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第9話 全てが明らかになる時

「さっきから何をしているんです、兄上」


「ディゴス……」


「一人の店員とずっと話し込んで……王子たる者、行動は迅速にしなければなりませんよ」


 エルトランと違い、相変わらず自信に満ちた表情である。

 自分こそが未来の王に相応しい、という態度をまるで隠していない。


 ディゴスはミラベルに顔を向ける。


「さあシチュー屋さん、どうしたんだ? 兄上にシチューを食べさせてあげてくれ」


「でも……」


「何をしてるんだい、早く」


 苛立ったかのような声を出し、シチューをよそわせるべく、ミラベルに右手を伸ばすディゴス。

 ミラベルは思わず声を上げた。


「あ……!」


 ディゴスの右手に、“あるもの”を発見したのだ。


「あなただったのね!?」


「なんだいきなり? 無礼じゃないか」


「私に王子の毒殺を依頼してきた仮面の男!」


「な、なにを言い出すんだ、この女……!」


 焦り出すディゴス。


「この手のかぶれ、間違いない!」


「!?」


「私の家にある毒草特有のかぶれ方だもの! あなた、あの時帰り際にさわったもんね!」


「ぐっ……!」


 ミラベルは確信し、ディゴスは汗を流す。

 まさかこんな展開になるとは夢にも思っていなかったのだろう。


「ディゴス、君がミラベルに……?」


「し、知らない! 私は何も知らない!」


「じゃあ、彼女の指摘したかぶれはなんなんだ」


「こんなもの……虫さされかなにかだろうさ!」


 言い訳するも、顔色には如実に表れてしまっている。

 エルトランも毒殺される覚悟はあったようだが、まさか弟本人が首謀者だったとは思ってなかったようだ。


「シチュー屋、妙な言いがかりは許さんぞ!」


 ディゴスに指を突きつけられたミラベルがコップに入った水を差し出す。


「変なこといってごめんなさい、ディゴス様。お詫びにこれでも飲んでくださいな」


「分かればいいんだ……」


 噴き出た汗で失った水分を欲するかのように、ディゴスは水を一気飲みした。


「あーあ、飲んじゃったわねぇ」ニヤリと笑うミラベル。


「は……?」


「私は毒作りの名人な令嬢よ? ただの水なんて飲ませると思う?」


「な……! 貴様……!?」


 青ざめるディゴス。今飲んだばかりの水が毒だったとしたら、とさらに汗を流す。


「ひいいっ! お、おい! 何とかしろ! 解毒剤は持ってるんだろ!?」


「もちろんよぉ」


「なら早くよこせ! 早くぅ!」


「いいけど……あなたが仮面の男なんでしょ?」


「……!」


 解毒剤の代わりに自白を要求するミラベル。

 ディゴスも他に助かる道はないかと頭をフル回転させるが、自分が毒に蝕まれる未来しか思い浮かばない。

 背に腹は代えられない。


「そ、そうだ! 私が仮面をつけて……お前の家に行った! 私の派閥にもさすがに兄上を殺そうとまでする奴はいなかったからな……」


「婚約破棄騒動も?」


「そうだよ……私の仕業だ。お前が兄上を殺す動機を作りたかったんだ!」


「それだけ聞ければ結構。満足だわぁ」


「よし、早く解毒剤を……!」


 かぶれた右手で必死に催促する。


「ないわよ、そんなの」


「え?」


「だって、あなたに飲ませたのただの水だもん。水の解毒剤なんてあるわけないでしょ?」


 フェイクだった。動揺した隙を突かれ、見事に騙され、自白までさせられたディゴス、目を血走らせる。


「貴様ァ!!!」


 激高したディゴスが取り巻きの兵士たちに命じる。


「この女を殺せぇ!」


 第二王子の命令である。兵士たちが剣を構える。

 だが――


「待った」


 ミラベルを守るように、エルトランが彼らの前に立ちふさがる。


「兄上、なんの真似だァ!?」


「僕の命が欲しいならいくらでもあげたというのに……だが、ミラベルの命を奪うことは許さない」


「な、なんだと!?」


 エルトランは弟が王位を望むなら渡したし、命を望むならそれも渡しただろう。

 しかし、そんな彼にも絶対渡せないものがあった。正確には、渡せないものができた、というべきか。


「おい、殺れ! こうなったら兄上ごと殺してしまえ! 後始末は私が何とかしてやる!」


 しかし、兵士達は動けない。

 ただ単に王子殺害に踏み切れないのではない。エルトランの放つ気迫に押されてしまっている。


「頼りない奴らだ……よこせ! 私がやってやる!」


 兵士から剣をひったくり、ディゴスがエルトランに斬りかかる。


「であああっ!」


「ディゴス、君は王に必要なのは頭脳や政治力だといって、あまり剣の稽古には熱心じゃなかったな。だけど、必要な時もある」


 ディゴスの剣はあっさり叩き落とされた。あまりにもあっけない兄弟対決だった。


「ううっ……!」


「ディゴス、僕は決心したよ。今までは君と争うのが嫌で、ずっと遠慮していたけど、はっきりと言わせてもらう」


 エルトランの表情はかつてないほどに引き締まっていた。先ほどまではなかった威厳や風格といったものが備わっている。


「君にこの国は任せられない。僕が国王になる!」


 上に立つ者としての資質の差を見せつけられ、うなだれるディゴス。


「ううっ! くぅぅっ……!」


 彼がエルトラン暗殺を企んだことは大勢に聞かれてしまっている。兵士たちに抱えられ、ディゴスは連れて行かれた。


 事態がひと段落し、ミラベルがエルトランに声をかける。


「エルトラン……王子」


「今まで通りエルトでいいよ。ミラベル、シチューをいただけるかい?」


「もちろん!」


 ミラベルは毒など入れていないシチューを振舞い、エルトランはそれを喜んで平らげた。


 一連のやり取りを遠くから眺めていたカレンは、驚きつつも笑みを浮かべた。


「いやー、あたしはとんでもない二人をアルバイトにしてたみたいだね」

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