健太じゃないか
真っ暗だった視界がぼんやりと開け始める。大きなスコップを片手に派手に息を切らす、健太の姿がそこにはあった。
「健太じゃないか。」随分久しぶりだ。僕が紹介したあの女の子とはうまくいったのだろうか。
僕の脳は信じられないほど滑らかに回転していたのだが、口の方はそううまくはいかなかった。
言葉にならないなにかを大声で捲し立て続ける僕に怯えた健太は、鈍器として利用していたスコップを刃物に形態変化させた。鋭利な側面を僕の方に向けたのだ。大きく振りかぶる。僕は最期に、例の女の子とどうなったのかがどうしても知りたくなった。
健太の足首を掴む。悲鳴を上げた健太は、その勢いのままスコップを力強く振り下ろした。高校時代、僕と同じラグビー部に所属していた健太の身体には、未だに筋肉が敷き詰まっている。太さはそのままに筋肉から脂肪へと変化を遂げた僕の右腕は、前腕のちょうど中間地点辺りで一刀両断されてしまった。
健太がさらに悲鳴を大きくさせる。ここまで情けない姿を見るのは初めてだ。引退試合で負けた時だって、なにやらへらへらしていたくせに。それに、泣きたいのはこちらの方だ。僕は笑ってしまう。喉のさらに奥の方で、体液がゴロゴロと音を立てた。
腰を抜かして崩れ落ちてしまいそうな健太を支えてやるため、僕は何とか力を振り絞って立ち上がる姿勢をとった。利き腕がなくなると立ち上がることも難しい。バランスがとりづらい。どう責任を取ってもらおうか。僕は相変わらずゴロゴロとうがいのような音を身体の奥で鳴らしながら、健太の肩に残った方の手を置いた。ぽん(ぴちゃ)。




