第7話 第一王子毒殺計画前日
いよいよ明日はフェスタ、ミラベルとエルトの二人は酒場での仕事を終える。
カレンは満開の笑顔で二人を褒め称える。
「二人とも、よくやってくれたよ」
「こちらこそ!」
「一ヶ月間ありがとうございました」
小さな袋を二つ、懐から取り出すカレン。
「あとこれ、少ないけど……」
二人に手渡されたのは一ヶ月分の給金だった。
「えっ……。こんなの貰えないわよぉ!」手を振るミラベル。
「僕もです。足手まといだったのに……」固辞するエルト。
「いいから、いいから。あんたたちは十分役に立ってくれたよ。あたしに『タダ働きさせた』なんて恥をかかせないでおくれよ」
カレンの言葉に、ミラベルはうなずいた。過度な遠慮は時として失礼になってしまう。
「分かったわ。じゃあありがたく。ほら、エルトも」
「う、うん……」
二人は声を揃えて言う。
「カレンさん、本当にありがとうございました!」
カレンも二人の母親かのような笑みを浮かべる。
「フェスタにはあたしも顔を出す予定だから、おいしいシチューを出しておくれよ」
もちろん、ミラベルは快諾した。
***
酒場を出て、二人で町を散歩する。
「いよいよ明日ねぇ」
「うん」
「明日は一緒にシチュー屋、頑張ろうね!」
これに対しエルトは――
「実はそのことなんだけど……ごめん!」
「ど、どうしたの?」
「僕は君のシチュー屋を手伝えなくなってしまって……だから明日は君一人でやって欲しい」
「あら、そうなの……」
残念ではあるが、ミラベルは安堵してもいた。
本来毒殺は一人でやる予定だったし、これでエルトを巻き込むことはないと肩の荷が下りた。
エルトを死なせたくないあまり、彼を共犯にしたが、それを後悔してもいたのだ。
「ごめん……」
「ううん、いいの。シチュー屋も毒殺も私一人で問題ないわ。でも……」
「どうしたの?」
ミラベルは思っていたことを口にする。
「本当は……迷ってるの。第一王子は残虐らしくて、私も婚約破棄されたし、復讐してやりたいってのは間違いないわぁ。だけど……毒殺しちゃうまでの人かなと思って……」
これにエルトは――
「迷っちゃダメだ」
「え……!」
「相手は君の名誉を傷つけた男だ。人だと思っちゃいけない。毒殺されてこそようやく感謝されるような存在なんだ」
「エルト……?」
いつになく物騒な言葉を吐くエルトに、ミラベルも引き気味になる。
「第一王子を毒殺し、君は自分と家の名誉を回復させる。絶対にこれを成し遂げること。いいね?」
「う、うん……分かった」
ミラベルも仕方なくうなずいてしまう。
気まずい沈黙が流れる。
この空気を変えるべくミラベルが話題を切り替える。
「ああ、そうそう。あなた、元々死にたくて私のところに来てたよね?」
「そういえばそうだったね」
「あの時のあなた、本当に死にたそうだった。世の中に絶望してるというより、自分という存在を早く消したいっていう感じだったわ」
「うん……その通りだ」
うつむくエルト。
「でも今は違うわぁ」
「え……?」
「この一ヶ月、酒場でカレンさん手伝ったり、ひったくりやっつけたり、森の中に入ったり……私も楽しかったけど、あなたも生き生きしてた!」
「!」
自分が「生き生きしていた」と指摘され、驚くエルト。
「私、婚約破棄された時は落ち込んだけどよかったこともあるの。それは……あなたに出会えたこと!」
「僕に……?」
「そう! だって、婚約破棄されてなきゃ私は王都の外れで毒作りなんてしてないし、それをやってなきゃあなたにも出会えなかったでしょ。私、あなたと出会えてよかった! あなたが死ぬのをやめてくれてよかった!」
にっこり笑うミラベルに、エルトは何かを言いそうになるが、ぐっとこらえる。
「明日のフェスタ、どうなるか分からないけど、もし無事に終わったらさ、またカレンさんの酒場に行こうね! 二人ともアルバイト代もらったんだし!」
「そ、そうだね……」
エルトはぎこちない笑みを浮かべる。
「じゃあねー!」
「じゃあね……」
遠ざかるミラベルの背中に、エルトは「ごめんよ……」と声を漏らした。