第20話 『異端審問官の来訪、緊迫の厨房、そして燻製岩塩の言い訳』
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前回、不穏な動きを見せた異端審問官レイモンド。
今回、ついに彼が『森の燻製工房』に乗り込んできます!
「聖女の力」を嗅ぎつけた教会の犬に対し、カオルはどう立ち向かうのか?
エリアーナを守るため、カオルの口八丁と「最強の調味料」が火を噴きます!
手に汗握る心理戦(と、美味しい言い訳)を、お楽しみください!
その男が現れた瞬間、店内の空気が凍りついたようだった。
昼下がりのピークタイム。活気に満ちていた『森の燻製工房』に、灰色のローブを深く被った男が入ってきた。
客たちは本能的に危険を感じ取ったのか、サァーッと波が引くように彼のために道を開ける。
男はカウンターの前に立つと、フードを少しだけ持ち上げた。
鋭い眼光。左の頬にある十字の傷。
昨日、俺が窓から見た男だ。
「……店主。少し、話がある」
低く、腹の底に響くような声。
俺は奥の工房にいるエリアーナに「絶対に出てくるな」と目配せで合図を送ると、笑顔を貼り付けて対応した。
「いらっしゃいませ。ご注文でしょうか?」
「いや、尋問だ」
男は懐から、教会の紋章が刻まれた銀の短剣を取り出し、カウンターに突き立てた。
『異端審問官』の証だ。周囲の客が息を呑む音が聞こえる。
「私は聖教会・異端審問局のレイモンド。……単刀直入に聞く。貴様の売っているこのソーセージ、なぜ『聖属性の魔力』を帯びている?」
レイモンドは、食べかけのソーセージを懐紙から取り出した。
やはり、バレていたか。
『浄化された極上獣肉』に残る、エリアーナの魔力。これを「奇跡」だと断定されれば、彼女は連れ去られ、俺もただでは済まない。
だが、俺は動揺を見せなかった。
ここで狼狽えれば、後ろにいる彼女を守れない。
「聖属性、ですか?……ああ、なるほど。お客様、それは少し誤解がありますね」
「誤解だと?」
「ええ。ウチの商品が傷を癒やしたり、体調を良くしたりするのは、別に『誰かが魔法をかけた』わけじゃありません」
俺はカウンターの下から、一つの小瓶を取り出した。
中に入っているのは、キラキラと輝く結晶。
「秘密は、これです。『素材』そのものが特別なんですよ」
俺が提示したのは、あの瘴気獣の住処となっていた洞窟で採取した『星屑の岩塩』だ。
俺はそれを、レイモンドの目の前に差し出した。
「ウチでは、肉の味付けにこの『星屑の岩塩』を使っています。これはマナ濃度の高い場所でしか採れない、非常に希少な塩です。これ自体が高い浄化作用と魔力を含んでいるんです」
これは、嘘ではない。
実際、この岩塩には微弱な魔力が宿っている。エリアーナの『聖女の浄化』ほど強力ではないが、言い訳の材料としては十分なはずだ。
「さらに、燻製に使うチップ。これは『月光樹』の枝です。月の光を浴びて育った木は、邪気を払うと言われています」
俺は畳み掛けるように説明を続ける。
「つまり、聖女が奇跡を起こしたわけじゃない。俺という職人が、世界最高の『塩』と『木』を使って、徹底的にこだわって作った結果、聖なる力ごときが宿ってしまった……ただ、それだけのことです」
「……素材の力、だと?」
レイモンドは訝しげに眉をひそめると、小瓶の中の岩塩を一つまみ、口に含んだ。
「…………むっ」
その瞬間、彼の表情が動いた。
口の中で弾ける、強烈なミネラルの旨味と、すっと頭が冴え渡るような清浄な魔力の波動。
「……確かに。この塩は、普通の岩塩ではない。高純度のマナの結晶に近い……」
レイモンドは、ブツブツと独り言を呟きながら、今度は俺の顔をじっと見つめた。
嘘を見抜こうとする、審問官の目だ。
俺は、まっすぐにその目を見返した。職人としての誇りを、その視線に乗せて。
数十秒の沈黙。
やがて、レイモンドはふぅ、と息を吐き、突き立てていた短剣を収めた。
「……いいだろう。理屈は通っている。教会の管轄外にある『天然の奇跡』ならば、異端認定は保留とする」
店内に、安堵の空気が流れる。
だが、レイモンドは帰ろうとはしなかった。
彼はフードを上げ、その強面に、不器用な笑みを浮かべたのだ。
「誤解をさせた詫びだ。……その『ソーセージ』を5本、いや10本もらおう。あと、昨日の夜に噂になっていた『燻製チーズ』というのもあると聞いたが?」
「……はい、ございますよ」
「それも5つ頼む。……個人的な土産だ。勘違いするな」
そう言って、彼は銀貨をジャラリとカウンターに置いた。
どうやら、この異端審問官様、根っからの「食通」らしい。
商品を受け取ったレイモンドは、帰り際に俺にだけ聞こえる声で囁いた。
「……いい腕だ、店主。だが、あまり目立ちすぎるなよ。光が強ければ、影もまた濃くなる。……『銀髪の女神』の噂も、ほどほどにな」
それだけ言い残し、彼は風のように去っていった。
最後の言葉。あれは、警告か、それとも彼なりの忠告か。
どちらにせよ、最悪の事態は回避できたようだ。
「……カオル様……」
客足が落ち着いた頃、奥からエリアーナが顔を出した。
その瞳は潤み、不安と安堵で揺れている。
「怖かっただろう?もう大丈夫だ」
「はい……カオル様が、守ってくださったおかげです……」
彼女は俺の袖をぎゅっと掴んだ。
この手を、この場所を、絶対に守り抜く。
異端審問官との対峙を経て、俺の決意はより強固なものになった。
そして、この一件は予期せぬ副産物を生んだ。
『異端審問官も認めた、奇跡の味』
そんな新たな噂が、更なる客を呼び寄せることになるなんて、この時の俺は知る由もなかったのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
なんとか……なんとか乗り切りました!
カオルの機転と『星屑の岩塩』のポテンシャル、そしてレイモンドの食い意地(笑)に救われましたね。
「素材が凄すぎるから仕方ない」という職人ならではの論理武装。
これを「なろう系」では【素材の暴力による解決】と呼びます(呼びません)。
とりあえず当面の危機は去りましたが、レイモンドの最後の言葉が気になります。
そして、危機が去れば、次に待っているのは……そう、工房のさらなる発展です!
次回、カオルたちは新たな食材を求めて、再び動き出します!
目指すは、燻製の王道中の王道、『ベーコン』作り!?
「レイモンド、ツンデレかよ!」
「岩塩の言い訳、ナイス!」
「エリアーナちゃんを守るカオル、男前!」
と、緊迫の攻防を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークと☆☆☆☆☆の評価で、二人の無事を祝ってください!
よろしくお願いいたします!




