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2-10 魔王の魔力ぜんぶ吸う!

 美味しいものと魔道具が大好きな、おてんば公爵令嬢エリザベス。


 誰もが12歳に神様からスキルを与えられる中、【テキストエディタ】という前例のないスキルを頂いた為に、追放&婚約破棄をされてしまう。


 しかし【テキストエディタ】は、魔道具の魔力コストや効果や対象を書き換えられるだけでなく、魔力の使用者すら好き勝手に書き換えられる恐るべきスキルである事に気が付く。


「あれ、敵の魔力で魔法うっちゃえばまさかのノーリスクハイリターン?」


「魔物の魔力で出したケーキも焼き菓子もおいしーいっ!」


 そして、王子も礼儀作法も苦手だったエリザベスは、自由を得て食欲と興味のままに魔道具の改造に突き進む。


 逃げて! 魔力の多い生き物逃げて!

「エリザベス、お前を我が公爵家から追放する!」


 公爵である父にそう告げられた。

 私と同じアメジストの瞳は、いつも以上に冷たい。


「テキストエディタなんて訳の分からないスキルを頂くだなんて、公爵令嬢としてあり得ん!」


 理由としては、洗礼式で頂いたスキルが誰も知らないスキルだからという事だ。

 この国では12歳になると、神様からスキルを頂く洗礼式がある。そこで頂いたスキルが、テキストエディタという誰も聞いたことがないものだった。


 だけど、理由は別の所にあると思っている。


「俺の婚約者が、こんな訳の分からないスキルだなんてありえない。お前とは婚約を破棄する。そして、新たに彼女と婚約する!」


 なぜか父の書斎にいるこの国の第1王子と、私と同じ綺麗なピンクブロンドの髪を揺らしながら手を握りしめあっている私の妹。

 そんな宣言をしながらもどこか嬉しそうな顔の2人に、何を言っても意味がない事を悟った。



 こんな感じで婚約破棄と追放されたのが、ついさっき。今はこの王都からも追放されるという事で、馬車に乗せられている。


「……いやったぁぁぁ!」


 思わず両手を上げて喜んでしまった。


「これであの嫌味ったらしい面倒な王子も、大嫌いな礼儀作法も、言葉遣いもなくなったぁ~!」


 公爵家に産まれたからと、色々諦めて我慢して生活していた。

 でもこれからは、大好きな魔道具を眺めていても怒られる事もない。街にあるカフェにだって自由に行ける!


「それにしても、神様から頂いたスキルに文句を言うなんて罰当たりすぎるでしょ!」 


 父の書斎に呼ばれて、そのまま追放されるとは思わなかった。

 何の準備もなく馬車に放り込まれたのだから、本当に酷いと思う。服がドレスではなく、薄紫のシンプルなワンピースであった事だけは良かった点だろうか。


 私が持って来られたのは、ポケットにあった水を出す魔道具と刺繍したハンカチだけ。

 この魔道具は祖母から貰った大事な物だったから、お守り代わりにいつも持ち歩いていた。ちょうど手で握れるくらいの筒状のこの魔道具は、手で持って傾けるとお水が出せる。


「お水だけあってもねぇ……」


 これからの事を考えながら手元の魔道具を見つめていると、魔道具に三角形のゴミが付いているのに気が付いた。


「あっ、ゴミ……ん、取れない?」


 ポケットに入っていたハンカチで拭いても取れない。手で擦って取ろうと触ると、目の前に文字が浮かび上がった。

 書いてある文字を読んでみると、この魔道具の説明だった。


「魔力を5使う……水を10リットル出す?」


 確かにこの魔道具は、一度使うと大量のお水が出る。だから厨房とかお風呂以外では使い難くて人気がない。


「もう少し出るお水の量が減れば、普段から使えて便利なのにね」


 10リットルと書いてある所をちょんと突いてつぶやくと、文字の書いてあるボタンが沢山ついているボードが目の前に出てきた。


「これ、何?」


 恐る恐るボードに書いてある文字を押してみると、浮かんでいる文章に同じ文字が表示された。

 消すと書いてあるボタンを押すと文字を消す事が出来た。


「……もしかして、魔道具の書き換えが出来る?」


 ドキドキしながら、魔力を1消費して500ml出すように書き換えてみた。

 馬車の中にあった水筒にお水を入れてみよう。


「溢れたら大変な事になるけど、気になるし良いよね」


 水を出す魔道具を水筒に向けて傾ける。

 トポトポと、空っぽだった水筒にお水がちょうど入った。


「……もしかして、私のテキストエディタってこう使うの?」


(もっと試してみたいけど、お水はもういらないなぁ)


 このスキルを使えば、魔道具を新しく作る事も出来るかもしれない。


 魔道具は基本的に、ダンジョンで手に入る物と魔道具職人が作る物の2種類がある。

 ダンジョンで手に入る物は当たりはずれはあるものの、魔道具職人には作れない物ばかりで高値で取引されている。


「私のこのスキルを使えば、ダンジョンの魔道具も作れるかも!」


 そう思うと、ワクワクしてきた。

 大好きな魔道具を好きなだけ触れると思うと、この追放は良い事ばかりだ。


 ぐぅ~……。


「お腹空いた。そういえばお昼食べてないや」


 いつの間にか、お昼はとっくに過ぎていた。水筒は馬車の中に置かれていたけれど、食べ物は一切なかった。

 お腹が空いたなぁとぼーっと魔道具を見つめていたら、パッと閃いた。


「もしかして、魔道具を書き換えたら……食べ物出せるんじゃない?」


 テキストエディタを開いて「魔力を1消費して、パンを出す」と書き換える。

 ドキドキしながら魔道具を傾けると、片手ですっぽりと隠れるくらいのとても小さなパンがぽとりと落ちた。


「出てきたっ!」


 ただこのパン、手で千切ろうとしてもびくともしない。

 仕方なくぱくりっと口に入れたら……パンを食べる音とは思えないガリッという音がした。


「うぅ~、なにこれ」


 ハンカチに出したパンみたいな物は、硬すぎて歯形すらついてなかった。この硬すぎる物体は、絶対にパンじゃない。


「あっ、魔力の消費を上げたらどうかな?」


 魔力を10消費してパンを出すように書き換えて魔道具を傾けると、魔道具の先からぽふんとパンが落ちた。


「さっきより大きくて、ふわふわしてる」


 両手で持てるくらいの大きさのふわふわのパンを持ち上げて、手で千切ってそっと口に入れた。


「おいしい」


 パンは魔力量でふわふわでおいしく、大きさも変わるみたい。これは良い勉強になった。


「ん……料理長のスープが飲みたい」


 パンを食べていたら、料理長のスープが飲みたくなった。


「よし、やってみよ!」


 またテキストエディタを開いて、「魔力を10消費して、料理長のスープを出す」と書き換える。

 魔道具を傾けると、スープがポタポタと膝の上に掛かる。

 

「あつっ!!」


 スプーン2杯分くらいしかスープが出てこなかったから、火傷は免れた。お水もそのまま出たんだから、スープもそのまま出るのは当然だ。


「お皿忘れてた……」


 誰にも見られていないけど、恥ずかしくて顔が熱くなった。

 魔力が少なすぎたから、魔力を50消費してお皿に入った料理長のスープを出すように書き換える。


「これでどうかな?」


 膝の上で魔道具を傾けると、スープボウルに半分くらいスープが入って出てきた。


「出来たっ! あっ、スプーンがない」


 お行儀が悪いけど、もう公爵家の人間ではないのだからとそのまま口を付けた。


「……おいしい」


 もうあの家は私の居場所ではないし、戻る事もないと思ったら心がぎゅっとなった。

 それと同時に、料理長の特製ソースが掛かったステーキも食べたくなった。


「ステーキも良いけど、デザートもいいなぁ。あっ、でも魔力がもう30もないや」


 窓の外を眺めながら何を出すかを考えていると、遠くの方に角ウサギを見つけた。


「あの子はどれくらい魔力あるのかなぁ。はぁ、魔力欲しい」


 遠くにいる角ウサギを見つめながらつぶやいた。


「あの角ウサギの魔力使えないかなぁ」


 テキストエディタを開いて、魔力の所をどう書き換えるかを考える。

 筒を向けた魔物の魔力を吸い取って使うと試しに書いてみる。


 どうせならおいしいケーキが食べたい。

 魔物の魔力150を使って、お皿に乗ったイチゴのケーキとフォークを出すと書く。


 ドキドキしながら、魔道具を角ウサギに向ける。


「もう大丈夫かな?」


 そっと魔道具を傾けていくと、膝の上にお皿に乗ったケーキがぽふんと出てきた。


「出来た? あっ、私の魔力が減ってない!」


 角ウサギの魔力を吸い取れたみたいだ。

 まずはおいしいかどうかケーキを食べてみよう。


「ん~、おいしいっ!」


 お家で食べていたケーキと同じくらいおいしいケーキだった。


「まだ角ウサギいるし、焼き菓子も出しちゃおうかな」


 魔力の設定が大きいとどうなるんだろう。

 角ウサギの魔力がどれくらいかわからないけれど、絶対に500はないだろう。魔力500使って焼き菓子を出すように書き換える。


「おいしいおいしい焼き菓子ちゃんになぁれっ!」


 さっきと違う角ウサギに魔道具を向けていると、角ウサギが地面にパタリと倒れたのが見えた。


「あっ! そういえば、魔力を使い切ると気絶するんだよね。角ウサギさんごめんね」


 角ウサギさんに謝ってから魔道具を傾けると、ぽふんと焼き菓子が出てきた。


「これは角ウサギさんの魔力を全部使った焼き菓子。絶対においしいよねっ!」


 ぱくりっと一口食べると、外はサクッと中はしっとり。バターとバニラの良い香りが口の中に広がって、今まで食べた事がないくらいおいしい。


「はぁ、幸せすぎる。角ウサギでこれだから、もっと強い魔物だとどんなにおいしい物が食べられるんだろう」

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