第五話 リョーガと赤い狼
「兄ちゃーん、起きて起きて!もう朝っすよ!」
「ん?おぉ…もう朝か、ふぁ〜」
眠い目を擦りながらテントを出る
「旦那、先輩、おはようございやす!」
ゲータが早起きしてテキパキと朝食の用意をしている
こう見えてゲータは手先が器用で料理が上手い、テント生活を始めてから俺もミーニャもゲータの作る料理をご馳走になっている。
「今朝は魚がいっぱい獲れたんで塩焼きにしてみたでやんす」
「ほぅ、これは旨そうだ…」
「ウチも薪木拾うのとか火起こすのとか色々手伝ったんすよ!」
「そうか、偉いなミーニャ」
「へへへ〜」
「よーし、じゃあ食うか」
「「「いただきます!」」」
三人揃って朝食を食べる
「ところで旦那、ふと思ったんでやんすが…次はどんな奴を仲間にしようとかって考えてたりするでやんすか?」
「そうだな…特にこれと言って考えてはいないな今は、まぁもし良さそうなのがいたらとは考えてはいるが…」
「ほほぅ、でしたら…『クリムゾンウルフ』なんて如何でやんしょ?」
「クリムゾンウルフ?」
「あー、ウチも聞いたことあるっす、真っ赤な毛並みの狼型のモンスターで基本的に何匹かの群れで暮らしてて、仲間同士の息の合った連携で狩りをするらしいっす」
「ほぅ…そいつ、強いのか?」
「えぇ、強さは大体C〜Bランク、群れのボスクラスとなるとAランク以上にもなるらしいでやんす」
「なるほど、ボスは無理にしても…それなりの奴を一匹仲間にすればかなりの戦力になりそうだ」
「それにクリムゾンウルフは群れのボスとなった者には絶対服従っすから扱い易いと思うっす」
「うん、それじゃあメシ食い終わったらそのクリムゾンウルフを探しに行くか!」
「うぃっす!」
「へい!」
・・・・・
クリムゾンウルフを探しに森の奥へとやって来た俺達、ゲータ曰くこの辺りの森でたまにクリムゾンウルフの群れが狩りをしているのを見かけたことがあるという。
「んー、確か少し前にこの辺りで見かけた気が…」
「…今のところ、それらしいものは見当たらないが」
「…ニャっ!?」
「ミーニャ?」
「先輩?」
「しっ!近くになんかいるっす!」
「マジか…相変わらずすごいなお前のセンサー…」
「ん?言われてみりゃこの先からなんか聞こえやせんか?」
「ん?」
言われてみると、たしかに遠くの方から音がする…耳を澄ますと、獣の唸り声や肉をえぐり切るかのような音が聞こえてきた。
「この先に何かあるな…」
「行ってみるっす!」
音のする方へこっそりと近づいていく
「ん?おい、あれ…」
すると、そこにいたのはクリムゾンウルフの群れだった。
かなりの大群なようで数十匹ほどいる
見るとクリムゾンウルフ達は円になっており、その円の中央には二匹のクリムゾンウルフがいた。
片や、一際大きな体格をした威圧感たっぷりのクリムゾンウルフで、片や他のクリムゾンウルフよりも一回りくらい小さめのクリムゾンウルフ…恐らくまだ子供だろうか?
その子供ウルフは全身血塗れのボロボロになった状態で大きいクリムゾンウルフと向き合っていた。
「な、何が起こってるでやんすか?」
「仲間割れっすか?」
「いや、ちょっと様子がおかしい…明らかに普通じゃないな」
「えっ?」
「ガウ!ガウガウ!」
すると、突然大きいウルフが子供ウルフに向かって激しく吠え立てた
「…えっ?」
「ミーニャ?」
「『さぁどうした!?お前の力はそんなものか?』…」
「は?お前何言って…」
「あのおっきいウルフがそう言ってるっす…」
「先輩…そっか、そういや獣人は一部の獣系のモンスターと意思疎通が計れるって聞いたことあるでやんす!」
「そうなのか?よし、ミーニャ!奴らの言葉を通訳してくれ」
「うぃっす!えっと…」
「『さぁ立て!それでも貴様は誇り高きクリムゾンウルフの一員か!?』」
「『無理だよ父さん…もう嫌だよ』」
「『甘ったれたことを抜かすな!この軟弱者め!もういい、お前のような恥知らずは我々の仲間にはいらん!今日より親子の縁を切る!』」
「『そ、そんな!僕、もっと頑張るから!お願い!見捨てないで!』」
「『情けない声を出すなこのたわけ者め!よもやお前のような軟弱者が群れの長たる私の息子とはな…いや、もう貴様など息子でもなんでもない!どこへなり消えるがいい!』」
「『そんな、父さん!』」
「『くどいぞ!もう貴様の顔など見たくもないわ!』」
と、父親ウルフは群れの仲間を連れて去ってしまったのだった。
「ガウ!ガウガウ!ガウ!ガフッ!(ま、待って!父さん!みんな!…あうっ!)」
その場に倒れる子供ウルフ
「あっ…」
「おい、ミーニャ!」
いても経ってもいられず子供ウルフに駆け寄っていくミーニャ
「だ、大丈夫っすか!?」
「クゥ〜ン…」
「大変っす…兄ちゃん!早くこの子に治療を!」
「ったく、しょうがねぇな…」
傷だらけの子供ウルフに治癒スキルを施す
「クゥ〜ン…」
「あっ元気になったっす!」
「まだあんま無茶すんじゃねぇぞ」
「ガウ!」
「兄ちゃんにありがとうって言ってるっす」
「あぁ…ところでお前、これからどうするつもりだ?」
「ガウ?」
「群れ追い出されて行く宛もないだろう…」
「クゥ〜ン…」
「ねぇ兄ちゃん、この子兄ちゃんの子分にしたらどうっすか?」
「何?」
「このままじゃこの子可哀想っす…いいっすよね?」
「…まぁ、俺は別に構わないが…お前はどうなんだ?」
「ガウゥ…」
「本当はお前も仲間のところへ帰りたいんじゃないのか?」
「クゥ〜ン…」
「『帰りたいけど帰れない…強者こそが絶対、弱者は死すべし…』それが群れの掟らしいっす」
「弱肉強食ってわけか…強ければ生き、弱い者から死んでいく…それがコイツらの、基…自然に生きるモンスターの摂理なのかもな」
「…だったら、強くなってアイツらを見返してやればいいっす!」
「は、はぁ!?お前何勝手なこと…」
「お師匠様もよく言ってたっす!『弱いのなら鍛えればいい、できないのであればできるようになるまで沢山練習すればいい!』っす!」
「あ、あのなぁ…あくまでもこれはコイツとアイツらの問題で俺らがどうこうするわけにも…」
「よぉし!そうと決まったら早速特訓するっすよー!ウチについてくるっす!」
「ガウ!」
「ちょ、ちょっと待てってお前ら!おーい!…行っちまった」
「やれやれ、どこまでも一直線なお方でやんすねぇ…ミーニャ先輩は」
・・・・・
「まだまだぁ!もっと気合いで踏ん張るっす!」
「ガウ!」
連日、子供ウルフを鍛えて強くしようと奮闘するミーニャ
俺とゲータはその様子を温かい目で見守る
「飽きもせずよくやるよな…」
「そうでやんすねぇ、ミーニャ先輩めちゃくちゃ張り切ってやんすねぇ」
「よぉし!ちょっと休憩っす!」
「ガウ!」
「ふぅ〜」
「先輩、お疲れでやんす」
手拭いと飲み物を手渡すゲータ
「ありがとっす」
「…なぁミーニャ」
「ニャ?」
「お前、なんでアイツにそんなに入れ込んでんだ?お前にしちゃ珍しいな」
「そ、それは…」
「なんか特別な理由でもあんのか?」
「…うぃっす、実は…」
それからミーニャは淡々と話してくれた。
ミーニャは子供の頃、獣人拳の道場の中でも出来が悪く兄弟弟子達からも落ちこぼれ呼ばわりされずっと悔しい思いをしてきたらしい。
だが、道場の『お師匠様』だけは彼女の味方でいてくれていつも励ましてくれたのだという。
『どうしたのじゃミーニャよ…また悩んでおるのか?』
『お師匠様…やっぱりウチ、獣人拳の才能ないのかもしれないっす…今日だって組手でボコボコにされたし、もう絶望っす…』
『…良いかミーニャよ、獣人拳の教えの中にこんな言葉がある、『陽はまた昇る』じゃ』
『…どういう意味っすか?』
『明けない夜はない…それは人の心も同じ、たとえ今は暗い夜の中にいようときっと輝かしい朝がお前さんを待っているはずじゃ』
『お師匠様…』
『お前さんはまだまだ若い、何も焦る必要はない…きっと強くなれることじゃろう』
『…うぃっす!』
「…つまりお前は、当時の自分の姿とアイツを重ねてるわけだな」
「うぃっす!だからどうしても力になりたいんす!」
「…分かった、そこまで言うならもう俺は何も言わん、気の済むまでやってみな」
「兄ちゃん…ありがとっす!」
「ミーニャ先輩!オイラにできることであれば協力するでやんす!」
「ありがとっすゲータ、頼りにしてるっす!」
それからも、ミーニャ達の特訓は続いた…。
そして、ついにボスウルフとの再戦の時がやってきた。
「(:訳)『父さん!お願いだ!もう一度だけ僕と勝負してほしい!』」
「『くだらん、何度やっても結果は同じ…所詮は無駄なことだ』」
「『お願いします!もう一度だけ、もう一度だけチャンスをください!』」
「『…分かった、だがもう次はないぞ!』」
「『はい!!』」
「『よし、ならば来い!』」
「ガルルル…グワッ!」
激しくぶつかり合うウルフの親子、俺達は陰からこっそりと見守る。
「頑張れ!頑張るっす!」
「そこだ!いけ!あの特訓を思い出すでやんす!」
ほんの僅かではあるが、ボスウルフとも互角に渡り合っている
ミーニャの教え方が良かったのか、それともアイツに元々備わっていた才能が開花したのか…定かではない。
「グワォォォォ!!」
必死にボスウルフに喰らい付いていく子供ウルフ
「ガウッ!」
だが、後一歩のところで力及ばず倒されてしまう
「ウゥ…」
「あっ…」
「『ハァ、ハァ…強くなったな、以前までの貴様ではこの私にかすり傷すらもつけられなかったものだが…』」
「『全ては…師匠の教えの賜物です…』」
「『師匠か…おい、そこでずっと見てるのは分かってる!出て来い!』」
(なっ!?気づかれた!?)
この距離で存在を勘付かれるか…どんな嗅覚してんだあのウルフ
「『お前達が息子を鍛えてやったのか?』」
「そ、そうっす!」
「『そうか…獣人の娘よ、一つ頼みがある』」
「??」
「『此奴はこれからまだまだ強くなれる素質が十分ある、どうか此奴を連れて鍛えてはくれぬか?』」
「『!?、父さん!?』」
「うぃっす!任せるっす!」
「『…良いな、息子よ』」
「『はい!僕は必ずや、一人前になって父さんのような立派な男になります!』」
「『…ふっ』」
すると、ボスウルフ達はどこかへ去っていった。
「…行っちゃった」
「で?結局お前ら何話してたんだ?」
「ん?あのねあのね…」
と、ミーニャは話した内容を俺とゲータに教えてくれた。
「へぇ、よかったでやんすね!一応は親父さんに認められたみたいで」
「ガウッ!」
「それじゃ、これからよろしくな…えっと、そういやお前名前は?」
「ガウ?」
「旦那、生憎と野生のモンスターは人間や亜人種と違って個人の名前なんてないんでさぁ」
「ん?そうなのか?まぁ、普通に考えりゃそうだよな…」
「だったら兄ちゃんがつけてあげればいいっす!」
「俺がか?…つっても急に言われてもな、名前ねぇ…『クリム』なんてどうだ?クリムゾンウルフのクリム」
「…なんか安直すぎないっすか?」
「とってつけただけみたいでやんすね…」
「何だよ、わかりやすくていいだろう?」
「ガウ!」
「ん?…えー、マジで言ってんすか?」
「何だって?」
「兄ちゃんのつけた名前気に入ったって…」
「そっか、ならお前は今日からクリムだ!」
「ガウ!」
「んじゃ早速…『我、ここに汝と主従の契約を交わさん』」
クリムの額に紋章のようなものが現れスッと消えた。
「よろしくな、クリム!」
「ガウッ!」
こうして、また新たな仲間が加わったのだった。
To be continued…