第五十七話 リョーガとSランク
最終試験を無事に終え、その後改めてお城にて俺のSランクの任命式が取り行われた。
「冒険者リョーガ殿…そなたは此度の昇格試験にてその力を遺憾なく発揮し、見事に試験を全て乗り越えたことをここに賞賛し、そなたの実力を認めSランクの階級を与えるものとする!そして今後は我が国の為により一層その力を発揮し、有事の際には国を守ることをこの場において宣誓してもらう、異論はないな?」
「はい!」
「では、誓いの言葉を…」
「…私、冒険者リョーガはSランク冒険者としてその名に恥じぬように懸命に働き、窮地の際には国を守る盾となり、敵を穿つ刃となることをここに誓います!」
「うむ、では…アルカイル」
「はっ…ではリョーガ君、これを」
と、アルカイルさんから新しい冒険者カードを受け取る
プラチナ仕様で綺麗な白色にキラキラと輝いている。
「有難く頂戴します…」
「今ここに新たなるSランク冒険者が誕生した!皆の者、この有望なる若者を讃えよ!」
“パチパチパチ!!”
割れんばかりの祝福の拍手の音が響いた
・・・・・
【リョーガ邸】
任命式を終え屋敷へ帰ると、みんながパーティーの準備を進めてくれていた。
「あっ!兄ちゃんおかえりっす!」
「ただいま、ひょっとしてこれ…」
「そうでやんす!旦那の昇格祝いでやんす!」
「お前達…」
「旦那様、この度は誠におめでとうございます…使用人を代表してお祝い申し上げます」
「ルリ、ありがとう」
するとそこへ、玄関のところへ誰か来た様子がした。
「ん?客か?」
玄関を開けると、ニライスの町のみんなやギルド支部のみんながお祝いに駆けつけてくれたようだった。
「みんな!来てくれたのか!」
「リョーガ君!おめでとう!」
「大したもんだぜ!」
「よっ!ニライス一の出世頭!」
「みんな…ありがとうな」
「リョーガさん!」
「ルーシー…」
「おめでとうございます、リョーガさんならきっと大物になるって信じてましたよ」
「ありがとう」
「今日はニライス支部のギルド長もお祝いに来てくださったんですよ」
「ニライス支部のギルド長?」
そういや、なんだかんだでまだギルド長には会ったことなかったな…どんな人かな?
「よぉ、あんちゃん!」
現れたのはスキルブック屋の爺さんだった
「なっ!?アンタは…」
「驚いたか?そう、何を隠そうこの俺こそがニライス支部のギルド長『ニコラス』だ…スキルブック屋はジジイの単なるささやかな副業さね」
「そ、そうだったのか…」
「にしても、ウチの支部からSランクになるモンが現れるとはなぁ…」
「リョーガさんは私達ニライス支部からの初のSランク冒険者になった方なんですよ」
「俺が、初?」
「あぁ、かつて俺も現役の頃…Sランク昇格試験に推挙されたこともあったがな…力及ばず最終試験でボッコボコにされてしまったわ!ぬはははは!」
「ハ、ハハハ…まぁこんなところで立ち話もあれだ、折角みんな来てくれたんだ…上がってってくれ」
来てくれたみんなを屋敷へ招き入れる
大勢となった中、俺の昇格を祝うパーティーが始まった。
「乾杯っ!!」
みんなで食べて飲んでパーティーは大いに盛り上がった
するとそこへ…
“トントン…”
新たな来訪者が来たようだ…
「はーい、今開ける」
玄関を開けると、そこには俺の一次試験の立会人を務めてくれたSランク冒険者のイリアがいた。
「……」
「イリア、お前も来てくれたのか」
そう言うとイリアはコクリと頷く
「…あの、その、リ、リョーガ君…お、おめでとう」
少しもじもじしながらお祝いの言葉を述べるイリア
「ありがとう、折角来てくれたんだ…上がっていけよ」
「…!」
俺の誘いに一瞬戸惑った様子を見せたイリアだったが、ややあって小さく頷いた
「ん?おぉ、イリア殿も来たのか!」
「ありがとうございますえ…ささっ、こちらへどうぞ」
「……」
無言で席に座るイリア、そこで被っていた鉄仮面に手をかけゆっくりと脱ぐ
「おっ?」
「まぁ…」
その素顔は銀髪碧眼でみんなが思わず息を飲むほどの美青年だった。
「あら、イイ男がいるじゃない!」
「リョーガ君のお友達?」
「…っ!?」
女性達に迫られて困惑する表情を見せるイリア
「あら?照れてるのかしら?真っ赤になっちゃって可愛い~」
顔を真っ赤にしてうつむくイリア、コイツが普段鉄仮面を被っている理由がなんとなく分かった気がした…。
・・・・・
…宴もたけなわとなり、町のみんなも満足して帰っていき、ユラとフウラは酔っぱらって爆睡し、他のみんなも騒ぎ疲れてそれぞれ部屋へ戻っていった。
一方で俺とイリアは酔って爆睡する二人を寝室まで運んだり、パーティーの後片付けを手伝ったりした。
「…ありがとな、最後まで付き合ってくれて」
「…ううん、いいよ」
「お前も気を付けて帰れよ、後の片付けはこっちでやっとくから…」
「あの、リョーガ君」
「ん?」
「…あの、その、ちょっとだけ、いい?」
「??」
イリアに誘われ二階のバルコニーで二人で話をする
「なんだよ話って?」
「…あの、その、えっと」
再びもじもじしだすイリア
「なんだよ?言いたいことがあるならはっきり言ってくれよ…」
「えっと、じゃあ…リ、リョーガ君!」
「ん?」
「リョーガ君ってさ、『日本人』なんだよね?」
「!?、お前…まさか!?」
「うん、実は僕も…『転生者』なんだ」
衝撃の事実が発覚し俺は驚きのあまり言葉が出なかった
「まさか…俺以外の転生者に会うなんて初めてだぜ」
「僕もだよ…一目見た瞬間分かった、この人は日本人だって」
「てことはお前も?でも明らかに日本人じゃないな…出身は?」
「僕はロシア系のアメリカ人で本名は『イリア・チェルダコフ』っていうんだ」
「へぇ…」
それから彼は自分のことを色々と話してくれた…実は彼はおばあさんが日本人の所謂クォーターというやつで、幼い頃からおばあさんに日本のことについて色々と教えてもらい、日本が大好きになったという。
いつか自分もおばあさんの故郷である日本へ行きたいとそう願い、頑張ってお小遣いを貯めた
そして今から三年前、17歳になった頃…学校も夏休みとなりいよいよ憧れの日本へと行けることとなった…
ワクワクと胸を躍らせるイリアだったが、乗っていた飛行機がトラブルを起こしてしまい海へと落下、乗客や乗務員達を乗せた飛行機は忽ち海に沈みイリアも他の乗客達もみんな死んでしまった。
そこでイリアは目を覚ますと何もない真っ白な空間にいて、目の前に神様と名乗る男が現れてこの世界へ転生させてもらったのだという。
「…そんなことがあったのか、そういやそんなようなニュース高校の頃に見た記憶があるな…あの事件で何百人も死んだって…お前よく転生できたな、お前も多分あれだろ?その神様に死者何万人記念の特典とか言って転生させてもらったクチだろ?」
「うん…ひょっとしてリョーガ君も?」
「ああそうだよ、もしかして異世界への転生のシステムってみんなそうなのか?だとしたら俺ら、相当ラッキーだったんだな」
「そうだね…ところでリョーガ君はなんで死んだか聞いていい?」
「ん?俺?俺はこっちに来る前は自称浪人生のフリーターだったんだよ、ある寒い冬の日に風邪こじらせてそれが悪化して肺炎で死んだらしい…」
「そうだったんだ…」
「でも今は神様にもらった特異体質のおかげで病気知らずでピンピンしてるよ」
「どんな能力もらったの?」
「『無病息災』っていってあらゆる状態異常を完全無効化するスキル、まぁほとんど体質みたいなもんだな…おかげで毒も効かないし、いくら酒飲んでもちっとも酔わない」
「それは、すごいね…」
「イリアは?お前もなんかもらったろ?」
「僕は永遠に尽きない魔力…『無限魔力ブースト』ってスキルなんだけど」
「永遠に尽きない魔力って…あっ」
そういえば思い当たる節があった…以前、フェニックスを一撃で倒した最強の魔術『爆撃魔術』、あれは凄まじい破壊力と引き換えに魔力がカラになるほど消費する
なのにそれを撃った直後でもコイツは平然と歩いて帰っていた。
にしても無限に尽きない魔力か…リョウ三郎の兄弟の上位互換って感じか?
「すげぇな…それじゃ強い術ガンガン撃ち放題じゃねぇか」
「うん、まぁそのおかげでこっちに来てたった一年でSランクに上り詰めることができたものだし…」
「そっか…俺もそっちが良かったな」
「いやいや、毒とか効かないなんてのも十分すごいよ…普通の人だったらヒュドラに噛まれたらその時点で即死だもん…」
「ん?そうか?それもそうだな…」
「フフフ、それじゃあ僕はもう帰るよ…今日は楽しかった、ありがとう」
「あぁ、またいつでも遊びに来いよ!日本のことまた色々と教えてやる」
「…ありがとう、それじゃ」
イリアを見送り、俺は一旦リビングに戻る
パーティーの後片付けはもうあらかた済んでおり、ユーリが一人テーブルを拭いていた。
「おう、ユーリ」
「あ、リョーガさん…イリアさんとのお話はもう済んだんですか?」
「あぁ、さっき見送ってきた…」
「そうでしたか、私の方もこれでお片付け完了です」
「そうか、ありがとう」
「いえいえ、あっそうだ!リョーガさん、この後少しよろしいですか?」
「ん?」
【リョーガ 私室】
「これ、お兄様がリョーガさんにって…」
「これ、果実酒か?これは美味かったなぁ…有り難い」
「良かったら今飲みませんか?私も一緒にお付き合いします」
「いいのか?お前酒ダメだろ?」
「心配いりません、私はジュースがありますから」
「そうか…じゃあ遠慮なくいただくか」
「はい、じゃあお注ぎしますね」
グラスに酒を注ぐ、ユーリも自分のグラスにジュースを注ぐ
「ではリョーガさん、改めておめでとうございます!乾杯!」
「乾杯」
グラスを突き合わせる
「今日は本当にお疲れ様です」
「あぁ」
「ミーニャさんもリョーガさんも、今日はすごくかっこよかったです」
「そうか?」
「リョーガさん達は毎日命懸けでああやって戦っているんですね…」
「そうだな、実際死にかけたことだってあるからな…」
「そうなんですか?でも、これからはどんなに傷ついたとしても私が治してあげます!戦えない私には、それくらいしかできませんから…」
「いや、それでも十分有難いよ…人にはそれぞれ役割がある、ユーリはユーリのできることをやってくれればそれでいい…そうしてくれれば、俺達は安心して戦える」
「リョーガさん…ありがとうございます」
すると、ユーリは俺の手をそっと握ってきた。
「…ユ、ユーリ?」
「フフフ、リョーガさんの手あったかい」
「……」
ユーリに手をまさぐるように触られて俺は段々と恥ずかしい気持ちになりユーリから目を背けた
「フフフ、可愛い…リョーガさんのそういうピュアなところ、私好きですよ…」
「…フゥ、フゥ」
緊張で呼吸が乱れ冷や汗が出てくる…
「…ねぇ、リョーガさん」
「な、なんだ?」
「…その、イイですか?」
「へっ?」
そう言いながらユーリはブラウスの胸のボタンをゆっくりと外しだした
「!?」
「リョーガさんは初めてですよね?安心してください、私が丁寧に教えてあげますから…」
この流れって、やっぱり…ついに俺とユーリがセンシティブな関係に!?
「大丈夫です、何も怖いことありませんから…リラックスしてください」
そう言って残りのブラウスのボタンを全部外して前をはだけた下着姿が露わになった。
「ちょ、ちょっと待て!」
「??」
「な、なぁユーリさんや?」
「はい、なんですかリョーガさん?」
「や、やっぱりまだそういうのは早いんじゃないか?俺も心の準備がまだ…」
「あら、それは残念…でもまぁ、お楽しみはもう少しとっておきましょう」
「ご、ごめん…俺の意気地がないばかりに」
「いいんですいいんです!私の方こそごめんなさい…一人で先走ってしまって」
「いや、いいんだ…」
「でも、せめてキスはしてもいいですか?」
「なっ!?キ、キス!?」
「あぁ、もちろん唇にはまだしないので安心してください!おでこか頬か、どっちがいいです?」
「じ、じゃあ…頬で」
「はい…じゃあ失礼します」
と、ユーリが俺にキスしようとしたその時だった。
“バンッ!”
「!!?」
部屋の扉を勢いよく開けてユラが乱入してきた、左手には酒瓶を持っている
「ユ、ユラ!?何してんだお前!?」
「あっれぇ~?何してんらおまいら?あー、まさかアタイ抜きでエロいことしようとしてんな~?ひっく」
「エっ…いや違…くないが、とにかくもう飲みすぎだぞお前、もう部屋戻って寝ろ」
「やぁだぁ~、アタイだってリョーガとエっロいことしたい~!」
「だからまだそんなことしてねぇって!」
「え~、じゃあ今からアタイとしよ!ほれ、チュ~」
と、半ば無理矢理キスされてしまった…まさかこんな形でファーストキスを奪われるとは…
「ぷはっ、へへへ…美味しい~」
「あ、ああ…」
キスされた直後、俺は恥ずかしさと驚きとエロい気持ちとが複雑に混ざり合い脳が処理しきれなくなってオーバーヒート起こして気絶してしまった。
「リ、リョーガさん!しっかりして!リョーガさん!」
「なんらよ~、キスしたぐらいで気絶しやがってヘタレめ~、へへへ…」
「もうユラさん!なんてことしてくれたんですか!?リョーガさん!しっかりして!リョーガさぁぁぁん!」
その後、気絶した俺はそのままベッドに横にさせられる
「もう、ユラさんったら…リョーガさんのファーストキスを先に奪うなんてズルいです!」
「悪かったよぉ、つーかお前だって先にリョーガとエっロいことしようとしやがって…抜け駆けなんてズルいぞ!」
「そ、それは…その、違うんです!」
「違うことなんてねぇだろう!あんなにおっぱい放り出して誘惑しておきながらよく言うよ、このえっち!ドえっち!」
「だ、誰がドえっちですか!それに放り出すなんて言い方やめてください!まるで私が痴女みたいじゃないですか!」
「まぁそんな怒んなって…ゆってもアタイも勝手にリョーガのファーストキス奪ったのは少しは悪いと思ってるよ…」
「ホントですかぁ?」
「ホントだって!お詫びってわけじゃないけどさ、リョーガの“あっちの”初めてはユーリがもらっちゃって全然いいからさ」
「ふぇぁっ!?」
「ま、モタモタしてたらそっちもアタイが奪っちゃうかもね~!」
「そ、それはダメです!」
「ウソウソ!さて、もう眠くなったから部屋戻るわ…おやすみー」
「お、おやすみなさい…」
To be continued…