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2-13 幽鬼探偵~EVIL×LIAR~

『死期を迎えた人間に対する手続きを受理した死神は、当該人間に対する処置を速やかに行うものとする。また、死神による錯誤や手続きに関わる不備などの特別の事情がある場合には当該人間及び関係者に関わる事象の現状回復に速やかに努めなければならない』(閻魔法典第45章第666節第12条より抜粋)


もしも、その死が間違ったものだとしたら?

死ぬべき寿命(とき)を迎える前に誤って死んでしまったのだとしたら?


「死神にも死神の法律(ルール)があるのだよ。だからこそ、その法に反した出来事(ウソ)は正さなければならないと思わないかい?」

これは、誤って死んだ人間の『あくい』を求める変な死神と契約した探偵少女が織りなす現代ダークファンタジー。


死神は嗤い、嘘は暴かれ、死者は再び動き出す。

「それでは、仕事(すいり)を始めようか!」

死は極めて平等だ。


誰にでも等しく訪れる。

寿命や病気で死ぬ人もいれば、昨日まで元気だった人が次の日には死ぬことだってある。


話は変わるが、私は小さい頃から家の事情で一人ぼっちだった。

趣味は日記と読書で時々小説を書く位だった私を叔父はいつも気に掛けてくれていた。


叔父の名前は村和幽貴(むらかずゆうき)

探偵事務所を経営しており、「暇だから」と言いつつ私の遊び相手をしてくれていた。

そんな私の将来の夢は、叔父の経営する探偵事務所で探偵として働くことだった。


だが、叔父はある日交通事故で帰らぬ人になった。



それは、私が叔父の探偵事務所で働くことになった初日。

私の目の前で起きた出来事だった。


だけど……。


「お………、………」

もしも、大切な人にもう一度会えるなら。



「……君、………聞こえているかい?」

もしも、死んだ人が帰ってくるのだとしたら。



「やあ、やっと気付いたかワトソン君。さあ、仕事の時間だ」

私は死神に魂を売ってでも、大切な人を取り戻そうとするだろう。




「先生!何度も言いますが私の名前は村和都(むらかずみやこ)です!」

そして、私は今日もこの死神(せんせい)と共に謎を解き明かす。



* * * * *



私は事務所の窓際から黒々とした雲に覆われた外を見ていた。

いつまで経っても止むことのない雨が私の気分を憂鬱にさせる。


駅前から百メートルほど離れた場所にある地上六階建てのオフィスビル。

近くにはコンビニやスーパーもあるビルの四階を探偵事務所として使っている。


ただし、最近はペットの捜索や浮気調査のために訪ねてくる依頼人ばかりだ。

事件現場に現れては犯人を突き止めたりするような仕事を最近はした覚えがない。

まあ、そもそもそんな仕事をしたことは一度もないのだが。


たまに『面白いギャグセンスここらへんに落ちていませんでしたか?』と言って訪ねてくる自称お笑い芸人の青年もいるが、『ここになければ無いですね』とにこやかに対応しつつ、『あなたが地獄に落ちればあるかもしれませんね』と内心では毒づいている。


そんなくだらない回想に耽っている間も雨は降り続けている。

激しくはないものの、延々と窓ガラスを叩きつける様は降り止むことのない粘り強さを感じさせる雨だ。


「この雨じゃ今日は誰も来なさそうですね。そもそも年末年始のこの時期に来るような依頼人なんているんですかね…」

なおも振り続ける外の景色を見ながら私は独り言を呟く。


紹介が遅れたが、私の名前は村和都(むらかずみやこ)

少し…いや、ほんのちょっとだけ身長と容姿が幼く見えるが花も恥じらう二十一歳女子だ。

そして、この幽貴(ゆうき)探偵事務所を取り仕切る唯一の女探偵にして所長でもある。


ただし、”世間的には”だ。


実際には…。



「そんなに退屈ならば、君も何かしら趣味の1つでも持ったらどうだい、ワトソン君?」

この部屋にいるもう一人の男がこの探偵事務所を牛耳っている。


来客用の高級ソファに深く腰掛け、行儀悪く机に両足を乗せる男。

胡散臭い雰囲気ながら、二十代前半の青年位にも見える。


喪服のように真っ黒なスーツ。手入れの行き届いた艶のある革靴。

あとは黒いネクタイでもしていれば、葬式帰りの青年にも見える彼のことを私は『先生』と呼んでいる。


そんな彼は意地の悪い笑みを浮かべつつ、私の方を一切見ずに手元の漫画本を読み続ける。


「それにしても漫画という物は実に面白い。人間が考えた最高の娯楽の内の1つだと思わないかい?」

「とても楽しそうですね、先生」

「ああ、勿論だとも。特にミステリーは最高だ。駄作も名作も押し並べて良い!作者が仕掛ける謎という名の罠に読者という獲物が掛かる様を作者は毎回楽しみにしているに違いないな!」

「へー、そうですかー」

『それは先生(あなた)だけですよ』という言葉が口から出かけたが、私はなおも漫画を読み進める男…この探偵事務所を開くきっかけになった彼に対してぞんざいな相槌を打つ。


「しかし、『悪魔探偵デビルくん』の13巻で犯人が実は女装した少年だったとは。作者は何を考えてこんなおかしな人物を描き上げたのだろうな」

「ああ、その回の話なら私も読みました。犯人が使った凶器のトリックが秀逸でしたね」

まあ、少年漫画であそこまで本格的なトリックを考えるような作者だからこそ、今でも連載を続けることが出来ているのだろうなとは思うが。


「まあ、世の中には成人女性なのに少女どころか少年と間違われるような助手が目の前にいる位だしな」

「余計なお世話ですよ!?これでも、近所のおばちゃんたちからは『都ちゃんは5年経っても変わらなくて羨ましいわ』とか言われたりしてるんですから」

「自分で言っていて悲しくならないのかい?」

相変わらず無神経な発言をする先生だ。

しかし、胸はともかくとして、見た目をもう少し女性らしくすれば年相応に見てもらえるのだろうか……。



「しかし、何故毎回主人公が向かう先々で殺人事件が起きるのかね?」

「それはあくまでフィクションだからとしか言えないですが」

「しかも、季節の移り変わりの描写を見る限り数年は経っているはずなのに、未だに登場人物たちは学生のままなのだが?」

「それもあくまでフィクションだからとしか言えないですが。それよりもこの雨ですし、もう依頼人も来ないと思うので今日の営業は終了しませんか?」

何となくだが、この話題に深く踏み込んではいけない気がした私は今日の仕事は終了したいという意思を告げる。


すると、私の言葉を聞いた彼は考え込む仕草をし始めた。

「ふむ…では、依頼人が来なくて退屈している助手《ワトソン》君に対して、これからこの事務所に来る依頼人の性別を当てるゲームを提案しようか」


「えっ?いやいや、この時間に雨の中わざわざ来るような依頼人なんて絶対にいないですよ?」

私は先生の言葉に対して、反射的にそう答えてしまった。



彼が最も嫌うその言葉を。




「ほう…”絶対”…か…」

たった一言呟き、先生は笑みを浮かべた。


私がしまったと失言に気付いた頃には彼の纏う雰囲気は一変し、事務所全体の空気も一変していた。


首元に刃物でも添えられているような緊張感。

あるいは、死が目前に迫った罪人のような恐怖感が私を支配する。

石のように動けず、雨音と私の早鐘のような鼓動だけが耳に入ってくる。


「忘れたのか?私がここ(・・)まで来た目的を。それとも、あえて再び口にする必要があるのかワトソン君?」

傲岸不遜な態度で笑みを浮かべたまま、身体から発する気配は更に重く荒々しいなっていく。

対峙しているだけでも手足が震え、今にも逃げ出したくなる。


だけど…だからこそ。



「男…の…人!」

私は気力を振り絞って先程の先生の質問に答えた。


私はもう逃げない、例えどんなに恐ろしくても。

私はあきらめない、例えどんなに怖くても。

それに私は知っている。

彼がこの場所にいる目的(・・)も、彼が何者(・・)なのかも、何のために私に協力している理由も。



「ふむ…」

途端に先生の重苦しい気配が霧散し、先程までの緊張感は嘘のようになくなった。

緊張から解放された私は急いで呼吸を整える。



「ならばここで断言しよう。これから二分以内にこの事務所へ男の依頼人が一人で来る。その男は開口一番に私が待ち望んでいた言葉を発するだろう」

私の呼吸が整え終わるのを待っていたかのように、両手を大きく横に広げたパフォーマンスをとりながら彼は宣言する。

普段ならば何の冗談だろうと思うが、彼の言葉に一切の嘘偽りはなかった。


その音は、まるで先生の話が終わるのを待っていたかのように聞こえ始めた。


事務所の外の廊下から微かだが不規則にカツ、カツと床を叩く音が響いてくる。

どうやら廊下を走っているのか、段々と音が大きくなりながら近づいてくるようだ。

たが、床を叩く音は女性が履くヒールのような音のようにも聞こえる。


「どうやら(あくい)のお出ましのようだ。ではワトソン君、仕事の時間だ。すぐに入口まで行って迷える依頼者(クライアント)をこの事務所まで迎えにいきたまえ」


先生に急かされる私に関係なく、床をカツ、カツと叩く音が入口の扉の前で止まる。

曇りガラスで隠された入口のシルエットから依頼者がすぐそこまで来ていることは間違いなかった。


「それでは、仕事を始めようか」


まるで、先生の声に呼応するかのように扉を開けて事務所に依頼人が入ってくる。

依頼人は焦ったように荒い息をした青年だった。

ビニール傘を片手に持ちながらも、雨に濡れたのか髪や靴、着ているスーツも濡れている。



「死んだ人が生き返る探偵事務所はここですか!?」

それが、年末最後に来た依頼人の第一声だった。

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