Continues
初ライブが終わった次の日。
俺たちGhost Noteのグループチャットには、轟が送った一言が残っていた。
「バンドって最高じゃね?」
(……まあ、確かに楽しかったけどさ)
ライブの余韻に浸る間もなく、俺たちは次の問題に直面していた。
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【問題①:練習場所がない】
「それで、お前ら……練習どこでやるよ?」
轟が腕を組んでいる。
駅前のカフェに集まった俺たちだが、すでに最初の壁にぶち当たっていた。
「……え、透音の家じゃダメなの?」
「ふふ、うちには幽霊がいるからね……。」
「それ、普通に騒音の問題じゃないの?」
「まあ、それもある。」
透音は意外と素直に認めた。
「でも大丈夫、私は自宅でひとりでも音楽が作れるから……。」
「いや、バンド練習なんだから一緒にやらないと意味ないだろ!」
結局、透音の家は無理ということになった。
「じゃあ、リオの家は?」
「……うるさいの嫌」
「そりゃそうか……」
リオは家で静かに音楽を聴くのが好きなタイプだ。バンドの爆音を鳴らすのは、さすがに厳しそうだった。
「俺んちもアパートだから無理だし……ってことは、スタジオを借りるしかないのか?」
「いや、でもスタジオって高いだろ?」
俺たちの財布事情を考えると、毎回スタジオ代を払うのはキツい。
「ふふ……実は、秘密兵器がある。」
透音がニヤリと笑う。
「『生涯学習センター』の音楽室が、めちゃくちゃ安い」
「……マジで!?」
「公共施設も予約さえすれば使えたりするもんね。」
「それ、なんでもっと早く言わなかったの!?」
「言うタイミングを考えていた……」
「いや、今すぐ言えよ!!」
こうして、俺たちはなんとか練習場所を確保できた。
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【問題②:方向性がバラバラ】
音楽室を借りたはいいが、すぐに別の問題が浮上した。
「で、次のライブはいつにする?」
轟がやる気満々で聞いてきた。
「いや、さすがにもうちょい練習しないと……」
「は? 俺たち、即興であれだけ盛り上がったんだぜ? もうライブやってもいいだろ!」
「そういう問題じゃねぇ……」
確かに初ライブは盛り上がったけど、それはハプニングのおかげでもあった。
次も同じノリでやったら、ただの無計画なバンドになってしまう。
「そもそも、俺たちのバンドってどんな音楽やるんだ?」
リオがぼそっと呟いた。
俺たちのバンドはロック×電子音楽という方向性は決まっている。
だけど、どんな曲を作るのかは、まだハッキリしていなかった。
「ふふ……私は、もっと幽玄なサウンドがいいな……」
「幽玄て……」
「電子音で、空間を歪ませるような……そういう音が理想……。レーザーハープとか…。」
透音はシンセを操るだけあって、実験的な音楽が好きらしい。
「いや、俺はもっと泥臭いロックがやりたいんだよ!」
「バチバチに歪ませたギターと、暴れるドラム! それがロックだろ!!」
轟は完全にバンドサウンド至上主義。
「……私は、チル系がいい」
「チル系?」
「うるさくなくて、気持ちいい音楽」
リオはローファイなグルーヴを好むらしい。
(やべぇ……完全に方向性がバラバラだ……)
それぞれ音楽の好みが違うのはわかっていたけど、ここまでまとまらないとは思わなかった。
「じゃあ、いっそ全部混ぜる?」
俺が冗談半分で言うと、透音がニヤリと笑った。
「ふふ……それが一番面白いんじゃない?」
「は?」
「ロックの勢い、チルの落ち着き、そしてエレクトロの浮遊感……それらを全部融合させるのがGhost Noteなんじゃない?」
「そんな上手くいくのかよ……」
「やってみないと、わからない」
透音のその言葉に、俺たちはなんとなく納得してしまった。
(まあ、色々試してみるしかないか……)
こうして、俺たちはようやく本格的にバンドの方向性を模索し始めた。
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次のライブへ向けて……
音楽室で、俺たちは試行錯誤を始めた。
「シンセのコードにギターのリフを合わせるのって、意外と難しいな……」
「ベースはシンプルにして、ドラムで展開を作った方がいいかも」
「ふふ……このフィルターを使えば、ギターの音もシンセっぽくなるよ……」
試行錯誤を繰り返しながら、俺たちは少しずつ自分たちの音を作っていった。
そして、次のライブの日程が決まる。
「今度のライブ、Rubikっていうライブハウスだってよ!」
「ついに、本格的なライブハウスデビューか……」
駅前ライブとは違い、ちゃんとしたステージで演奏する。
俺たちにとって、大きな挑戦になるはずだった。
しかし、このライブが——俺たちのバンドの行く末を大きく変えることになるとは、この時はまだ知らなかった…。