよう……! 煙の香りが、脂の重さを消し去り、いくらでも食べられる……! まるで、口の中で魚が泳いでいるようだ!」

「旦那様!?」

 慌てた料理長も、横から一口つまみ食いをした。

 そして、絶句した。

「ば、馬鹿な……! 火を通さずに、これほど芳醇な香りを……!? こ、これは魔法か!?」

「いいえ、燻製です」

 俺は静かに答えた。

 さらに、エリアーナが横から、付け合わせの『スモーク・クリームチーズ』を添える。

 冷燻サーモンと、燻製チーズ。この二つを合わせて食べれば……。

「う、うおおおぉぉぉッ!! 合う! 合いすぎる! ワインだ! 最高の白ワインを持ってこい!!」

 男爵は完全に理性を失い、貪るように皿を空にした。

 気難しい美食家が、ただの食いしん坊な子供に戻った瞬間だった。

「カオル君、と言ったな! 君は天才だ! 燻製がこれほど芸術的な料理だとは知らなかった!」

 男爵は俺の手をガシッと掴み、興奮気味にまくし立てた。

「頼む! 来月の私の誕生パーティーのメインディッシュも、君に頼みたい! 金ならいくらでも出す!」

「……ええ、喜んで」

 隣で見ていたドノバン様が、「してやったり」という顔で親指を立てている。

 そして、最初は俺たちを蔑んでいた料理長も、今では悔しさと尊敬が入り混じった複雑な顔で、深々と頭を下げていた。

「……完敗だ。燻製が、これほど奥深いとは……」

 こうして、俺とエリアーナの『森の燻製工房』は、庶民や冒険者だけでなく、貴族階級にまでその名を轟かせる「通行手形」を手に入れたのだった。

 だが。

 俺たちはまだ気づいていなかった。

 男爵の誕生パーティーには、この国の「王族」に連なる、さらにやんごとなき人物が招かれていることを。

 燻製の煙は、俺たちの想像よりも高く、高く昇っていく。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 美食家男爵、陥落!

「冷燻」のサーモン、美味しいですよね……。お酒飲みにはたまらない逸品です。

 通常の燻製(温燻・熱燻)しか知らない世界の人々にとって、生の食感を残したスモークサーモンは、まさに未知の体験だったはずです。

 さて、男爵の心を鷲掴みにしたカオルたちですが、物語はさらに加速します。

 次なる舞台は、男爵の誕生パーティー。

 そして示唆された「王族」の影。

 ただの職人が、国の重要人物たちと関わり始める……これぞ「なろう」の醍醐味!

 次回、パーティーの準備を進めるカオルの元に、あの「異端審問官レイモンド」が再び接触!?

 敵か味方か? 彼が持ってきた驚きの情報とは?

「スモークサーモン食べたい!」

「料理長の掌返しw」

「どんどん出世していく!」

 と、よだれを拭っていただけましたら、ぜひブックマークと☆☆☆☆☆の評価で、カオルのサクセスストーリーを応援してください!

 よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ