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1. 今日の獲物は女冒険者だ

 ぐへへ、オレは下衆冒険者。まったく冒険者ギルドもちょろいもんだぜ。オレみたいなやつを懐に入れたまま放置するとはよぉ。ここには夢とか希望で目をきらきらさせた若いやつが入ってくる。そういうのをだますのは簡単だ。

 ギルド会館にて、いつもの場所に陣取って物色しているといくつものパーティーが通り過ぎていく。掲示板で新しいクエストを探したり、受注を終えてこれから出発をしようとするやつらもいた。

 

「ん、おい、そこのおまえらちょっと待て」

 

 見るからにガチガチに緊張した若い冒険者たちに声をかける。どうやら初心者たちで固まっているらしく、浮ついた雰囲気でまるわかりだ。若い奴らってのはとにかく似たようなやつらで群れたがるからな。

 

「おまえらちゃんと回復や解毒用のポーションはもったのか? 魔法があるから大丈夫とか思ってるんじゃないだろうな。いざってとき魔力を集中させることなんてできないんだ。それに魔力の節約にもなる」

 

 初心者によくあるやつだ。少しでも金を節約していい装備をそろえようとする。だが、自分たちがこれから向かう場所がどういうものなのかわかっていない。助けをもとめても医者もいなければ安全に休める場所もない。

 

「ほら、これ持ってけ。金なら気にするな。余裕ができたら返しに来い」

 

 恐縮しながら受け取る姿を見ながら内心でほくそ笑む。自分が受け取った善意がタダだとおもっている。タダより高いものはないっていうのになぁ。やっぱり世間に慣れてないお坊ちゃんやお嬢ちゃんはちょろいもんだな。

 この後の展開を予想しながらほくそ笑みながらまた新しい獲物をさがす。オレは強欲だからよ、こんなんじゃ満足できないんだ。

 

「おい、おまえ、まさか一人で行こうってんじゃないだろうな」

 

 また新しい獲物をみつけてすぐに声をかける。今日は大漁じゃねえか。装備も貧弱でかけだしというのが丸わかりだ。しかも、気弱そうな少女だ。ちょっと強い言葉で押し切れば楽勝だろう。

 

「なに? 自分は落ちこぼれだから迷惑をかけたくない? ソロでも何回かやってこれた? そんなこと知るかよ。おまえの命はおまえのだけのものじゃねえんだよ。もしも戻らなかったら探しにいかないといけないだろうが。何のためのギルドだと思っているんだよ」

 

 オレは相手の意見を無視してクエスト受付所で参加者にオレの名前を追加してやった。

 

 

 くっくっく、あのときのあいつの顔は傑作だったな。同期たちも見ている前でおっさんと無理やりパーティーを組まされるところを見られたんだからよぉ。

 それにしても、ソロで何度もクエストに挑んでいたとか言っていたわりには生存能力が低かった。たしかに体力もあるが小柄な体であやつるショートソードじゃ完全にリーチで相手に負けている。複数の魔物に囲まれたら対処も追いつかないだろう。素早い立ち回りも苦手そうだったしパーティー内での役割も難しい。あれじゃあ扱いにくいのもわかる。

 そんなことを考えていたら当の本人が目の前に現れた。

 

「お? なんだ、この前のやつか。体力があるからって連日クエスト受けるなんてやめておけ。気づいてないだけで疲れが体にたまっているんだ。二日は休め。その間にパーティーでも募集しておけ」

 

 しかし、相手は引き下がらない。首を横にふっている。ちがう要件らしい。すがるような目つきでオレを見上げた後、大きく頭を下げた。

 

「オレに指導してほしい? それに専属パーティーも組んでほしいだって?」

 

 あげくになんでも言うこときくから、なんて言い出した。

 馬鹿な奴だ。いるんだよな。ちょっと優しくされたからってそれで簡単に信用しちまうやつがよぉ。こういうやつがいるからオレみたいな悪いやつに食い物にされるんだ。追い詰められて状況が見えなくなっているんだろうな。せいぜい目が曇っているうちに好き放題させてもらおうじゃねえか。少女はまだ頭を下げたままでこちらの視線にきづいていない。その未成熟な体を上から下までなめるように見下ろす。紺色の髪がしなやかに垂れさらけだされた白いうなじを前に舌なめずりする。

 

「さっき言った通り二日は何もするな。じゃないと今の話はなしだからな」

 

 気が変わらないうちにさっさと専属パーティー契約を結んだ。少女は何度もお礼をいいながらギルドを後にした。その背中が消えるとオレはひっこめていた笑みを口の端に浮かべる。

 それにしてもこのギルドの連中はゆるいやつらばっかりだぜ。パーティーの申請はあっけなく通った。まだ年若い少女と下衆いおっさんの二人きりというこれ以上なくわかりやすい構図だというのに誰も止めやしない。もしかしてわかっててやっているのか? やれるものならやってみろってことか? なめられたもんだぜ。


 

 二日後の約束の時間になると、あいつはすでに集合場所に立っていた。まだ集合時間10分前だっていうのに律義なもんだ。あいつは無邪気な笑顔で挨拶をしてくる。焦らされて溜まっていたんだろうな。それを利用してやるぜ。この二日間であいつの弱みはしっかり握っておいた。それをネタに脅してやるぜ。

 

「おい、おまえの武器を貸してみろ。おらおらなんでも言うこと聞くんだろ」

 

 街から離れたところで人の気配もなくなるのを見計らって行動にうつった。あいつはこちらの言葉に疑いもなく唯一の武器を渡してきた。鞘ごと渡されたショートソードは軽かったが、それは彼女にとって頼れる相棒だったのだろう。使い込まれているのがよくわかる一品だった。

 

「これは没収だ」

 

 剣を握った腕を上げて、小柄な体では届かない高さに遠ざける。とたんに泣きそうな顔をしてくる。

 

「泣くな泣くな、とりあえず預かるだけだから。だいたい泣きたいのはこっちだ。おまえが握る武器は食わず嫌いでさわってこなかったこっちだ」

 

 オレは背負っていたバトルアックスを下ろした。ずしりと重いそれは重力にひかれて地面に先端をめりこませる。目の前に用意されたそれを前に少女は戸惑っていたが恐る恐る手を伸ばして持ち上げてみせた。

 

「ほら、握ってみた感じはどうだ?」

 

 わからないといった感じでこちらを見ている。いままであんな小さいモノしか握った経験がないのだから当たり前だろう。武骨で太いモノに少女の細い指がからみつく。

 

「振ってみろよ。気持ちいいぞ」

 

 あれだけ使い込んでいた自分のものを手放し他人に与えられたものを命令されるままにつかまされる。そして、オレが苦労して運んできたそれを軽々と扱う姿を見て確信する。

 

「力があるのにそれを活かさないでどうするんだよ。今までの武器じゃリーチが短すぎたんだよ」

 

 こいつの子供っぽい体型にだまされそうになるがその力はオレを上回っている。他のパーティーにいたころは仲間の荷物の分まで運んでも平気そうにしていたとか。今じゃほとんどいないらしいがこの世界には小柄で怪力な種族もいたらしい。もしかしたらその血が流れているのかもしれない。

 最初は戸惑っていたようだったが、次第にその重量を活かした振り方を身に着けていった。初めて感じる大きさと初めての動き。腰の動きに乗せてひとふりするごとに気持ちよさそうにしていた。

 

「どうだ、いいもんだろ?」

 

 少女はこくりとうなずいてみせる。

 

 ぐへへ、いままでやってきたことを捨てて命令されてされるがままになっちまうなんてなぁ。無知ゆえに新しい快楽を植え付けられれば元に戻ってくるのは難しいだろうよ。このままオレ好みに変えてやるぜぇ。

 

 武器の次は防具だな。動きも変わったんだ。それに見合ったものにかえないといけない。

 ぐへへ、鍛冶屋の親父にあいつの体のサイズを伝えていく。すみのすみから恥ずかしいところまで測ってやったぜ。鍛冶屋のおかみさんのメジャーがな。

 

 もちろん記録はかかさない。恥ずかしいところを細部まで残しておく。こいつの具合を見ながら次のやるべきことを考えていると、こいつがどう変わっていくかという想像が膨らんでいく。

 

 もうこいつの大部分をオレ好みにかえてやったぜ。金のことは心配するな、おまえの体で稼がせてもらうからよ。ひゃはははっ!

 

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