大きな図体の割に一口は小さいのね
冷たくなったサンドイッチを頬張る。「大きな図体の割に一口は小さいのね。」ミナがそう言って笑っていたのを思い出す。
諦めたような表情で玄関からこちらを見つめるミニチュアダックスを後に残して、真夏の太陽の下へと歩を進める。向かう先はある神社だ。
港区の比較的住みよい場所にある(馬鹿にされてもいる。馬鹿な連中に)乃木神社には、日清・日露戦争を戦った陸軍大将、乃木希典とその妻乃木静子が祀られている。確かたいそうご立派な生き様が後世に語り継がれているはずなのだが、受験期に溜め込んだ日本史の知識も希薄になった今となっては、ただの墓石でしかない(その墓石も、正確にはこの神社にはないらしい。最近知った。びっくりした)。
一人暮らしを始めた蒲田の駅からは四十分ほどかかる。どこに行くにしても電車で比較的簡単にたどり着くことができる都心であることを考慮すると、あまり二つの駅の相性は良いとは言えないだろう。乗り換えも四回しなければならない。
それでも、高尾の駅までも自転車で汗だくになるまで漕がなければたどり着けなかった実家暮らしの時代を思い返すと、格段に近くなっているのだから、やはり何度考えてみてもあそこに家を建てた両親の気が知れない。
乃木坂駅を出て少し歩けば、すぐにその神社は視界に入ってくる。大きな鳥居に一礼を済まして、静かな境内へと入っていく。都会の隅にありながら、自然とうまく調和して訪れる者の心を静かに癒してくれるこの空間が、僕は好きだった。




