第三次世界大戦
ついに語りだした浩次。
衝撃の事実が今明かされる。
浩次の口調は冷静でゆっくりとしていて、この10年でずいぶん大人になったことを思わせた。
「2012年の2月、イスラエルがイランの核保有を危惧し宣戦。アメリカがイスラエル側につき、それに対しロシア、フランスがイラン側について参戦。第三次世界大戦が始まった。
4月には日本もイスラエル側に、というよりアメリカについて参戦。
戦争が始まったときは、俺も光も隼人もいつ戦場に駆り出されるか、びくびくしてたよ。3人とも別々の大学に通ってたけど、よく3人で集まって不安を酒でごまかしてた。」
戦争…。だが不思議と驚きはなかった。まぁここで見た街並みや、再会したときの浩次の反応も見ていたし、それ以上にそもそも俺が今10年後の世界にいることの方がよっぽど不思議だ。
俺はうなづきながら話を聞いていたが、隼人の名前が出ると思わず聞き返してしまった。
「隼人!そうだ、隼人はどうなったんだ!?」
浩次は下を向いて首を横に振った。
「それが、わからないんだ。8年前の5月に、いつもみたいに3人で飲んでたら、いきなり空襲があったんだ。警報もならなかったから、たぶんロシアのステルス機だと思う。必死で逃げたんだけど、少し離れたところに爆弾が投下されて、風圧で吹っ飛ばされた。気がついたら頭から血を流して焼け野原に1人。フラフラになりながら2人を探したけどまた気を失って、次起きたときは病院のベッドの上だった。」
「…そうだったんだ。」
さっき浩次が俺と会ったとき、あんなに大泣きしたのも大げさじゃなかったんだ。
空気があまりにしんとなったのでなんとか口調を戻して続きを聞く。
「あ、ごめん話の途中だったのに。そのあと、戦争はどうなったんだ?」
「あ、うん。1年近く戦争が続くと、しびれを切らしたアメリカがロシアに3発の水素爆弾を投下したんだ。これをきっかけに本格的な核戦争が始まった。1ヶ月もしないうちに世界中に核が投下されて戦争は終わった。…もう勝ちも負けもないよ。」想像を遥かに越えていた。2010年には恐れられていた核戦争が現実になっていたなんて。俺は異様に暗かったあの空を思い出す。
「もしかして、昼間なのに太陽が見えないのは」
浩次が今度は首を縦に振る。
「うん。核爆弾の影響だよ。空に化学物質が大量に飛散して、太陽なんてこの8年ずっと見えないままなんだ。気温も急激に下がっていて、これから氷河期が来るって言われてる。」
俺は言葉を失った。今日たまたまかと思ってたけど、7月にしてはずいぶん肌寒かったのを思い出す。
浩次も文字通り暗い将来を想像してか、口を開かなかった。
「お待たせお待たせ。はい、日替わり定食2つね。ごゆっくりどうぞ。」いきなり正面から声が聞こえたのでびっくりした。下を向いてる間に食堂のおばちゃんが目の前に来ていたのだ。おばちゃんは定食を置ききると、もう一組の客の会計に向かった。
「いただきます」
隣で浩次が言った。こんなに心のこもったいただきますを聞いたのは生まれて初めてだった。それに習って
「いただきます」
と言って食べ始める。
ご飯とたくあん、味噌汁、それから焼魚という質素なものだったが、食べ物のありがたみを強く感じさせてくれた。
焼魚を半分ほど食べ終わったところで何気ない疑問が浮かんだ。
「そう言えば、核戦争からまだ8年なのに、ずいぶん復興したんだな。電車もあるし、人も住んでる。放射能は大丈夫だったのか?」
浩次はもぐもぐしていたものを飲み込んでから
「日本は直接核の被害は受けなかったんだ。けど、首都圏は1年におよぶ爆撃の影響で見ての通りだよ。まぁ人が残ってる分、復興は早いのかもね」
「そうなんだ。じゃあ直接核の被害に遭った国は…」
言葉を曇らせながら聞く
「それは、わからないな。あの戦争以来他の国の情報は一切入って来ないし」
「…そっか。」
それからは2人とも口を開かず、ただ食べ物への感謝を噛みしめた。
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