オタクの話
「一回、マンガ喫茶に行ってみたいんだよね」
「駄目だよ! そんな所に行ったらオタクになっちゃうよ!?」
中学の頃、同クラスの友達にポロっと自分の願望をメールで送ったら想像を超えた熱量で止められました。メールの相手が当時、好きだった子というのもあって、その時は「わかった!行かないよ!」と精一杯の嘘を送りましたけど、その後、僕は男友達とマンガ喫茶へ行き、メール相手へ告白してフラれました。なので、この話はここで終了です。
個人的に、今は結構、良い時代になってるんじゃないかと思います。
普通に会話で今期のアニメの話が出来て、お酒を飲みながらアイマスで推しは誰なのかを話し、児童館からの付き合いのアイツは相変わらず「進撃の巨人? 二巻で切ったよ」なんてクレイジーなことを言う。
平成のあの頃じゃ考えられません。
僕が中学の時、周りでオタクという言葉は良くない使われ方をしていました。
ぶっちゃけてしまうと「オタク=犯罪者予備軍」という使われ方ですね。うわっ、改めて偏見が凄いなこれ。
まぁ、世間の風潮やメディアの誘導もありますからね。そこは仕方ない―そんなことないけど―として。
やっかいなのが、オタク認定をされる境界線が何処からなのかです。
ゲームは問題ないんですよ。PS2とニンテンドー64が全盛期だったので、みんなでそれしかやっていなかったですし。
アニメもセーフ。みんな、テレビでやってる番組しか観ないですし、あとは、その劇場版。それにジブリとディズニー。
マンガはアウトです。正確には週刊少年ジャンプ以外がアウトです。何故なら、みんな読んでるのがジャンプだから。
つまり「みんなが知ってる物はセーフ」ってことなんですよね。
何かちょっとでも周りが知らない物を知っていると、
何で詳しいの?
↓
もしかしてオタク……?
↓
キャー! のび太さんのエッチ! 慈悲は無い!
ってなっていましたから。
……いや、本当になったんですよね。悲しいことに。
これは僕の幼馴染の話なんですけど。
幼馴染と言っても女子ではなく、どっちかと言ったら不良属性持ちのゴリゴリで、今は立派に大工をやってる、アメリカのメタルバンドKORNのボーカルに似てるナイス・クレイジー・ガイな彼から、ある日、電話が掛かってきました。
当時、彼には彼女がいたんですけど、どうやら別れたと。本棚のマンガが見つかって「気持ち悪い」と吐き捨てられてフラれたと。それで話を聞いてほしいということでした。
それはお前さんのミスだよ。この前、一緒に買いに行った『かみちゃまかりん(著:コゲどんぼ)』でも見つかったんでしょ? お前さんのイメージを考えたら、そりゃギルティさ。
僕の実家の部屋からドア・トゥ・ドアで歩いて五分の彼の実家の部屋へ行き、上記した予想を話しました。
「いや、違うんだ……」
「じゃあ、カードキャプターさくら?」
「違う……」
「ん? じゃあ何?」
幼馴染のキャラのことを考えると、気持ち悪いなんて、そうそう言われないからな……そう思案する僕に、彼は、今も信じられないといった面持ちで、その口を開いてくれました。
「鋼の錬金術師がバレた……!」
ハガレンでした。
発行部数が世界累計で8000万部、アニメ化が二回、劇場版も二回、実写版は三回でゲーム化は沢山、最終回を迎えた時は一斉に周りが「ガンガン大丈夫かな? 頑張れ、ソウルイーター!」って思ったハガレン……あのハガレン?!
「嘘だっ!!」
「マジ!!」
どうやら本当でした。
もうね、仕方がないんですよ。ガンガンを読んでる人が、ちょっと少なかったので。魔法陣グルグルだったらワンチャンあったかもしれないんですけど、まだハガレン、ギリギリでアニメ化してなかったから……
いつもはクール・アンド・ビーストな彼も、ひたすら「えー……マジかぁ……」と困惑しきりでした。そりゃそうだよ、今風に言うと「鬼滅の刃あるの?! うわっ!! キモッ!!」みたいなもんですからね……その展開を予測するのは、さすがに困難を極めるよ……
当時、僕の周りのサブカル、エンタメの扱い方は、こんな感じでした。なので、心の底から、この点に関しては、本当に良い時代になったなと思います。好きの多様性って素晴らしいですね。楽だし。
この出来事を胸に刻んで高校へ進学した僕は、隠れオタク(当時の意味)として隙を見せずに生きていこうと思った矢先、少しヤンキー系の友達にMDに入ってたエロゲーソングを聴かれたけど「あぁこれ? PS2の人生ゲームの曲」と大胆な嘘を押し通して事なきを得るんですが、まぁそれだけなので、この話はここで終了です。