第七話 リョーガとスライム
…ディマイケットの街を後にした俺達は、次なる町を目指して旅を続けていた。
「よーし、今日はここいらでキャンプするぞ」
「やったぁ!ウチもうお腹ぺこぺこっす…」
「ガウゥン…」
「クリムも腹減ったっすか?」
「ガウ」
「よし、そしたらすぐに用意するでやんす!待っててくだせぇ」
「ミーニャ、こっちにテント張るぞ!手伝え」
「うぃっす!」
みんなでキャンプの準備を進める
「…ご馳走様!ふぅ、美味かったっす!」
「ガウ!」
「ご馳走さん」
「へへ、お粗末様でやんす」
「さてと、クリム!腹ごなしに食後の運動するっす!」
「ガウ!」
クリムを連れて向こうの方へ行くミーニャ
「あんま遠くまで行くんじゃないぞー!」
「分かってるっすよー!」
「さてと、俺も暇だしちょっくら散歩でもしてくるかなっと…ゲータ、テントの番は任せたぞ」
「合点でやんす!ごゆっくり!」
テントの番をゲータに任せ、散歩へ出かける
散歩と言っても森の中なので周りにあるのは木や草ばかりで目新しいものは当然ない…でもこういった自然の中をのんびり歩くのも意外と悪くない、こういうのなんてったっけな?森林浴っていうのか…とにかく自然の澄んだ空気を感じながらふらふらと森を歩いていると…
“ガサガサ…”
「ん?」
そこへ、茂みの中から一匹のスライムが現れた。
「…なんだスライムか、フッ…今思えば少し懐かしいな、思えば冒険者になって一番最初に闘ったのがスライムだったっけ?」
一人思い出に浸りながらスライムのことを見つめる。
「ま、ここで会ったのも何かの縁ってやつかな?たまには初心に戻ってみるのも悪くないかもな…」
そう言って俺は鞭を構えてスライムを狩ろうと一歩足を踏み出すと…
「ぷ、ぷよ〜〜〜!!」
「!!?」
「ま、待ってくださいぷよ!乱暴はやめてぷよ!ぼ、僕は悪いスライムなんかじゃないんだぷよ〜!」
「…え?えぇぇぇ!!?ス、スライムが喋ったぁぁぁ!!?」
・・・・・
驚いた俺はすぐ様念話を使ってミーニャ達を呼び寄せる
「に、兄ちゃん!どうしたっすか!?」
「ガウ!」
「旦那ぁ、一体全体どうしたんでやんすか!?」
「あぁ、お前達!コイツを見ろ!」
「ん?スライム?スライムがどうかしたんすか?」
「何の変哲もないただのスライムに見えますが…」
「驚かせてしまって申し訳ありません、僕は『ぷよたん』って言うぷよ!よろしくぷよ!」
「「!!?、えぇぇぇぇぇ!!?スライムが喋ってるっす(でやんす)!」」
喋るスライムを見てびっくり仰天する一同
「なっ?びっくりだろ?」
「いや、びっくりも何も…こんなん普通ありえないっすよ!」
「先輩の言う通りでやんす、本来スライムみたく無機物系のモンスターは自らの意志なんてほとんどないも同然なんでやんす、ましてや人の言葉を喋るなんて…」
「お前、一体何者だ?」
「えへへ、やっぱり驚いちゃいましたよね?実は僕…突然変異によって生まれた『変異型モンスター』なんですぷよ」
「ミ、変異型モンスター?」
「聞いたことあるでやんす、ほんの極まれにでやんすけど変わった特徴を生まれつき持ったモンスターのことでやんすね」
「何だそれ?すご…」
「そうですぷよ、だから僕はスライムだけど生まれた頃から自らの意志を持っていて人の言葉を喋ることができるんですぷよ」
不思議なこともあるもんだな…まぁあっちの世界でもよく体の色が普通と異なる動物とか奇形種が生まれたなんてニュースはよく聞いたことあるぐらいだし、やっぱり異世界でも起こり得るんだな…ちょっと予想外過ぎて多少びっくりしたが。
「それで、こんなだから仲間のスライムやお父さんもお母さんも僕のことを気味悪がって僕のことを仲間外れにして…それから僕はずっと一人で生きてきたんですぷよ」
コイツ、色々と苦労してきたんだな…たしかに、普通のスライムからすれば喋るスライムなんて不気味だと思われて当然か…
てかスライムにもお父さんとお母さんっているんだな…。
「…ま、ここで会ったのも何かの縁だ、お前俺達の仲間にならないか?」
「い、いいんですかぷよ?」
「あぁ、俺は魔獣使いのリョーガ…コイツらも俺の仲間だ」
「ミーニャっす!」
「ゲータでやんす」
「ガウ!」
「こっちはクリムって言うっす」
「…みんな、ありがとうぷよ!」
顔がないのでイマイチ分からないが喜んでいるようだ…最初はスライムなんてぶよぶよしててキモいだけとか思ったが、コイツはちゃんとしてるっぽいし、問題ないだろう。
「じゃ、早速契約するぞ…『我、ここに汝と主従の契約を交わさん』」
と、ぷよたんの額(?)の辺りに紋章が現れすっと消えた。
「これでよしと」
「ぷよー!これからよろしくぷよ!」
「あぁ…」
しかし、スライムか…勢いで仲間にしてみたはいいものの、戦闘ではあまり役に立ちそうもないな…一先ずステータスだけでも一応確認しておこう。
そう思い俺は鑑定スキルでぷよたんのステータスを確認すると
【個体名:ぷよたん 種族名:変異型スライム 性別不明 Lv32】
【保有スキル:空間魔術:Aランク 擬態魔術:Aランク 伸縮魔術:Aランク 分裂魔術:Aランク 打撃耐性:Aランク 固有スキル:叡智 捕食】
「なっ!?」
と、レベルが既に俺達とあまり大差ない上に見たことないスキルまで保有している…コイツ、一体?
「兄ちゃん?」
「旦那?」
「ガウ?」
「おい、お前…こんなスキルどこで覚えた?」
「はい!少し前に人間さん達が倒れてるのを見かけてその側に沢山本があってそれを読んだらいつの間にか…」
「ハァ…そうか」
本というのは恐らくスキルブックのことだろう、字が読めればやはり人間以外でも習得は可能なんだな…
ちなみに『固有スキル』というのは、手引き書によるとモンスターなどが持つ特殊なスキルで、通常では会得できない特別なスキルらしい。
「…ところでお前、スライムの割にはレベルがかなり高いみたいだが、戦えるのか?」
「はい!生き残る為に必死なって強くなったぷよ!」
「…そうか、ちょっとお前の実力が見たい、ゲータ!少し相手してやれ」
「へい!」
「えー、ウチがやりたいっす!」
「お前は絶対手加減とかできないだろ…」
「むー…」
「よし、いいかぷよたん?ゲータのことを本気で倒すつもりでやってみろ」
「ぷよ!」
「へへへ、いくでやんすよ!」
ダガーを抜いてぷよたんに斬りかかる
“ザクッ!”
見事に真っ二つに斬られた、かのように見えたが実は分裂魔術で二つに分かれただけだった。
「何っ!?」
「えぇい!」
ゲータに体当たりする、相当な威力だったそうでゲータは軽く後ろに吹っ飛んだ。
「うぐっ、やるでやんすね…でも、これなら!『水刃』!!」
水の刃で攻撃する
「…あ〜ん!パクッ!」
するとぷよたんは大きな口を開けて水刃をパクリと飲み込んでしまった。
「なっ!?く、食った!」
「今度は僕からもいくぷよ!『変〜身っ』!」
すると今度はゲータそっくりに変身したぷよたん、擬態魔術か…
「なっ!?オ、オイラでやんす!」
「おぉ!」
「なるほど…」
「フッフッフッ、いくでぷよ!」
ゲータに変身したぷよたんはダガーを抜いてゲータに斬りかかる
「わわわっ!?ちょ、危なっ!」
素早い動きでゲータを翻弄するぷよたん、姿だけでなく身体能力まで同じになるのか?
「ぷよー!」
「わっ!?」
後ろへ回り込み、ゲータの肩に噛みつく
「イ、イダダダ!こ、こりゃ堪らんでやんす!降参降参!」
「よし、それまで!」
「やったぁ!勝ったぷよ!」
「まさかゲータとあそこまで渡り合うとはな…」
「ホントっす!お前スゴいっすね!」
「えへへ…」
照れているのか青白い体にちょっと赤みがかる
「とりあえずこれでお前の実力は分かった…これから期待してるぜ!」
「はい!ご主人様!」
こうして、喋るスライム『変異型スライムのぷよたん』が仲間になった。
【翌朝】
「さて、出発するか…ミーニャ、テント片付けるの手伝ってくれ」
「うぃっす!」
「ご主人様、僕に任せてぷよ!」
「ん?お前も手伝ってくれるのか?」
「はい!あ〜ん…」
するとあろうことかぷよたんは大きくなってテントを丸ごと飲み込んでしまった。
「なっ!?」
「ニャっ!?」
「モゴモゴ…ごっくん!はい、お片付け完了ぷよ!」
「ちょ、ちょっと待てぷよたん!何も食うことねぇだろ!まだまだこれからも使うんだぞ!」
「いやいやご主人様、今のは食べたように見えるけど実はあれは僕の体内の『異次元空間』に入れただけぷよ」
「ん?あぁ…そ、そうなのか?」
そういやコイツそんなようなスキル持ってたな…ったく脅かしやがって
「僕の異次元空間には何でもいくらでも入れることができるぷよ!これから荷物持ちでも何でも僕がやるぷよ!頼りにしてぷよ!」
「あ、あぁ…」
コイツ、ドラ◯もんかよ…
・・・・・
…昼時に差し掛かった頃、小腹も空いた俺達は小さな村を見つけ、一先ず腹ごしらえしようと思い飯屋へ直行した。
「いらっしゃい!一人かい?」
「あぁ、連れも一緒なんだがいいか?」
「いいわよ、席空いてるとこ座っていいからね〜」
「それが…亜人種なんだが、いいか?」
俺の陰からおずおずと顔を覗かせるミーニャとゲータ
「そんなモン気にしちゃいないよ!金さえちゃんと払ってくれれば亜人種だろうと極悪人だろうと構わないさね」
「そうか、助かる…おいお前ら、入っていいってよ」
「うぃっす!」
「へい!」
「それで?何にする?今日は日替わりランチがオススメだよ」
「じゃあそれを四つ、こいつには肉かなんかもらえるか?」
「あいよ、待ってな」
注文をとると厨房へ行き料理し始めるおばちゃん
「にしてもラッキーでやんすねぇ、オイラ達を見ても物怖じしないとは有り難い限りでやんす」
「そうっすね、優しいおばちゃんで良かったっす!」
「フッ、そうだな…」
・・・・・
「ふぅ、美味かったっす〜」
「そうだな…ん?」
…飯を食い終えた後、ふと俺は壁に貼ってあるとあるものが目に入った。
「これは…『地図』か?」
それは誰がどう見ても『地図』でこの世界の地理を表した所謂『この世界の世界地図』のようだ。
「ご主人様?何見てるぷよ?」
「ん?あぁ、あの壁に貼ってあるのって世界地図…だよな?」
「ん?あ、ホントでやんすね」
「そうか、今思えば…この世界に来てから一ヶ月近く経つがこの世界の地理も何も知らないな…」
「あぁ、そういえばミーニャさんに聞きましたけどご主人様って異世界からいらした方なんですぷよ?」
「あぁそうだ」
「でしたら、僭越ながら僕がこの世界の地理をご説明いたしますぷよ!」
「ん?できるのか?」
「はい!僕が生まれつき持っている固有スキル『叡智』はあらゆる事象や物事を瞬時に理解し、それを知識として蓄えることができるんですぷよ!」
「そうか、だからお前そんなに賢いんだな…」
「ぷよ!」
「なら折角だ、よろしく頼むよ…」
「お任せぷよ!」
ぷよたんの解説によると、この世界は東西南北『四つの大陸』に分かれており、その大陸では其々『四つの大国』が治めているらしい。これら四つの大国を総称して『四大国』と呼ぶ
今俺達がいるところは『西大陸』で『西の大国 リマーシ王国』が治めている土地とのこと
このリマーシ王国という国は通称『神の国』と呼ばれているらしく、この場所から世界の全てが始まったのだという…。
今から遠い昔、この地に一人の女神が降臨し世界と人間を創造したらしい。
ちなみにこの世界の暦は『創生暦』といって今は『創生暦1866年』らしい日本で言ったら幕末の辺りだろうか?
後は『南の大国 陽の国 ロコ王国』、『北の大国 武の国 ヴァンリー帝国』、『東の大国 和の国 サクラ公国』というのがあり、その他にも其々大国に属する規模の小さい小国がいくつかあるらしい。
中でも気になったのは『東の大国 和の国 サクラ公国』
この国は和を重んじる国で、国民はみんな穏やかで親切な国柄で『平和の象徴』として有名らしい…しかも、国の特徴を聞く限りどう考えても『江戸時代の日本』そのものだったのだ。
この世界にも日本そっくりの国があることに驚いた俺は、それと同時に胸が高鳴った。
もしかしたら、そこでなら懐かしの故郷の味『和食』にありつけるかもしれない…思えばこの世界に来てからずっと主食はパンばかりで、米らしいものはどこにもなかった。
「…その情報、間違いはないんだな?」
「ぷよ!確かな情報ですぷよ!」
「そうか、なら次に目指すは東大陸の和の国!待ってろよお米ちゃーん!ハッハッハッ!!」
「だ、旦那?」
「に、兄ちゃん?なんか、いつもと違って目が怖いっす…」
「こうしちゃいられねぇ!すぐに港を探して海へ出るぞ!」
「えっ!?海っすか!?行きたい行きたいっす!」
「よし、そうと決まればぐずぐずしてらんねぇ…おばちゃんご馳走さん!釣りはいらないからとっといてくれ!」
「え、えぇ…毎度」
金を払うなり俺とミーニャはダッシュで店を出る
「だ、旦那ぁ!待ってくだせぇ!オイラまだ全部食べてないでやんすよぉ!」
「モタモタしてると置いてくぞ!」
「ま、待ってくだせぇ!」
To be continued…