human
(いや、これ、完全に想定外の音じゃん!?)
しかし、観客の反応は予想外だった。
「なにこれ!? なんか、ヤバい!」
「普通のバンドじゃなくて、エレクトロっぽい!?」
思わぬアクシデントが、逆に俺たちの音楽を独特なものに変えていた。
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「予定外」の音が、新しいサウンドになる。
透音のシンセがメロディアスなフレーズを奏でる。
それに触発されるように、リオがベースのフレーズを変えた。
いつものリフとは違う、即興のベースライン。
轟はスティックを失ったまま、素手でドラムを叩き始める。
俺は、アンプを繋ぎ直す間、ボディを叩いてリズムを刻んだ。
それが——まるで最初からそういう曲だったかのように、噛み合い始めた。
「……これ、アリなんじゃないか?」
俺たちは予定していた演奏をやめ、完全に即興で音を作り始めた。
轟の素手ドラムとリオのベースがリズムを作る。
透音のシンセが、バンドの枠を超えた広がりを生む。
俺は、ギターのアンプを復活させると、ディレイをかけたアルペジオを弾いた。
「バンド × 電子音楽」の実験的なサウンドが、今ここで生まれた。
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観客の反応が変わる。
「……すごい」
「なんか、曲が変わったのに、めっちゃいい!」
観客の雰囲気が、明らかに変わっていた。
最初は普通のバンドだと思っていた人たちが、次第に俺たちの音に引き込まれていく。
リズムに乗って手を叩く人。
スマホで撮影し始める人。
「Ghost Note……このバンド、面白いかも!」
——手応えを感じた。
こういう形のバンドも、アリなのかもしれない。
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ライブ終了! そして……?
最後の音が響き、演奏が終わった。
静寂。
そして——
「うおおおお!!」
大歓声が湧き上がる。
「すげぇ! かっこよかった!」
「即興なのに、あんなに合うなんて……!」
俺たちは、思いがけず大成功を収めていた。
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ライブ後
ステージ裏に戻り、俺たちは息をつく。
「……まさか、こんな展開になるとはな。」
「ふふ……音楽は生き物。想定外こそが真の芸術……。」
轟が何かを悟ったかのような顔をして呟く。
「お前、そんなキャラだったっけ?」
透音は満足げにシンセのつまみをいじっている。
リオは珍しく笑っていた。
「……楽しかった。」
「俺もだ!」
轟は手を擦りながら、満足げに笑う。
「ロックは、こうじゃねぇとな!」
こうして、俺たちの初ライブは想定外の形で成功した。
しかし、それはただの始まりに過ぎなかった。
(……このバンド、思ってたより面白くなるかもしれない)
そんな予感が、俺の中で静かに膨らんでいった。