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腹からイソギンチャク お試し版。  作者: 如月 巽
出産と治療とズレの話…の抜粋。
6/8

出産フルコースと令和の立ち会い出産のカタチ、から抜粋してみた。

午前3時過ぎ、破水。


 破水とは、御子・羊水・胎盤を包んでいる《羊膜》と呼ばれる部分が破けて、外に羊水が溢れること。

 院長先生から教えてもらったが、破水は主に2パターンあるそう。

 

 1つは如月が経験した尿漏れのように少しずつ排出されるパターン。

 もう1つはドバッと一気に体外へ排出されるパターン。

 これは羊膜が破れる位置の問題だそうで、御子の足側に近い位置で破れると前者、御子の頭側に近い位置が破れると後者のパターンになることが多いそう。


 破水なしで出産を迎える場合もあるんだとか。


 隣で寝ていた旦那さんに声をかけて、携帯と飾りボードに貼り付けておいたメモを手に、隣の部屋にいる両親を起こしにいく。

入院用品を1階へ下ろしてもらっている間に産院へ連絡し、母の車に乗り込んで薄明るくなり始めた頃に産院到着。

 母と共に説明を受けたのちに助産師さんの案内で病室に行き、廊下から別の助産師さんと母の会話がなんとなく聞こえていたのは覚えている。


 多分4時半ごろまでにある程度の手続きを済ませたんだと思う。


 手首に継続点滴用チューブを着けてもらい、少しだけ仮眠してから最初の朝食をとって、開院前に院長先生の診察。


「間違いなく破水はしてるから、早ければ今日には産まれると思うんだけど…」

「え、何か問題があるんですか?」

「今まだ子宮口が1㎝くらいしか開いてないんだ。明日の夕方までに開かないと帝王切開になるかなぁ」


 私がお世話になった産院は自然分娩を推奨しているため、帝王切開などの手術が必要になってくる場合は早めに告示を出してくれる、というのは話に聞いていた。

 おそらく私が初産というのを気に掛けてくれたんだと思う。


「とりあえず、まず今日この後の様子を見てからにしよう。夕方もう一回診察して、それからだね」

「わかりました」


 診察を終えて病室に戻り、産褥パッドを時々替えたりはするものの、基本的には病室でのんびりするだけの一日だった。



〜中略〜



 翌朝、午前9時から投与を始めてまもなく、一点集中で電流を喰らうような痛みが下腹に来て、思わず声を失う。

 小説的表現ではなく、文字通りの声も出ない痛みで、思わずベッドシーツを握って息を整える。


「陣痛始まった?大丈夫?」

「だ、じょ……じゃな、です」

「そうだよねごめんね、大丈夫な訳ないね。誘導陣痛だとどうしてもいきなり痛くなっちゃうものだから」


 痛みが落ち着いて次の痛みが来る前に助産師さんから聞いた話だが、破水している場合、身体自体が羊水が多く残っているうちに出産させようと促すため、間隔が短い状態から始まるらしい。人体って不思議で凄い。


(世の中の母親って本当に凄いなぁ、こんな痛みを耐えて子供を産むんだもんなぁ)


 おそらくだけど、痛みを耐えたいが故の現実逃避だったのかもしれない。自分もその仲間になるところだと言うのに、考えていたのはそんなこと。


 痛みの間隔が遅いうちに帝王切開の承諾書類に記入して、幾度もくる痛みを耐える。

 それからしばらくして、助産師さんから連絡を受けた旦那さんが到着。「大丈夫?」の言葉になんて答えたのか、正直もう覚えてない。

 痛みに耐えては休んでの繰り返しで精神的に消耗して意識がぼんやりしていたのは覚えているが。



〜中略〜



 午後4時過ぎ。

 帝王切開なので向かう先は手術室。緊急で麻酔をしていないため、移動はストレッチャーではなく徒歩。

 病室から手術室までは大した距離ではないけれど、この時点はもう既に1分置きに痛みが来る状態。なので正直歩く事さえ辛かった。


 途中の待合ロビーで旦那さんに安産守りを預けつつ生命保険の担当者へ連絡して欲しいと言付け、痛みを耐えるために手術室手前で足を止めた時、院長先生から突然質問が飛んできた。


「旦那さんって、iPhone使ってる?」

「はぇ…?は、い……そう、です…が…」


 タイミングのせいでちょうど凄く痛くて、肯定の返事をするのがやっと。痛みが緩んだ瞬間に進み、ようやく辿り着いた。ちなみに、その時に思った事は「凄ぇ……手術室ってテレビドラマのまんまだ…」だった。


 助産師さん達によって着ている物全て脱がされたのち、手術台に横たわって下半身麻酔を受ける。

 腰に針が数本刺されて数分後、下肢の感覚がなくなった身体を仰向けにされ、肩ぐらいの位置に幕が下ろされる。


「完全な立ち会い出産は出来なくなったけど、旦那さんもそばにいるからね、頑張ってね」


 院長先生の奥方である副院長先生の言葉の意味が分からず、声の方へと頭を動かしてみたら、先生の肩越しに旦那さんの顔が見えた。

 さすが令和時代というべきなのかも知れない、タブレット端末によるリモート立ち会い出産になったのだ。


 言われていた時間ちょうどに手術は始まり、体の上を何かが触れている感触だけはあるが、何が起きているのか全く分からないという、何とも奇妙な感覚。

ぶっちゃけ、実際に下半身麻酔を受けたことある人じゃないと分からない感覚だと思う、本当にあの感覚は説明できない。


 強いて言うなら、ゴム人形。何されても痛くないし、骨が無くなったんじゃないかくらいに何も感じない。


 先生や助産師さん、旦那さんの呼び掛けに何とか答えながら、チビらぎの無事を願い続ける。


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