第二話 リョーガと初仕事
…前略、引きこもりの自称浪人生だった俺こと『三澤 遼河』は、ひょんなことから異世界へと転生…その世界で第二の人生をスタートさせることとなった。
転生し始めて訪れた町『ニライス』で冒険者となり、『魔獣使い』の職を得る
そこで偶然、数人の男達に暴行されていた亜人種の猫耳少女『ミーニャ』を助け出し、俺は彼女と契約を交わし最初の仲間を手にすることに成功したのだった。
・・・・・
冒険者となって一週間、俺達はレベル上げの為に再び森のスライムをひたすら狩りまくっていた。
レベルもかなり上がり、鑑定スキルの性能も上がって相手の持つ能力を確認することができるようになった。
試しにミーニャのステータスを確認してみると、彼女は『レベル10』にまで成長しており、能力の欄を確認すると…『ヤマネコ流獣人拳』という武術を体得していることが分かった。
何でも、彼女曰く…今は武者修行の旅の途中なのだそうだ
それで行く先々で人間達から差別的な扱いを受けて酷い目に遭ってきたらしい。
それでも、彼女の強さは本物で俊敏な動きでスライム達をバッタバッタと倒していった
そんなに強いんだったらあの時だって自分でやっつけてやれば良かったんじゃないか?と言ったら
「お師匠様が言ってたっす、真に強き者はその拳を無闇に振るってはならない…常に誰が為に、弱き者を守る為に使うことを心得よ、っす」
…とのことだ。
と、いうことでレベルもいい感じに上がってきたところで、ぼちぼち冒険者の仕事を受けてみることにした。
「邪魔するぞ」
「あら、こんにちはリョーガさん!ご機嫌いかがですか?」
「まぁまぁってとこだ…それより、依頼を受けたいんだが」
「かしこまりました、ではまず始めに…リョーガさんは今回初めて依頼を受けるということで少しご説明いたしますね」
ルーシーは冒険者の仕事について説明してくれた。
前に少し説明してもらった通り、依頼の難易度はF〜Sランクまでのランクに割り当てられ冒険者は自分達のランクに応じたランクの依頼を受注することができる。
ただし、自分達のランクよりもワンランク上のランクまでなら受注することが可能らしい、Eランクにまで昇格したならばワンランク上下まで、つまりF〜Dランクまでの依頼を受注可能になる。
一先ず俺はまだFランクなのでFかEしか受けることができない
一定数依頼を達成したらランクアップ、もし失敗が続けばランクダウン、失敗があまり続けばペナルティとして冒険者資格の停止又は罰金となるらしい。
「説明はこれで以上となります、何か他にご質問は?」
「いや、いい…大体分かった」
「かしこまりました、ではこちらF〜Eまでの依頼となってますのでお選びください」
と、カウンターの下から依頼書の束を取り出す
俺はそれを一枚一枚手にとって確認していく。
Fランクの依頼だとやはり『ペット探し』や『子守り』などのおおよそ冒険者とは思えないような仕事がメインのようだ、報酬もかなり安い…まぁ、Fランクと言ったらほとんど素人に毛が生えたようなもんだし、返ってこれぐらいが妥当かもな…とりあえずめんどくさいからFランクの中から適当に選んで済ませよう。
「じゃあ、このペット探しを…」
「えーっ!そんなしょぼいのやだっすよぉ!折角兄ちゃんと修行して強くなったのに、もっと悪者とかドラゴンとか倒すようなのがいいっす!」
「お、お前なぁ…文句言うなよ、俺まだFランクなんだぞ?そんな高難易度の依頼受けられるわけがねぇだろ…」
「えー…」
「そ、そうですね…ドラゴン討伐ともなりますと流石にAランク相当でないと受けられません」
「そら見ろ」
「ぶー、じゃあとにかくなんでもいいから戦いたいっす…」
「分かった分かった、ったくしょうがないな…」
はっきり言ってまだ討伐系の依頼は避けて通りたかったのだが、そうも言ってられなくなってきたな…とは言えFランクには討伐系の依頼はほとんどなくあってもスライムの討伐依頼しかなかった。
スライムはもう散々倒して回ったのでもうしばらくスライムはいいやな…ならEランクか
「じゃあこれでいいか?Eランクの『ゴブリン討伐』」
「お〜っ!中々良さそうなのもあるじゃないっすか〜!」
「分かった、じゃあこれで頼む」
「かしこまりました、ではゴブリンは倒した際に体の一部と体内の魔石を採取してこちらの方へ持ってきてください」
そう言って解体用の肉切りナイフと採取袋を渡される
「あぁ、分かった」
「では、いってらっしゃいませ!」
・・・・・
ゴブリンといえば古今東西スライムと並ぶ初級の雑魚モンスターとして有名、よく洞窟や洞穴などに巣食い群れを成して暮らしているイメージだ
なので俺達は町を出て町外れにある洞窟を目指した。
「この辺りだな…」
「あっ!兄ちゃんあれ!」
岩陰からこっそりと見ると、数匹のゴブリンが周りを警戒するようにキョロキョロと辺りを見回していた。
尖った耳や鼻に血色の悪い緑色の肌、ギョロッとした黄色の目玉に肋骨がくっきり浮き出た痩せこけた体…俺の想像していたゴブリンとピッタリ合致していた。
(いた、あの様子からしてアイツら見張りか?)
「よし、いいかミーニャ…まず俺がアイツらを魔術で牽制するからお前はその隙をついて…って」
と、振り返るとミーニャはいつの間にか忽然と姿を消していた。
「ミーニャ!?アイツ、どこ行った?」
「うっしゃぁーーー!!やったるっすー!!」
と、真正面からゴブリン達に挑みかかっていった。
(ちょ、何やってんのぉぉぉ!?)
あの馬鹿…人の話もロクに聞かずに飛び出していく奴があるかよ…ったく、獣人ってのは頭の中身まで獣並みなのかね?
「うにゃーーー!!」
と、ものの数秒で見張りゴブリンを蹴散らしてしまった
「ニャハハハ!どうだ参ったっすか?」
「おいミーニャ!考えなしに真正面から突っ込む奴があるか!」
と、ミーニャに一発拳骨する
「痛いっす!まどろっこしい作戦よりも片っ端から倒していけば早いっすよ!」
「だからってお前、俺の指示も聞かず勝手に突っ込むな!まずはお互い連携してだな…」
と、そうこうしている間に洞窟の奥からゴブリン達がぞろぞろと出てきてしまった。
「くっ!こうなりゃやるしかねぇか!ミーニャ!今度は俺の指示をちゃんと聞いて連携を…」
と、言おうとするや否やまた勝手に一人でゴブリンの群れに突っ込むミーニャ
「あの馬鹿!くそっ!!」
後からミーニャを魔術で援護しゴブリンの群れを狩っていく
「ハァ、ハァ、これで全部か?結構いたもんだな…」
「ニャハハハ!チョロいチョロいっす!」
「よし、さっさと解体するぞ!俺が魔石を取り出すからお前は耳でも鼻でもなんでもいいから体の一部を切り取って袋に詰めてくれ」
「うぃっす!」
解体作業に取り掛かろうとしたその時だった。
「ニャっ!?」
「…どうした?」
「…なんか、来るっす!」
「えっ?」
“ズシンッ!”
そこへ現れたのは、通常のゴブリンの三倍はある筋骨隆々の体格をして手に棍棒を持ったゴブリンだった。
「こいつは『ゴブリンロード』!!」
「ゴブリンロード?」
「ゴブリンの上位種だ、このゴブリン達の親玉ってわけか…」
俺はすかさず鑑定スキルでゴブリンロードのステータスを確認する。
【ゴブリンロード Lv21】
(レベルが俺達の倍以上か…ここは逃げた方が賢明だな)
「おいミーニャ、ここは逃げるぞ!」
「で、でも…」
「いいから逃げるぞ!」
「ウガァァァァ!!」
棍棒を振り回し、襲いかかる
「うわっ!?」
「ニャっ!?こ、こいつ!」
「よせ!ダメだ!戻れミーニャ!」
「いやっす!ウチは、逃げないっす!」
「馬鹿野郎!自分の力量を見誤るな!お前じゃ無理だ!戻れ!!」
「ウチは逃げないっす!お師匠様が言ってたっす!どんなに強い相手であろうと臆することなかれ、一度向き合ったら決して背を見せることはなかれ!獣人拳に不可能はないっす!!うにゃぁぁぁぁ!!」
果敢にゴブリンロードに挑みかかるミーニャ
「くらうっす!『猫拳乱舞』!!」
嵐のようなパンチのラッシュを浴びせる、だがゴブリンロードには全く効いていない。
「ウガァァァァ!!」
「うにゃっ!!」
「ミーニャ!」
「う、うぅ…」
「ウガァァァァ!!」
「!?」
「『風撃』!!」
「ウガっ!?」
「に、兄ちゃん!?」
「ったく、ホンっトお前は手のかかるめんどくさい奴だな…だが乗りかかった船だ、こうなったらとことん最後まで付き合ってやんよ!」
「兄ちゃん…」
「連携でアイツを叩くぞ、いいな?」
「う、うぃっす!」
「ウゥ…ウガァァァァ!!」
「ほらほらこっちだデカブツ!」
「ウガァァァァ!!」
ゴブリンロードを挑発して注意を逸らす
「そら来た!『水刃』!!」
魔術でゴブリンロードを牽制する、ダメージはほとんどない…だがこれでいい、俺の役目は奴の注意を俺に引きつけること…ここから先は…
「いけ!ミーニャ!」
「任せるっす!せいやぁ!!」
一瞬の隙を突いてゴブリンロードの死角から攻撃を仕掛けるミーニャ、たまらずたじろぎ棍棒を落とす。
「よし今だ!一気に攻め立てろ!」
「うぃっす!」
だが次の瞬間、怒ったゴブリンロードはミーニャを裏拳で吹き飛ばした。
「にゃふっ!?」
「ミーニャ!くそ!ファイヤーボー…」
術を発動する間もなく、俺はゴブリンロードに鷲掴みにされ握り潰される。
「ぐ、ぐあぁぁぁ!!」
全身の骨がメキメキと音を立てていく
「に、兄ちゃん!やめろぉ!このっ!このっ!兄ちゃんをイジメるなっす!兄ちゃんを離すっす!」
俺を解放させようと必死に殴るも蚊に刺された程度にしか効いていない。
「ウガァァァァ!!」
「うにゃっ!」
「ミ、ミーニャ…俺のことはもういい、お前だけでも逃げろ!」
「い、嫌っす!兄ちゃんは…兄ちゃんはウチに初めて優しくしてくれた大事な人なんす!ウチのこと褒めてくれて、ウチにいっぱいご飯食べさせてくれて…ウチはそんな兄ちゃんが大好きなんす!!だから絶対に見殺しなんかしないっす!!」
「ミ、ミーニャ…」
「だから、ウチは絶対…お前なんかに負けないっす!!うにゃーーー!!」
するとその時だった…。
“バキッ”
ミーニャの打った渾身の打撃がクリーンヒットし、痛みに悶えるゴブリンロードはとうとう俺から手を離しやっと解放された。
「ミ、ミーニャ?」
「フゥゥゥゥ…」
見ると、ミーニャは全身から凄まじい闘気を放っていた…すかさず鑑定スキルでミーニャの状態を見てみると…
【獣人拳・獣技 野生解放】
(野生、解放…?)
鑑定スキルによると、この技は特殊な呼吸法により集中力を高め能力を何倍にも上昇させることができる獣人拳の技の一つらしい。
たしかにミーニャのステータスが異常なほどにぐんぐん上昇していく…恐らく身体強化系のスキルの一種だろうか?
“シュバッ!”
すると、ミーニャは目にも止まらないスピードでゴブリンロードに打撃を何発も何発もくらわせる。
「うぅ〜にゃあぁぁぁぁ!!」
そして最後に強烈なアッパーカットで決め、ゴブリンロードを倒した。
「ハァ、ハァ、ハァ…ふにゃあ」
気力を全て使い果たし、その場にパタリと倒れ込む
「ミーニャ!ったく、お前って奴は…びっくりさせやがって…」
・・・・・
数時間後…
「うぅ…うにゃ?」
「おう、起きたか?」
ミーニャが漸く目を覚ました頃、俺はゴブリンとゴブリンロードの解体作業を終えたところだった。
「あれ?ゴブリンロードは?」
「お前が倒したんじゃないか…覚えてないのか?」
「うんにゃ、途中からほとんど無我夢中で何がなんだかさっぱり分かんないっす…」
「そうか、でもまぁ…今回はお前はよく頑張ったよ」
と、ミーニャをポンポンと撫でる
「兄ちゃん…う、うぇぇぇん!!」
「お、おい泣くな!俺はこの通り無事だ!落ち着け!」
「だって、だってホントに兄ちゃん死んじゃうと思ったから…うぇぇぇん!!」
「だからもう大丈夫だって!あぁもうよしよし、もう大丈夫だからいい加減泣き止め…」
…しばらくして、泣き疲れたミーニャはぐっすり眠ってしまい俺はそのままミーニャを背負ってゴブリンの素材と戦利品で得たゴブリンロードの棍棒を持ってニライスの町へと戻った。
【ニライスの町 冒険者ギルド】
「今戻った…」
「リョーガさん!おかえりなさい!いかがでしたか?」
「あぁ、ちゃんと狩ってきたぜ…ゴブリンざっと約20匹、それとゴブリンロードが一匹だ」
「えっ?ゴ、ゴブリンロード…ですか?」
目を丸くして仰天するルーシー
「あぁ、一応こいつがそのゴブリンロードが持ってた棍棒とそいつの耳と魔石だ」
「ちょ、ちょっと拝見させてもらいます…た、たしかに正真正銘ゴブリンロードのもので間違いありませんね…でもこれ、ホントにリョーガさんが?」
「いや、まぁ…最終的にトドメを指したのは俺の相棒なんだが…」
「はわわわ…そ、そんな!でも、ゴブリンロードなんてモンスター…Dランクの冒険者が複数束になってかかってやっと倒せるぐらいなのに…Fランクの新人冒険者であるリョーガさんが…しかもこれが初仕事で…えっと」
あまりに衝撃的すぎて頭が混乱しそうになるルーシー
「ひ、一先ずゴブリン討伐の分の報酬をお渡ししておきますね…」
「お、おう…」
「そ、それでゴブリンロード討伐の件に関してはこちらの方で一旦お預かりしてもよろしいでしょうか?私どもとしてもあまりに想定外の出来事でして…」
「そ、そうなのか?まぁ、分かった」
「で、ではまた明日お待ちしております…」
・・・・・
翌日、ギルドへ顔を出すと
「おい、アイツだろ?ゴブリンロード討伐したっていうとんでもねぇ新人は…」
「マジか…こりゃまたどえらい新人が来たもんだ」
などと、周りの冒険者達がヒソヒソ俺のことを噂している
「リョーガさん、お待ちしておりました…」
「おう」
「では、まずはゴブリンロードを討伐した特別報奨金を進呈致します…」
と、銀貨がパンパンに詰められた袋を手渡される
「うぉー!すっげぇっす!兄ちゃん一気にお金持ちっす!」
「まさかこんなことになるとはな…」
「それともう一つ…冒険者リョーガさん、当ギルドで協議した結果…特例としてあなたを『Dランク冒険者』として認めましょう!」
「なっ!?Dランクぅ!?」
「ん?それってすごいんすか?」
「あぁ…なんたってFからのいきなりDランクだ、ランクが一気に二つも上がったんだ」
「すげぇっす!流石兄ちゃんっす!」
「おめでとうございます!ギルド員一同、リョーガさんのこれからの更なる活躍に期待してます!」
「あ、あぁ…」
…こうして、初仕事を終わらせたと同時に何故か異例のスピード出世を成し遂げてしまったのであった。
「いやぁすごかったっすねぇ〜!怖い顔したおっさん達もみんな兄ちゃんに拍手してたっす!」
「そ、そうだな…なぁミーニャ?」
「ん〜?なんすか?」
「…その、なんだ…今日はDランクに昇格した祝いだ、好きなモン腹いっぱい食っていいからな」
「ホ、ホントっすか!?やったぁ!兄ちゃん大好きっす!!」
「…フン、現金な奴め」
To be continued…
-----【To days Result】-----
ゴブリン ×20
ゴブリンロード ×1
【魔石の使い道】
ミーニャ『ねぇねぇ兄ちゃん』
リョーガ『ん?なんだ?』
ミーニャ『改めて聞くっすけど、モンスターの魔石ってギルドに渡した後ってどうなるんすか?』
リョーガ『ふむ、手引き書によると実はモンスターの魔石には色々な使い道があるらしくてな…魔石には魔力が含まれていてその魔力を抽出して魔力回復薬を作ったり魔力の宿った強力な武器を作る際の材料に使われるそうだ、冒険者から受け取った魔石は冒険者ギルドで一旦預かり商人に売り渡される』
ミーニャ『へぇ〜、そうなんすねぇ』
リョーガ『又、見た目が綺麗なものは宝石としても価値があり宝飾品などにも使われるらしいぞ』
ミーニャ『んー、モンスターの中にもあるってことは人間とかウチらの中にもあるってことっすかね?』
リョーガ『それはどうだろうな?それらしい記述はなかったし、誰も見たことないからな…』
ミーニャ『なぁんだ、いざとなった時に取り出して売ろうと思ったっすけど、やっぱやめた!』
リョーガ『…お前、何ちゅう悍ましいこと考えてやがんだ?』