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第19話 『売上は山のように、噂は風のように。そしてとろける燻製チーズ』

 いつもたくさんの応援、ブクマ、評価、本当にありがとうございます!

 前回、伝説的な初日を終えた『森の燻製工房』。

 今回は、その凄まじい「売上」の確認と、広まってしまった「ある噂」への対策回です。

「ソーセージの聖女」……。

 響きは面白いですが、当人たちにとっては笑い事ではありません。

 カオルは、愛するエリアーナを守るため、そして忙しすぎる現状を打破して「スローライフ」を取り戻すため、次なる一手(と、美味しいおつまみ)を用意します!

 開店初日の夜。

 店の扉を閉め、鎧戸よろいどを下ろした店内で、俺とエリアーナ、そしてドノバン様はテーブルを囲んでいた。

 テーブルの上には、うずたかく積まれた銀貨と金貨の山。

「……えー、本日の売上、〆(し)めて金貨15枚と銀貨800枚……。日本円にして、およそ200万円以上の利益となります」

 俺が震える声で集計結果を発表すると、ドノバン様は腹を抱えて笑い出した。

「ガハハハハ!!痛快だ!たった一日で、中堅商会の月商を叩き出しおった!これでも、まだ在庫が足りなかったと言うのだから恐ろしい!」

 ドノバン様は上機嫌だが、俺は少し頭を抱えていた。

 儲かるのは嬉しい。だが、今日の忙しさは異常だった。これでは「スローライフ」どころか「デスマーチ」だ。それに、もっと深刻な問題がある。

「ドノバン様。……街で流れている『噂』についてですが」

「うむ。『ソーセージの聖女』の件だな」

 その二つ名を聞いた瞬間、エリアーナが「ひぅっ」と情けない声を上げて小さくなった。

「わ、私が……ソーセージの……聖女……」

 顔を真っ赤にして恥ずかしがる彼女には申し訳ないが、事態は少し複雑だ。

 彼女が元聖女であることは、この街では秘密だ。マントの『気配遮断』で魔力的な探知は防げているが、目撃された「外見」と、食べた人々が実際に感じた「癒やしの効果」までは隠せない。

「素材が『浄化された極上獣肉』だからな。誰が調理しても回復効果はあるんだが……エリアーナが店先に立っていたせいで、全部彼女の奇跡だと思われている」

 教会関係者に目をつけられるのは面倒だ。特に、彼女を追放した連中に見つかれば、ロクなことにならない。

「対策をしましょう。明日から、エリアーナはホールの接客から外れてもらいます」

「えっ……でも、人手が……」

「接客は、ギルドから派遣された店員たちに任せる。エリアーナには、奥の工房で俺のサポートと、帳簿の管理をお願いしたい。君は『看板娘』じゃなくて、『オーナーの妻(予定)』なんだから、裏でどっしりと構えていてくれ」

「つ、妻……!?」

 エリアーナが湯気を出しそうなほど赤くなったのを見て、ドノバン様がニヤニヤしている。

「それがいいだろう。ギルドとしても、カオル君たちの安全が第一だ。噂が沈静化するまでは、エリアーナ嬢は『謎の凄腕料理人』ということにでもしておこう」

 方針が決まったところで、俺は場の空気を和ませるため、そして頑張った自分たちへのご褒美のために、もう一品、新作を作ることにした。

「さあ、難しい話はここまでだ。稼いだ金で、良い酒も買ってきた。これに合う『最高のおつまみ』を作ろう」

 俺が取り出したのは、街の市場で仕入れた、新鮮な牛乳で作ったハードチーズの塊だ。

 これを、食べやすい大きさにカットする。

 《スキル【燻製マスター】Lv.2:『温燻おんくん』プロセスを開始》

 《温度:35度〜40度。チーズを溶かさず、しかし中まで香りを浸透させる絶妙な温度管理》

 使うチップは、香りが強く、色付きの良い『サクラ』のチップ。

 チーズは熱に弱い。普通の燻製ならドロドロに溶けてしまうところだが、俺のスキルは、煙の温度を完璧に制御できる。

 数時間後。

 完成したのは、表面が美しい黄金色こがねいろに染まり、艶やかな光沢を放つ『とろける燻製チーズ』だ。

「さあ、どうぞ」

 皿に盛られた宝石のようなチーズ。

 エリアーナが、フォークで一つ刺し、口に運ぶ。

「……んんっ……!」

 彼女の目が、驚きに見開かれる。

 表面の皮はパリッとして香ばしく、中は体温でとろりと溶け出すクリーミーさ。濃厚なミルクのコクと、サクラチップの上品な香りが、口の中でワルツを踊る。

 塩気と煙の香りが、一日の疲れを優しく包み込んでいくようだ。

「……おいしい……。ソーセージとはまた違う、優しい味です……」

「こいつは酒が進むな!カオル君、これも商品化決定だ!」

 俺たちは、チーズとワインで、改めて完売の祝杯をあげた。

 工房の中は、笑顔と美味しい香りで満たされていた。

 ――だが。

 翌日。

『森の燻製工房』の行列の中に、一人の男の姿があった。

 灰色のローブを深く被り、目立たないようにしているが、その鋭い眼光は隠しきれていない。

 男は、一般客に混じって『楽園のソーセージ』を購入すると、人通りの少ない路地裏へと移動した。

 そして、焼き立てのソーセージを一口かじり――動きを止めた。

「……間違いない。微弱だが、これは『聖属性』の魔力……。しかも、最高位の『浄化』の痕跡がある」

 男は、懐から小さな通信用の魔道具を取り出した。

「……こちら、異端審問官レイモンド。テルムの街にて、高純度の聖魔力反応を確認した。……ああ、そうだ。噂の『ソーセージの聖女』……ただの風説ではないかもしれん」

 男は、もう一口ソーセージを頬張り、不気味に唇を歪めた。

「味は……悔しいが、悪魔的に美味い。だが、教会の管理下にない『奇跡』は、異端だ。……調査を継続する」

 スローライフを夢見る俺たちの知らぬところで。

 教会の影――「異端審問」の足音が、すぐそこまで迫っていた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 大金ゲット、そして美味しいチーズでほっこり……と思いきや!

 ついに「教会」の魔の手が動き出してしまいました。

 異端審問官レイモンド。ソーセージの美味さを認めつつも、その職務に忠実な、厄介そうな相手です。

「聖女」の力が料理を通じてバレてしまう。

 このピンチに、カオルはどう立ち向かうのか?

 そして、店に出られなくなったエリアーナは、無事に隠れ通せるのか?

 次回、異端審問官が店に突撃!?

 緊迫の「尋問(という名のグルメレポート)」が始まります!

「チーズめっちゃ食べたい!」

「儲かりすぎワロタ」

「レイモンド、美味いんかいw」

 と、シリアス展開でも食欲が刺激された方は、ぜひブックマークと☆☆☆☆☆の評価で、カオルたちの平穏を祈ってあげてください!

 よろしくお願いいたします!

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