お城に魔呂を持って行く
よいしょっと、三人は掌から腕を伝いなんとか倒れた魔ローダーの胸部、操縦席の開いたハッチにまで辿り着いた。
「うっ気絶してるね」
「ニナルティナ兵です」
「悪者ね」
「猫呼、納屋から縄を沢山持って来て! 僕達は此処で見張っているから急いでっ! あと家の者には内緒でっ」
「ええっ?」
急に猫呼が不安な顔になった。
「早く! 気を付けて」
「う、うん」
仕方なくという感じで、猫呼は来た道順に腕を伝い降りて飛んで行った。僕の真横には美少女が。二人きりでとても気まずい……
「降ります!」
「え?」
言った途端に目の前でフルエレは躊躇なくぴょんっと操縦席の穴に飛び降りた。ふわっとした白いドレスなんか着てお嬢様っぽいのに、魔輪を盗んだり割とアクティブな子なのかも知れない。
ヒューンヒューン
フルエレが気絶してる男の横で操縦桿を握ると即、魔ローダーが再び目覚めてPCみたいな起動音が鳴る。
「ちょっと待って!」
いきなり男が目覚めて暴れたりしたら……でもフルエレを守る為に僕も飛び降りた。
「これ、まだ生きています!」
「え、わかんの?」
「はい、魔ローダーなら動かせますよ」
「なんで!?」
僕は魔力が無いから最初から動かせない。
「私、魔力はあるのに魔法が使えなくて……だから魔法機械とか大好きで。魔ローダーも家にあった古い機体に良く乗って遊んでいました」
「へぇ~~?」
家に魔ローダーあるんだ。小国と言ってもやはりお姫様なのか。
「この魔呂をどうしますか?」
「取りあえずこの男をぐるぐる巻きにした上で、君が動かせるなら、お城に持って行こうと思う。お城の知り合いを通じてこの男を引き渡すよ。君もその時にどうするか決めてもらって!」
そう言った途端に、彼女はへっという顔になった直後に暗く沈んだ。
「は、はい」
程なくしてポニーに乗った猫呼が、過剰なくらいの大量の縄を持って戻って来た。
『掌に乗って下さい!』
「にゃ?」
おずおずと縄を持った猫呼が掌に乗ると、そのままウィーンと操縦席に導いて、妹もピョンと飛び降りた。
「おじさんが寝てるよー怖い」
「うん、縄で縛るから!」
僕達は椅子と背中の隙間に慎重に縄を通し、まずは腕が動かない様に縛ると、口から足首からあちこちグルグル巻きにしてやった。
「ふぅこんな感じかな?」
「じゃ、あれ……そう言えば貴方お名前は……」
「ああ、僕は砂緒という貧乏貴族の息子さ。この子は妹の猫呼」
「将来結婚するの!」
「こ、こら!」
猫呼はむぎゅっと腕に強く抱き着いて来る。
「まあ。では砂緒、猫呼ちゃん椅子にしっかりつかまってて下さいね!」
「へ?」
意味が良く分からない僕達の前でフルエレは座席の横から操縦桿を握り直すと、ゆっくりと倒れた魔ローダーの上半身を起こして、さらに立て膝をして……そこからさらに止まらずに上半身を前のめりに倒し始めた。
「何を!?」
僕は猫呼と椅子を必死にしっかり握って叫んだが、彼女は止まらない。
「落とします」
「へ?」
言うと、片手を操縦席の前に持って来て、支えの無くなったニナルティナ兵を捨てる様にポロッとハッチから落とした。
パサッ
そのまま大きな掌でキャッチしてグイッと握る彼女。やる事、怖いなこの子……
「ごめんなさい、あんなのと同席したく無かった」
「ハッキリしてるね君」
「怖いにゃ!」
正常位置に戻った魔ローダーの操縦席に彼女は座った。
「この機体、まだまだ動く様です。お城に向かいましょうか?」
「お願いするよ。お城の場所は分かる? ここから北西に向かえばリュフミュランの城があるんだけど」
僕は開いたままのハッチから外を見た。
「何とか行ってみます!」
「猫呼は家にお帰り」
「一緒に行くのっ!」
しっかり腕に抱き着いて来て離さない。でも強く言えない僕も甘いな。男を片手に掴んだまま魔ローダーはゆっくりと歩き出した。
「あっいけない!」
突然フルエレがハッとして振り返った。
「敵襲!?」
「大切な魔輪を忘れてました!」
あれ、盗んだ奴だよね? 言いながら彼女は数歩戻ると、倒れた魔輪を指先で慎重に掴んで握って進み直した。