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そういえば僕の腹には穴が開いていたのではなかっただろうか
薄汚れた都会の隅。その地下にあるライブハウスで僕は、今までに経験したことのない快感を身に受けていた。僕の周りでは数百匹に及ぶ大量の鯵が、半分捌かれた状態でビチビチと跳ね続けている。もちろん幻想だ。しかしそれほどひどい悪臭は、確かにこの地下に籠っているようだった。僕は必死に彼らの真似をした。浮きたくなかったから。自分の身体をさっきまで巡っていたはずの液体に溺れかけながら、パクパクと僕は笑っていた。とても気分がよかった。
鯵が僕の口内へと飛び込んでくる。僕はそれをボリボリと嚙み砕いてから、飲み込んでやる。ヘモグロビンの味。間違いなく白血球の味ではない。生命の営みに感謝。
そういえば僕の腹には穴が開いていたのではなかっただろうか。ふと思い出して視線をそこに落としてみると、さきほどまで血を流し続けていたその穴から今度は、鯵のなめろうがでろでろとこぼれ落ち続けていた。僕の大きな笑い声がライブハウスにこだまする。ひゅーひゅーとなにかが音を立てていた。
そして僕は眠りに落ちた。




