ミュージック
町の片隅にある、とあるアパートの一室。
その部屋の中で、俺は一人、パソコンに向かっていた。
キーボードを叩く音、マウスをクリックする音、そしてスピーカーから流れる電子音。ギターのリフが流れたかと思えば、次の瞬間にはシンセのメロディが重なる。
「……うん、悪くない。」
椅子の背もたれに深く寄りかかり、ヘッドホンを外す。
曲はいい。サウンドも悪くない。だけど——何かが足りない。
「やっぱ、生演奏か……」
俺の名前は神代かみしろ 迅じん、高校2年生。
一応、「バンド」をやっている。
——ただし、メンバーは俺一人だ。
ドラムは打ち込み。ベースもシンセ。ギターとボーカルだけは自分で弾いたり歌ったりして録音している。要するに、俺は「一人バンド」をやっているのだ。
バンドを組みたくなかったわけじゃない。むしろ、心の底では「ライブで爆音を鳴らしたい」と思っている。でも、今さらクラスの誰かに「バンドやろうぜ!」なんて声をかけるのは気恥ずかしい。そもそも、この町にはロックなやつが少なすぎる。
だから、俺は「一人バンド」で満足することにした。
だが——やっぱり、物足りない。
「……しょうがねぇ、試しに募集でもしてみるか」
そう呟きながら、俺はPCの画面を開く。
たまにある小さなイベント告知にか使われていない地元のSNSグループにログインし、新規投稿を作成した。
《バンドメンバー募集!》
- バンド名:「Ghost Note」
- ジャンル:ロック×電子音楽
- 募集パート:ギター、ベース、ドラム、シンセサイザー
- 経験不問、やる気ある人歓迎!
- 町のライブイベントに出る予定あり!
「まぁ、誰もこんな投稿見てないだろ」
そう思いながら投稿ボタンを押した。
でも——次の日、予想外のことが起こった。
「オーディション受けたいって? え、マジで?」
俺のメッセージボックスには、3件の応募が届いていた。