第二十七話 リョーガとアンデッド三人衆
…今日は西大陸にある古いダンジョンの調査へとやって来た。
このダンジョンはいつから存在するのかもう誰も分からないくらい古いダンジョンらしく、たまたま通りがかりの冒険者が発見したらしい。
古今東西、こう言った古いダンジョンにはアンデッドモンスターなどが付き物なのだが…フウラがルリに清めてもらった『聖水』をたくさん持ってきてくれた、何でもルリ達水竜族は『水の女神様』の加護を受けており、強い清めの力が使えるらしい。
…と、いうわけで俺達は調査の為ダンジョンの中を進む
「おっ宝おっ宝ニャンニャンニャ〜ン♪」
「おいミーニャ、あんまりはしゃいで転んだりすんなよー」
「へへ、昔じいちゃんから聞いたっす!こういうダンジョンにはお宝が眠ってるもんだって、ワクワクするっすね!」
「って言っても、ここいつからあるか分からないぐらい古いダンジョンなんでやんすよね?もうとっくにお宝なんて取り尽くされてるんじゃないでやんすか?」
「もう!ゲータ!夢を壊すようなこと言わないでほしいっす!」
「え、えぇ〜…なんかすいやせん」
「フフ、無邪気なものでありんすね…」
「しかし、ただだだっ広いってだけでホントに何もねぇな…モンスターも全然いないし…」
「そうじゃのう…なんじゃ、折角強いモンスターと戦えると思ったのに拍子抜けじゃな…」
と、言いながらしばらく歩いていると…。
「ガルルル…」
「クリム?」
突然クリムが低く唸り声を挙げた
「敵か!?」
「!?、この気配は…」
「ハナビ殿?お主も感じるのか?」
「あい…これは、かなり強い妖気でありんす」
「何だと?」
「よ、妖気って…やっぱりアンデッドがいるでやんすか?」
「何にせよ、警戒した方がいいな…」
俺達は辺りを警戒しながら先へと進み、そしてとうとうダンジョンの最深部らしき場所を発見した。
「ここでありんす、この部屋の奥からただならぬ妖気を感じるでありんす」
「そうか、よし…全員気を引き締めろ!」
「うぃっす!」
「へい!」
「ガウッ!」
「ぷよ!」
「あい!」
「おう!」
「それじゃ、いくぞっ!」
勢いよく扉を開ける、すると…
「あん?なんだぁ?テメェら?」
「人間…の様でありますね、多少そうじゃないのも混ざってますが…」
「キャハッ!人間に会ったのなんて久しぶりなのだ〜!」
そこにいたのはモンスターと思われる三体、一人は人間っぽい見た目をした赤いタンクトップにカーゴパンツを身につけた黒髪で赤目の気の強そうな巨乳女、その横には大きな盾を背負った鈍色のフルプレートアーマーを纏った大男、そして黒と白のゴスロリ調のミニスカドレスを着た赤紫のハーフツインテールの少女…頭からは羊の角のような湾曲した黒い角と背中からはコウモリのような翼が生えている。
「お前達は、何者だ?」
「リョーガはん、こん人ら…『魔族』でありんす!」
「ま、魔族?」
「へぇ、魔族とはあちきら妖魔族と同じくして知性を得て進化したモンスターでありんす…種族的にはあちきら妖魔族とほぼ同じでありんすが…魔族は皆、禍々しい思想や妖気を持っていて人間を食糧としか考えていないのでありんす!」
「エサねぇ…随分な言い方だな、えぇ?妖狐一族…」
「気をつけてくんなんし、この妖気…かなりの強者でありんす」
「……」
「確かに、そこの妖狐の方の言う通り我々は魔族であります…ですが、信じていただけないと思いますが自分達には人間に対しての敵対心は一切ないのであります!」
「な、何ぃ!?」
鎧男の口から思いがけない言葉が飛び出して俺達は啞然とする。
「申し遅れました、自分の名は『ガンディ』と申します…」
「アタイはヴァンパイアの『ユラ』ってんだ…ヨロシク」
「はいは~い!悪魔の『メリッサ』なのだ~!」
「あぁ…俺は冒険者のリョーガだ」
「へぇ、ところでアンタ…亜人種や妖魔族とつるんでるってことは、ただの冒険者ってわけじゃないね?」
「案外目ざといんだな…そうだ、俺は魔獣使いだからな…コイツらはみんな俺の仲間だ」
「なんと!魔獣使いでありますか!?」
「へぇ~久しぶりに見たのだ~」
「まだそんな物好きがいたんだな…」
…あれ?なんか俺ディスられてんのか?
「それよりも、お前達が人間に対して敵対心がないってのは信用して大丈夫なんだよな?」
「あぁ、信用してくれていいぜ」
「…って言ってるが?」
「うむ、良いのではないか?」
「ぷよ!僕も大丈夫だと思うぷよ!」
「オイラも右に同じでやんす」
「ウチも!ハナビの姉ちゃんは?」
「あ、あちきは…言われてみれば、たしかにこん人らからは邪気はあまり感じんせんけど…」
「…んー、とりあえず悪い奴ってわけでもなさそうだしな、ここはお互いに腹割って話でもしようか」
「話が分かるじゃねぇか…流石は魔獣使いって言ったところか?」
・・・・・
それからはお互いに腹を割って話し合った。
ヴァンパイアのユラは元々は人間でヴァンパイアに血を与えられたことでヴァンパイアとなったらしい、普通は人間がヴァンパイアなどのアンデッド系のモンスターになった場合は生前の記憶や人格は失われるらしいのだが、どうゆうわけかユラは生前の頃の記憶や人間としての心を持ったまま体だけがヴァンパイア化してしまったらしい、そのおかげで人間としての理性が残っており人間への吸血行為をためらってしまい、獣やモンスターの血を吸って今日まで生きてきたのだという。
ゴーストナイトのガンディも同様で、死んでゴーストとなった今も人間としての心を持ち続けているのだという。
悪魔のメリッサの場合は、実は彼女はぷよたんと同じく『変異型モンスター』で、本来悪魔が好むはずの人間の『怒り・悲しみ・恨み・絶望』といったマイナスな感情を嫌い、それとは反対に『喜び・楽しみ・思いやり・幸福感』といったプラスの感情が大好きなのだという、そのせいで周りの悪魔達から変わり者呼ばわりされ白い目で見られ続けてきたのだという。
彼女達三人は変わり者同士意気投合し、もう長い間行動を共にしていて各地を転々としながらつい最近このダンジョンに流れ着いて身を潜めていたらしい。
「…なるほどな、お前らが危険な存在じゃないってことはよーく分かった」
「おぉ!分かっていただけましたか!ユラ女史、この方間違いなくいい人であります!」
「あぁ、みたいだな…」
「んで、お前達これからどうするつもりなんだよ?このままずっとここに籠ってるつもりか?」
「いや…そういうつもりはないんだけどよ」
「ねぇねぇ、ユラちんガンちん…メリッサ思うんだけどぉ、メリッサ達もさぁリョーガちんの仲間に入れてもらおうよ」
「えっ?」
「ふむ、それも名案でありますな」
「いや、俺としては構わんが…いいのかホントに?」
「あぁ、正直ここ何にもねぇから退屈でさ…丁度飽きてきたとこだしな」
「自分も賛成であります!」
「うん!決まりなのだ!というわけでリョーガちん!いいよね?」
「あぁ、いいぜ!早速契約だ…『我、ここに汝らと主従の契約を交わさん…』」
と、三人の額に紋章が現れスッと消えた。
「…よし、契約完了!」
「わーい!また仲間が増えたっす!」
「賑やかになりそうでやんすね」
「ガウッ!」
「よろしくお願いするぷよ!」
「…どうぞ良しなに、良かったら魔族のお話聞かせておくんなんし」
「クァーッハッハッハ!今度是非儂と手合わせを願いたいものじゃ!」
・・・・・
【リョーガの屋敷】
ダンジョンを後にし、ギルドに報告を終えてアンデッド三人衆を連れて屋敷へ帰ってきた。
「お帰りなさいませ…皆様、っ!?」
アンデッド三人衆を見た途端に急に眉間に皺を寄せるルリ
「ん?テメェ…水竜族か?」
「えぇ…あなた方は、アンデッドですね?」
スッと右手に魔力を込めるルリ
「待て待て!一旦落ち着け!ルリ!」
「旦那様、離れてください!今すぐ浄化いたします!」
「ちょっと待て!まずは俺の話を聞け!」
…と、一先ずルリを一旦落ち着かせて経緯を説明した
「なるほど、把握いたしました…申し訳ございませんでした、ご無礼を」
「いや、いいんだ…気にするな」
「やれやれ、相変わらずじゃのうルリのアンデッド嫌いは…」
「ん?そうなのか?」
「うむ、こやつはな普段こうして冷静沈着に振舞っておるが…実際は大のビビりでのう、昔はよくこの手の話をすると盛大に小便をちびったもんじゃ」
「フ、フウラ様!?こ、子供の頃のことでございます!お戯れはよしてください!」
「クァーッハッハッハ!愉快愉快!」
「もう!」
恥ずかしくて顔を赤らめるルリ、まさかクールな彼女にそんな意外な一面があったとは…。
【夕食時】
「ごっそさんした!ふぅ、久々の娑婆のメシはサイコーだな!」
「うん!美味しかったのだ!」
「いいでありますなお二人とも食べられて…はぁ、生身の体が恋しいであります」
久しぶりの食事を堪能したユラとメリッサ、一方で霊体であるが為に食事できないガンディは恨めしそうに指を咥えて見ていた。
「さてと、ひとっ風呂浴びてくるかなっと…もう何年も入ってなかったから体ベトベトだぜ」
「うんっ、ごゆっくりなのだ!メリッサはデザート食べてからゆっくり入るのだ」
「おう、じゃあお先…」
と、ユラが風呂場へ向かってから数分後…
「ぎゃあぁぁぁぁ!!」
「な、なんだ!?」
「ユラちん!?」
急いで風呂場へ駆けつけると、風呂場でユラが苦しそうに倒れていた…よく見ると少し半透明になって消滅しかかっていた。
「な、何があったんだ!?」
「分かんねぇ…風呂に入った途端に体中が急にピリピリして…ハァ、ハァ」
(体がピリピリ?まさか…とは思うが)
確か風呂のお湯に使う水はいつもルリが自分の術を使って溜めている…水竜族は水の女神の加護を受けていて強い清めの力を持つ、もしそんな水にアンデッドであるユラが浸かったりなんてしたら…。
「ユラ!しっかりしろ!」
「う、うぅ…苦しい」
「待ってろ、今助けてやる!『エクス・ヒーリン…』」
「リョーガちんダメなのだっ!」
「えっ?」
「メリッサ達悪魔やアンデッドには癒しの術は逆効果なのだ!」
「くそ、どうしたら…」
もう段々と消えかかってる…早くしないと、でも他に方法が…
「…そうだ!」
俺は咄嗟にポケットに入っていた解体用のナイフを取り出して、そのナイフで自分の左腕を思い切り突き刺した。
「っ痛!」
「リ、リョーガちん!?何をしてるのだ!?」
「ユラ、俺の血を飲め…これで少しは回復できるだろ?」
「おい…お前正気か?」
「時間がない、早くしろ!このままじゃ死ぬぞ!」
「…分かった」
そう言ってユラは俺の腕から滴る血をペロリと舐める
「!?」
すると、ユラの体は徐々に肉体を取り戻していった。
「やった!戻ったのだ!」
「…悪ぃリョーガ、助かった」
「あぁ、どうってことねぇよ…もう平気か?」
そう言いながら俺は自分の腕に治癒スキルをかける
「あぁ、平気だ…つか、今あんまこっち見んな」
と、言って恥ずかしそうに両手で自分の胸を隠す
「っ!?す、すまん!そんなつもりじゃなかったんだ!邪魔したな!」
俺は極力ユラの方を見ないようにしながら風呂場を出ていく
(プププ、リョーガちんもやっぱ男なのだ~…イイ喜びの感情いただいちゃったのだ♪)
・・・・・
その夜、俺が自室のベッドで寝ていると…
“キィー”
と、誰かがこっそりと入ってくるような気配がして少し目が覚めた。
(ん?誰だこんな時間に…)
そしてそいつはあろうことか俺のベッドの中に潜り込んできた。
「!?」
俺は慌てて布団をめくりあげると、そこにいたのはなんとユラだった。
「ユラ!?お前、こんなところで一体何を…」
「しーっ!あんまデカい声出すなって!みんなに気づかれるだろ!」
「そうか、すまん…じゃなくて!何してんだよこんな時間に!」
「悪ぃ…でもやっぱどうしても我慢できなくてよ」
「あ?」
「さっき舐めたお前の血の味…すげぇ美味くて、あれがどうしても忘れられなくてよ…考えれば考えるほどムラムラして眠れなくてさぁ」
ムラムラって…お前その言い方は語弊があるからやめろよな。
「なぁ頼む!少しでいいから吸わせてくれ!」
「やだよ、ふざけんな!」
「んだよ…なら、昼間アタイの裸見たことみんなに言うからな!」
「ぐっ…ったくしょうがねぇなぁ、あんま吸いすぎんなよ」
「サンキュー!」
そう言うや否やユラは俺に抱きつく形で腕を首の後ろへ回してその鋭い牙で俺の首にがぶりと嚙みついた。
“…チュウゥゥゥゥ”
「うっ…くっ、あぁっ!!」
・・・・・
【翌朝】
「あれ?兄ちゃん起きてこないっすね…」
「ユラちんもなのだ」
「おっはよーっす!いい朝だなお前ら!」
「…おはよう」
結局、昨夜ユラに干からびる寸前まで血を吸われた俺は朝からげっそりとしていた、その一方でユラは元気ハツラツのご機嫌で肌も艶々していた。
「だ、旦那?めちゃくちゃ顔色悪いでやんすよ?」
「あぁ…まぁ、ちょっとな」
「まさか、ユラちん?リョーガちんの血、吸ったのだ?」
「さ、さぁ?なんのことだ?」
「とぼけても無駄なのだ!現に今、ユラちんからこれまでにないぐらい幸福感の匂いがプンプンするのだ!」
「ギクッ…」
「もう~!やっぱり図星なのだ!ユラちんのいやしんぼ!」
「誰がいやしんぼだテメェ!やんのかコラァ!」
「ちょ、お二人とも!落ち着くであります!」
「さいです!落ち着きなんし!」
「お?喧嘩か!?なら儂も混ぜろぉ!」
「フ、フウラさん!余計に煽っちゃダメぷよ!」
…ったく、ホンっト朝っぱらから喧しい奴らだな。
To be continued…
【まるで…】
ユラ『なぁ頼むよ!せめて週一回!』
リョーガ『ダメだ!月一回!』
ユラ『えぇ〜!そんな我慢できねぇって!なら二週に一回!』
リョーガ『ダーメっ!俺を日干しにする気か!』
ユラ『えぇ〜、リョーガのケチぃ〜』
ハナビ『ウフフ、まるで『性交渉』の頻度を決めている男女みたいでありんすね』
リョーガ・ユラ『なっ!?そんなんじゃねぇし!!』