enough
バンド「Ghost Note」のメンバーが決まった——というか、気づいたらヤバい奴らが集まってしまった。
それでも、一応バンド活動を始めることになり、俺たちは初練習の日を迎えた。
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場所は、町にある古びたスタジオ「Beat Garage」。
地元では唯一のバンド向けリハーサルスタジオで、俺も何度か来たことがある。
部屋の中には、ドラムセット、ベースアンプ、ギターアンプ、そしてシンセ用のミキサーが並んでいた。
「おぉ~、こういうとこ来るの初めて!」
轟がドラムスティックを指で回しながら、嬉しそうに部屋を見渡す。
「ドラムってどう叩くんだ? とりあえずぶっ叩けばいい?」
「いや、頼むから適当に叩くのはやめてくれ!」
俺の制止も聞かず、轟はドラムスローン(椅子)にどっかり座り、スティックを振り上げ——
ドガァァン!!
とんでもない音を鳴らした。
「……うん、すげぇ破壊力」
「いい感じじゃね?」
「いや、全然ダメだ!」
とにかくリズムも何もあったもんじゃない。
本当に鉄パイプ振り回してた感覚で叩いてるじゃねぇか。
「まぁまぁ、慣れればいけるっしょ!」
(このポジティブさは見習いたいけどな……)
一方、リオはベースをアンプにつなぎ、フレットを押さえている。
「……低音、いい……響く……魂……ぐへ…」
「お、おう……?」
リオはまるでベースと交信しているかのような表情でポロポロと弦を弾いている。
「でも、ちょっと寝不足で手が震える……」
「大丈夫かよ!? ちゃんと寝てこい!」
そうツッコんでいると、今度は透音がシンセの電源を入れ、怪しげなボタンを押し始めた。
「電子音楽とは霊界通信……さぁ、繋がれ……!」
ピロロロロロ……ヴォン!
突如、シンセから謎の電子音が鳴り響く。
「なにこれ!? なんか呪われそうな音してるんだけど!」
「ふふ、霊界の声だよ……今、あちらの世界と繋がった……。」
「やめろ! マジでやめろ!!」
(なんで俺、こんなホラー展開に巻き込まれてんだ!?)
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そんなこんなで、練習スタート。
まずは俺が作った曲「Ghost Loop」をみんなで合わせてみることにした。
俺がギターを弾き、リオがベースを刻み、轟が——
「アアアアアアッ!!」
「叫ぶなぁぁ!!!」
「気合い入れたらつい!」
「いや、ドラムでリズムキープしろよ!」
一方、リオは低音を響かせながら——
「……グゥ……」
「寝るなぁぁ!!」
「……へ? ……あ、今どこ? 夢の中でライブしてた……。」
「現実でやれ!!」
そして、透音は——
「この周波数は……これは……何か来る……!」
「だから何が来るんだよ!!!」
——結果、めちゃくちゃ。
「バンド練習」というより、事故現場に近いカオスなセッションになった。
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それでも、何度かやっているうちに、リズムが少しずつ合ってくる瞬間があった。
轟のドラムはワイルドすぎるが、意外とパワフルで勢いがある。
リオのベースは寝不足のせいで安定しないけど、低音はしっかりしている。
透音のシンセは完全に謎だけど、独特の浮遊感があって不思議と曲に合っていた。
(……もしかして、こいつら、ハマればヤバい音出せるんじゃね?)
そう思い始めた頃、スタジオの外からドアがノックされる音がした。
「おい、君たち」
入ってきたのは、スタジオの店長らしきオジサン。
腕を組みながら、呆れ顔で俺たちを見つめる。
「……ちょっと音がヤバすぎるんだけど?」
「……すみません……」
「いや、いい意味でな」
「え?」
俺たちが顔を見合わせると、オジサンはニヤリと笑った。
「その音、マジでヤバいな。ロックでもなく、EDMでもなく……なんだ、あの感じ?」
「え、えっと……電子音楽とバンドを組み合わせたくて……」
「面白いじゃねぇか。お前ら、このまま突っ走れよ」
そう言って、オジサンはポンと俺の肩を叩いた。
……マジか。
めちゃくちゃなバンドだけど、何か可能性はあるのかもしれない。
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練習が終わり、スタジオの外に出る。
夜の空は星が綺麗だった。
「なんか、バンドっぽくなってきたな。」
「でしょ? 最初はみんなこんなもんだって!」
「……まぁ、面白かった。」
「これでついに、霊界と完全に繋がる準備が……」
「おい、やめろ。」
こうして、バンド「Ghost Note」は、
少しずつ、だけど確実に動き始めた。