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第2話 『燻製ベーコンと森の恵みスープ、そして涙の訳』

 お待たせいたしました、第2話です!

 前回、カオルの作る絶品ベーコンの匂いに誘われて現れたのは、ボロボロの姿の銀髪美少女。 彼女のお腹は「くぅ〜」と鳴り、物語は最高潮の腹ぺこ状態で幕を閉じました。


 果たして、カオルはこの腹ぺこ聖女様を美味しく救うことができるのか? それでは本編、どうぞ召し上がれ!

 目の前に立つ、銀髪の少女。

 泥と土で汚れてはいるが、その作り物めいた美しさは隠しきれていない。月光を編み込んだような髪に、宝石のアクアマリンを嵌め込んだかのような瞳。現実感のないその姿に、俺は自分が異世界にいるのだと改めて実感していた。


 そして、そんな幻想的な雰囲気は、彼女のお腹から響いた可愛らしい音によって、あっけなく霧散した。


「くぅ〜……っ」


 少女は顔を真っ赤にして、自分のお腹を押さえている。その視線は、俺が手にしている炙りたてのベーコンに釘付けだ。ごくり、と喉が鳴るのが見えた。


「あ、あの……これ、食うか?」


 警戒心よりも先に、お人好しな日本人のさがが顔を出す。というか、こんな美少女に飢えた目で見つめられて、無視できる男がいるだろうか。


 俺がベーコンを差し出すと、少女はびくりと肩を震わせた。その瞳には、警戒と、それを上回るほどの食欲が渦巻いている。


「……毒は、入っていますか?」


「入ってるわけないだろ。ただの燻製ベーコンだ」


 俺が呆れてそう言うと、少女はしばらく逡巡していたが、やがて抗いがたい匂いに負けたのか、おずおずと小さな手でベーコンを受け取った。


 そして、小さな口で、ひとかじり。


 その瞬間、少女の青い瞳がこれでもかというほど大きく見開かれた。


「なっ……!?」


 サクッとした食感のあと、じゅわっと溢れ出す肉汁と凝縮された旨味。鼻腔をくすぐる香ばしい煙の香り。前世の俺がそうだったように、彼女もまた、燻製ベーコンの虜になったようだった。


 少女はもう警戒心などどこかに吹き飛んだように、夢中でベーコンを頬張っていく。

 小さな口がもぐもぐと動き、その頬は幸せそうに緩んでいた。


「……おいしい」


 ぽつりと呟かれた言葉は、心の底からの響きを持っていた。

 あっという間に一切れを平らげた彼女は、はっと我に返ったように顔を伏せると、消え入りそうな声で言った。


「……ありがとうございます。あの、お代は……」

「代金なんていらないよ。それより、そんなに腹が減ってるなら、もっとちゃんとしたものを食った方がいい」


 よく見れば、彼女はかなり衰弱しているようだった。いきなり脂っこいものを大量に食べさせるのは良くないかもしれない。


 その時、俺の頭に再びスキルが語りかけてきた。


《スキル【燻製マスター】が発動》 《対象:衰弱した少女。推奨調理法:森で採取可能な『いやしダケ』と『岩塩』、そして『燻製ベーコンの出汁』を使用した栄養スープ》


 ……なるほど。このスキル、料理のナビまでしてくれるのか。万能すぎるだろ。


「ちょっと待ってろ。すぐに温かいものを作るから」


 俺は近くに生えていた、スキルが「安全で滋養がある」と教えてくれたキノコ――いやしダケを数本採ると、クッカーに水を入れて火にかける。そこに、出汁用に細かく刻んだベーコンと、いやしダケ、そして岩塩を少々。


 すぐに、森の空気と燻製の香りが混じり合った、極上の匂いが立ち上り始める。 コトコトと煮えるスープを木の匙でかき混ぜながら、俺は少女に問いかけた。


「あんた、名前は? なんでこんな森の奥に一人で?」


 少女は焚き火の光に照らされながら、力なく首を横に振った。


「……話せることは、ありません。私は……汚れた、罪人ですから」

「罪人?」

「はい……。だから、あなたのような親切を受ける資格は……」


 その言葉は、ひどく寂しげだった。

 彼女が何をしたのかは知らない。

 だが、少なくとも目の前で空腹に苦しんでいる相手を見捨てるほど、俺の心は荒んでいなかった。


「ま、色々事情があるんだろ。今はとりあえず、これを食って元気出せよ」


 俺は出来上がったスープを木の器によそい、彼女に手渡した。 ほかほかと湯気が立つスープを、少女は恐る恐る口に運ぶ。


 一口、また一口と飲むうちに、彼女の瞳から、ぽろり、ぽろりと大粒の涙がこぼれ落ちた。


「……おいしい……温かい……こんなに、優しい味のものを食べたのは、初めてです……」


 嗚咽交じりにそう言う彼女の姿に、胸が締め付けられる。 一体、これまでどんな過酷な人生を歩んできたのだろうか。


 スープを飲み干し、少しだけ顔色が良くなった彼女は、深々と頭を下げた。


「ごちそうさまでした。……あの、私の名前は、エリアーナ、と申します」

「エリアーナか。俺はカオルだ」

「カオル、様……。このご恩は、決して忘れません。ですが、私はここに長居できません。私といると、あなたにご迷惑が……」

「迷惑かどうかは俺が決める」


 俺はエリアーナの言葉を遮った。


「それに、こんな状態で森に放り出して、熊か何かに食われましたってなったら寝覚めが悪い」


 俺は自分のバックパックから予備の寝袋を取り出し、彼女の前に置いた。


「今夜はここで休め。朝になったら、また今後のことを考えよう」

「……ですが」

「いいから。病人はおとなしく寝るもんだ」


 俺の有無を言わさぬ口調に、エリアーナは諦めたようにこくりと頷いた。 そして、小さな声で「……ありがとうございます」と呟くと、彼女は寝袋にくるまり、すぐにすぅすぅと穏やかな寝息を立て始めた。よほど、心身ともに疲れ切っていたのだろう。


 その寝顔は、罪人という言葉とはあまりにもかけ離れた無垢で儚いものだった。


 焚き火の火を管理しながら、俺は静かに夜空を見上げる。

 異世界の星は、やけに綺麗だった。


(スローライフを求めて異世界に来たはずが、初日から訳あり美少女を拾うとか、どうなってんだ……)


 こうして、俺の静かで自由なソロキャンプ生活は、たった一日で終わりを告げた。

 エリアーナと名乗った少女との、奇妙な共同生活が始まろうとしていた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました! 腹ぺこ聖女エリアーナ、無事に美味しいスープにありつけました。カオルの優しさが沁みますね……。


 カオルの作る料理に、少しずつ心を開いていくエリアーナ。 しかし、彼女が背負う「罪人」という言葉の謎は深まるばかり。 次回、二人の奇妙な共同生活がスタート!そして、カオルの燻製スキルが、新たな奇跡を呼び起こす……!?


「エリアーナ可愛い!」 「スープ飲みてぇ!」 「続きはよ!」


 と、少しでも思っていただけましたら、ブックマークと、ページ下の☆☆☆☆☆での応援を、何卒よろしくお願いいたします! 皆様の応援が、カオルの燻製工房を大きくする燃料になります!

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