第七十二話 リョーガと老師
…イリアと再会した俺達は次なる転生者を探してやってきたのは『トゥーハオ島』
ここは北大陸と東大陸の狭間に位置する小さな島で、北と東の両方が混ざり合った独特の文化が根付いているとのこと。
神様からもらった情報によるとこの島にいる転生者の名は『シャオ・メイリー』という中国人の女性で、この島で一番大きなお寺に住んでいるらしい。
「『メイメイ寺』…聞いた話では罪を犯した人間の『更生施設』も兼ねているようでありんすねぇ」
「そのお寺にいるのがリョーガ君達が探している転生者ってこと?」
「あぁ、そういうことだ…」
お寺の門の前に到着した。
「…何用でしょうか?」
「俺達は西大陸の冒険者ギルドから来た、ちょっとここの住職様に用があってな…お目通り願いたい」
と、門番の男性に冒険者カードを見せる
「ふむ、リョーガ殿にイリア殿ですな?しばし待たれよ…」
足早に去っていく門番、そして数分後小走りで戻ってきた
「お待たせ致しました、では『老師』のところへご案内いたします…」
門番について寺の中を歩く、すると庭の方で修行をする掛け声が聞こえた。
「ご存知の通り、この寺は罪人達の更生の場としても広く知られておりましてここに入所している者達は皆己の犯した罪と真摯に向き合い心と身体の鍛錬に励んでおられるのです」
「なるほど…」
たしか生前に読んだ漫画で罪人達がこういう寺みたいな場所で拳法を学んで心も身体も鍛えて更生していくって感じのがあったな…
そういや、メイリーさんって人は中国出身とか言ってたっけな?
「すごいな、昔見たカンフー映画みたい…」
「あぁ、俺も今同じようなこと考えてた」
「それにしても、悪人を更生させるのに何故武術の稽古なのじゃ?」
「えぇ、それはこの寺を開いた先代の教えでして、『健やかなる心は強靭なる肉体に宿るものである』というものでして、日々精進して修行に励むことで自ずと身も心も鍛えられるものだそうです」
「ほぅ…まぁ一理あるかもしれんのぅ…」
「良ければ老師にお会いなる前に修行の様子を見学されていきますか?」
「ん?いいのか?」
「えぇ、どうぞ…」
と、入所者達が修行している様子を見学させてもらえることになった。
「はっ!はっ!はっ!」
全員綺麗に整列して正拳突きの稽古をしている
「へぇ、中々本格的だな…」
「よぉし、止め!では暫し休息とする!」
「はい!ありがとうございました!」
するとそこへ…
「あれ?あなた様は…リョーガ様ではござりませぬか?」
「ん?」
とある男性が話しかけてきた
「お久しぶりでございます…」
「誰だ?」
「これは失礼いたしました…私は、一年前『レイモンド一味』の下っ端だった者でございます」
「…はっ!?」
レイモンド一味とは、かつて俺達が壊滅させた海賊一味の名前だ…ということはこいつはそん時にいた下っ端の一人?
「お、おぉ…まさかこんなとこで会うなんてな…」
「誰なのだ?リョーガちんの知り合い?」
「皆さんと出会う前、僕達と戦った海賊一味のメンバーだった人ぷよ」
「ガウッ!」
「その通りでございます、あの時はご迷惑をおかけいたしまして…お詫び申し上げます」
「い、いやそんな…ところで、お前らもいるってことはレイモンドや他の幹部達もいるのか?」
「いえ、ここにいるのは我々下っ端達だけでお頭や幹部の方々は凶悪犯ばかりが収容されるというここよりももっと厳重な収容施設へ収監されたと聞き及んでおります…」
「そっか、まぁ奴ら相当な極悪人だったからなここじゃ手に負えねぇってことだったんだろ…」
「えぇ…ですが、私達はここへ来て新たな自分へと生まれ変わることができました、これも一重にリョーガ様のおかげでございます…ありがとうございました」
「よ、よせよ…別にお礼を言われるほどでも…」
「しかし、そんな凶悪な海賊だった者ですらここまでキチンとした真人間になるとは…すごいでありますな…」
「それもこれも、全て老師の教えの賜物でございます故…」
「すげぇな、一体どんな奴なんだ?益々興味が湧いてきた」
「では、そろそろ老師の元へご案内いたします」
「あぁ、じゃあな!修行頑張れよ!」
「はい、ごきげんよう…」
・・・・・
「失礼いたします老師、お客様がお見えになられておられますがお通ししてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いません」
ドアの奥から若い女性の声が聞こえた
「失礼します」
「ようこそ、我が寺へ…」
出迎えたのは紺色のチャイナドレスを着た見た目三十代前半ぐらいの女性、アジア人特有の顔立ちに黒髪を二つお団子髪に纏めている。
「アンタが、シャオ・メイリーさんか?」
「ええ、私がこのメイメイ寺の二代目住職のシャオ・メイリーですわ…門番の者から話は伺っております、冒険者のリョーガ様とイリア様ですわね」
「あ、あぁ…俺がリョーガでこっちがイリアです」
「………」
無言で会釈するイリア、そういやこいつ俺以上に美人な女性が苦手みたいだったからな…ここは俺がしっかりしないと
「ご丁寧にどうも…それと、お二人以外にも知らない気配がするのですが、お仲間の方ですか?」
「あ、あぁ…そうだけど、見えてないのか?まさかアンタ…目が」
「えぇ、私のこの両眼はとうの昔に視力を失っており何も見えません…でもご心配なく、これでも感知系のスキルを多数持っていて全部『Sランク級』まで鍛え上げておりますので」
「は、はぁ…」
「それで、私に用件というのは?」
「ええ、実は…」
メイリーさんに邪神のことや俺達も同じく転生者であることを説明した。
「なるほど…貴方がたも私と同じ転生者だったのですね」
「えぇ、まぁ」
「私は幼い頃、生まれながらにして重い病を患ってまして…十の誕生日を迎える前にして亡くなってしまいました…この目も病気の影響で」
「そう、だったのか…」
「この世界へやってきてから二十余年…路頭に迷っていたこの私を拾って育てて下さったのが、この寺の先代住職の方なのです」
「ああ、さっきの案内してくれた門番の人にも聞きました…相当立派な人みたいだな」
「ええ、私も先代から沢山のことを学びました…二年前に病に倒れ、今は私がこの寺の住職を受け継いだのです」
「そっか、それで話を戻しますけど…アンタには俺達と一緒に戦ってほしい、協力してくれるか?」
「勿論です、断る理由はありません故…」
「そっか、助かる…けど、アンタ戦えるのか?見えないのに?」
「ご心配なく、先代から戦う術も叩き込まれていますので…それに私自身、“特別な力”を持っていますので…」
特別な力…?神様にもらったスキルのことか?一体どんな力なんだ?
「ものは試しです、私と一度手合わせをしてみませんか?」
「なるほど、いいでしょう!」
「であれば、儂が相手になろうぞ!」
「分かりました、では道場へ案内致します」
と、いうことでメイリーさんの実力を見る為に手合わせすることとなった。
【メイメイ寺 道場】
「…腕が鳴るのぅ、クァーッハッハッハッハ!」
「分かってると思うが、やりすぎんなよ…」
「なぁに、ちゃんと承知しておるわ!」
「お待たせ致しました…」
と、拳法着姿に着替えてきたメイリーさん、手には長い棍をもっている…やはり使うのは拳法か
「では、どこからでもご自由にどうぞ…」
棍を構えて手をクイクイと招く
「ほぅ…随分と余裕じゃのう、ならば望み通りに!」
一気に駆け抜けるフウラ
「くらうがよい!」
拳を構えて殴りかかるもあっさりと避けられてしまう
「何っ!?ならこれなら!」
すかさず後ろ回し蹴りを繰り出すも棍でガードされてしまう
「!?」
「馬鹿な、フウラ女史の攻撃をあんなにいとも容易く…」
「流石は感知系オールSランク級ぷよ…」
「ナメおって…うおぉぉぉぉ!!」
それからフウラは怒涛の攻めを繰り出すも悉く避けられもしくは防がれてしまう
「…おかしい、いくら感知系オールSランク級だからってあんなに完璧に防げるもんなのか?」
「リョーガ君も気づきましたか、たしかに僕もそう思います…それにさっきから見ていれば、まるで彼女がどこから攻撃を打ってくるか予め分かっているかのように感じませんか?」
「ん?」
イリアに言われてメイリーさんの動きをよく観察してみると、たしかに若干先を読んだかのように数秒早く動いているように見えた
ということは、メイリーさんの能力は『相手の思考を読む能力』なのか?
「ハァ、ハァ、ハァ…」
「呼吸が乱れていますね、そろそろ限界ですか?」
「くっ、ぬかせ!」
勢いよく殴りかかるフウラ、だがやはり軽くいなされて棍に足を引っ掛けられて転ばされてしまう
「うわっ!?」
「フフフ、これで勝負ありです…」
フウラの鼻先に棍を向けるメイリーさん
「…くっ!参った!儂の負けじゃあ!」
負けを認めるフウラ、力尽きてその場に大の字になって横たわる
「なんてことじゃ、儂の攻撃が一発も当たらんかった…」
「お疲れフウラ、なぁ…アンタのその能力、相手の思考を読む能力か?」
「いいえ、ちょっと違いますね…正解は『少し先の未来を予測する能力』です」
「未来を予測?予知ってことか…」
「ええ、『未来視』とでもいいましょうか…私のこの見えない両眼には少し先の未来を見る力があるのです」
「じゃあ、アンタにはフウラが予めどこから攻撃を仕掛けてくるか分かっていたのか…」
「そういうことです、まぁ流石に強すぎて未来視だけでは対処できなかったので感知スキルも使って攻撃の気配を察知して防御しましたが…流石はこの世界において指折りの強さを誇る竜人種だけありますわね…よく鍛えられてますね」
「そ、そうかの?」
急に褒められて照れてポリポリと頬と掻くフウラ
「それで、どうでしょうか?私は皆さんのお役には立てそうですか?」
「ああ、十分だ!」
「フフフ、良かった…では、これからよろしくお願いしますね!」
こうして、メイリーさんが仲間になった。
To be continued...
【補足メモ】
リョーガ達転生者は、転生神リオンに与えられた『自動言語翻訳の力』のおかげでこの世界の言語が自分達の分かる言語に脳内で自動で変換される、例えばリョーガは日本語に、イリアは英語に変換されている。転生者同士の会話も然り
ただし人間の言葉に限り動物やモンスターなど知性のない生物には適用されない。




