第二十九話 リョーガと防御特化
「なぁ、ガンディ」
「はい、何でしょうか?リョーガ隊長」
「ん?なんだ隊長って?」
「いえ、リョーガ隊長は自分にとって上官に当たる人物なので…尊敬の意を込めて『隊長』と呼ばせてください!」
「そうか、まぁいいや呼び方なんてなんでも…それより、やっぱお前って生前も騎士だったのか?」
「はい!自分は生前騎士団に所属していたであります!」
「ふーん、その割には…お前、剣持ってないんだな」
ガンディは大きな立派な盾を持ってはいるが剣らしいものは持っていない
「気づかれましたか、実は自分は恥ずかしながら剣はからっきしでして…生前所属していた騎士団でも防御専門の部隊に所属していたであります」
「防御専門?」
「はい!自分、防御力には少々自信があります!」
「ふーん、どれ?」
鑑定スキルでガンディのステータスを確認してみると、剣術スキルは持ってはいるものの、ランクは『Fランク級』とやはりへっぽこだったが防御力の数値が異様に高い上に様々な攻撃や魔術を軽減する防御系スキルを沢山取得していた。
防御方面だけで言えば、俺らの中でもトップクラスだ…今まではぷよたんに壁役を担ってもらっていたが、コイツはぷよたん以上に強力な壁役として役に立ちそうだ。
「ふむ、大した防御力だな…」
「あ、ありがとうございます…」
「だがそれだけだと少々不安だな…多少でも剣は使えないか?」
「いや、それが全く…」
「…だよな、なら魔術だったらどうだ?」
「魔術、でありますか?」
「あぁそうだ、使ったことはあるか?」
「いえ、騎士団の中には多少魔術の心得もある者はいましたが…自分は使ったことは一度も」
「そうか、まぁスキル自体は俺の調教スキルを使って覚えさせれば簡単に覚えることができるしな…とりあえず一通り教えてみるか」
というわけで、ガンディに一通り魔術系スキルを教えてみた。
色々試してみて『地属性』と『火属性』の魔術を覚えさせることができた。
「…とまぁ、こんな感じか…よし、とりあえず教えた通りにやってみな、まずはFランク級の地属性から」
「は、はい!え、えっと…『土盾』!」
唱えると、土の盾が現れた。
「うん、まあまあの精度だな…次は火属性だな、やってみろ」
「はい!」
…それからも、俺とガンディの魔術の特訓は続いた。
「ど、どうでありますか?」
「あぁ、大分形になってきたな…次は実戦形式で練習してみるか」
「はい!お願いします!」
地下の訓練場へ移動する、丁度ユラとハナビが暇そうにしていたので手伝ってもらうように頼んだ。
「じゃあ二人とも、よろしく頼む!」
「あい、お任せでありんす」
「悪く思うなよガンディ、アタイは手加減とか知らねぇからな…そっちも殺すつもりで来い!」
「わ、分かったであります!」
「んじゃ、遠慮なくいくぜ!」
ユラはそう言うや否や一瞬の内にガンディとの距離を詰め、ガンディに強烈な蹴りを繰り出した。
「くっ!」
盾でガードするガンディ、そこからユラは間髪入れず容赦ない蹴り技の応酬を繰り出す。
「オラオラオラァ!」
「……っ!」
「ガンディ!耐えてるだけじゃ特訓にならないぞ!反撃しろ!」
「そ、そうでした!えぇい!」
盾でユラを押して突き飛ばす、突き飛ばされたユラは一瞬宙に舞ってくるりと宙返りして着地する
「いくであります!『多重石弾』!!」
そう叫んで術を発動する、すると無数の石つぶてが飛び出しユラ達を襲う
「ふんっ」
ユラは軽快なステップで石弾をかわす
「『狐流妖術 炎舞・砲千火』!」
今度はハナビが同じように無数の炎の弾を放って石弾を撃ち落とす。
「うぉぉぉぉ!!」
負けじと石弾を放ち続けるガンディ
「くっ!」
「これは、なかなか…」
ガンディの猛攻に苦悶の表情を浮かべ始める二人
「決めるであります!『炎砲』!!」
と、大きな炎の砲弾を形成しぶっ放す
「!?」
「ユラはん!『狐流妖術 炎舞・紅炎陣』!!」
燃え盛る炎の陣を張り、ガンディの炎を相殺した。
「…ハァ、ハァ、ハァ」
「よーし、そこまで!もう十分だろう…」
「はい、ありがとうございました!」
「ふぅ、にしても…結構強くなったなガンディ!特に最後の一発なんてすごかったぜ!」
「ほんに、お見事でありんすえ」
「い、いやぁ…」
まんざらでもなさそうに照れるガンディ
と、その時だった…。
「に、兄ちゃん兄ちゃん!大変っす!」
「ミーニャ?なんだそんな慌てて?」
「町が、ニライスの町が大変なことになってるっす!」
「何っ!?」
・・・・・
ミーニャから知らせを受けた俺達は急いで外へ出てニライスの町へ向かうと、町ではサイレンのような音が鳴り響いていた。
『緊急警戒警報発令!緊急警戒警報発令!ニライスの町近隣にてスライムが異常大量発生中!近隣住民の方は直ちに避難してください!尚、手の空いている冒険者の方々はスライムの駆除をお願いします!繰り返します、緊急警戒警報発令…』
と、物々しい内容のアナウンスが響き住人達は慌てて避難を開始する
「押さないでください!慌てず避難をお願いします!」
冒険者ギルドの職員達が住人達の避難誘導をしている
「ルーシー!一体どうゆう状況だこれ!?」
「リ、リョーガさん!きてくれたんですね!実は…」
話によると、ニライスの町の近くに棲むスライム達が異常なまでに大量に増殖したとのこと、スライム一匹一匹は取るに足らない雑魚モンスターでしかないが、それが数百・数千と大量に集まるとかなり厄介らしい…そのスライムの軍勢はありとあらゆるものを食らいつくし、小さい村であればたった一日で壊滅してしまうほどの脅威があるとのこと。
「もう間もなくそこまでスライム達は迫ってきています…どうかお願いします!」
「分かった!任せろ!」
スライムの軍勢を迎え撃つ
“ワラワラ…”
言われた通り、ものすごい数のスライムの軍勢が町に迫ってくる、その数ざっと数千匹…いくらなんでも増えすぎだろう…。
「僕達スライムは元々繁殖力の強いモンスターなんですぷよ、でも流石にこれほどまでの大量発生は初めて見るぷよ…」
「そうか、念の為お前は俺から離れるなよ…他の冒険者に間違って狩られちゃ世話ねぇからな」
「ぷよよ、そうしますぷよ」
「よし、じゃあいくぞお前ら!」
全員でスライムの軍勢の駆除に取り掛かる、俺達以外にも冒険者達はいるがその数の差は歴然…あっという間に数の多さで押し切られてしまい苦戦を強いられる。
「くっ!流石に限界でやんす!」
「ぐぬぬ…まさかこんなスライムごときに儂が手こずるとはの…」
「クゥン…」
「このままでは、捌き切れないでありんす!」
「こうなりゃ、メリッサ!いっちょ景気イイの一発頼むぜ!」
「はーい!メリッサにお任せなのだ!」
「??、何をするつもりなんだ?」
するとメリッサは指をパチンと慣らし魔方陣を発生させると魔方陣の中へ手を突っ込む、するとその手には『エレキギター』が握られていた。
「なっ!?ギター!?」
「いっくよー!ナウ・ミュージックタ〜イム!!」
するとメリッサは軽快にギターを演奏し始めた、その魂を揺さぶるような激しく強烈な音は全身に響き渡ってきた。
「な、何なんだ一体!?」
俺達は唖然としながらメリッサがギターをかき鳴らす様を見ていると…。
「ん?な、なんだ!?」
「体にみるみる力が溢れてきやがる!」
「うぉぉぉ!やるぞぉ!!」
演奏を聴いた周りの冒険者達が突然元気になって再びスライムの軍勢へ立ち向かっていった。
「何が起こってんだ!?」
「これがメリッサだけが使える『音曲魔術・ハッスルビート』対象者を鼓舞して一時的にパワーアップさせる術だ」
「そんなことができんのか…そういや、なんか体の奥底から段々と力が湧いてくるような…」
「うにゃぁぁぁ!やったるっす!!」
「元気満々!いくでやんすよぉ!!」
「ガァウッ!!ガウガウ!!」
「クァーハッハッハッ!祭りじゃ祭りじゃあ!!」
「あい!行くでありんすえ!」
メリッサのおかげで一同活気を取り戻し、どんどんとスライム達を狩っていく
だが、そんな時…スライムの一部が俺達の間をすり抜けて町へと向かってしまった。
「!?、しまった!」
「くっ!間に合わねぇ!」
するとその時だった、偶然後ろにいたガンディがスライム達の前に立ちふさがった。
「ガンディ!」
「…ここから先へは、自分が絶対に通さないであります!!『巨土壁』!!」
と、町を覆うような巨大な防壁が現れた。
「な、なんじゃありゃあ!?」
「Aランク級地属性魔術『巨土壁』広範囲にも及んで防壁を生み出す術ぷよ…」
「ガンちん、すごぉい…」
「だが、俺はあんなすげぇ術教えてねぇのに…いつの間に?」
「自分は…死して尚、騎士であります!騎士とはその剣をもってして罪なき人々を守ることこそが使命、だが自分は剣が使えない…なら、その身をもってして人々を脅威から守り救ってみせる!それこそ今の自分にできることであり、歩んでいくと決めた『騎士道』であります!」
「ガンディ…」
「ガンちん…」
スライム軍団はこぞってガンディの方へ向かっていく
「くらうであります!『霊火球』!!」
青い色の火球弾を放つガンディ
「なんだあの炎の色?青いぞ」
「ガンディはんの霊力を感じるでありんす…火の魔力にガンディはん自身の霊力を上乗せすることで性質が変化し新たな術へ変化したようでありんす」
「なんかよく分からんが…後ろはガンディに任せて俺達は目の前の敵を駆除するぞ!」
「うぃっす!」
「へい!」
「続けー!」
…こうして、みんなの奮闘の末にスライムの大量発生は何とか抑えられ、騒動は一件落着した。
「冒険者の皆さん!皆さんの活躍のおかげで無事に終わりました!駆除に参加された方にはギルドから臨時報酬をご用意いたしますのでギルドの受付でお受け取りください」
「じゃ、俺はギルドに報告して報酬もらってくるからお前ら先に帰ってろ」
「うぃっす!」
「あの、リョーガ隊長!」
「ん?」
「その、ありがとうございました!リョーガ隊長のおかげで自分は強くなれました!本当にありがとうございます!」
「…俺は大したことしてねぇよ、全部お前が頑張った結果だろ?」
「た、隊長~、くぅ~!」
感激して涙を流しているつもりだろうが…ゴーストなので涙は一滴も出ていない。
「よかったなガンディ」
「かっこよかったよガンちん!」
「ユラ女史、メリッサ女史…ありがとうございます!」
To be continued…
-----【To days Result】-----
スライム × 1000~
【呼び方】
ミーニャ『んー…』
ガンディ『ミーニャ女史?どうかしたでありますか?』
ミーニャ『んー、あのねあのね…ガンディって、“おじちゃん”っすか?それとも“兄ちゃん”っすか?』
ガンディ『そ、そうでありますね…まぁ実年齢はともかくとして、自分が亡くなったのは十九の年だったので“兄ちゃん”で合ってると思うであります』
ミーニャ『そっすか、ありがとう!ガンディの兄ちゃん!』
ドッガ『な、なぁミーニャどん…オラのことは兄ちゃんって呼んでくれねぇんだすか?』
ミーニャ『えー、ドッガのおじちゃんはどう見てもおじちゃんにしか見えないからそのままでいいっす…』
ドッガ『ガーンっ!…シ、ショックだす』