第二十話 リョーガと籠城戦
…その日の夜、俺達は若様と爺やさんの計らいで城へ一晩泊めてもらえることとなった。
一先ず俺はアルカイルさんへ無事に妖刀を届けて任務完了したことを報告しようと手紙を書いていた。
「兄ちゃん兄ちゃん、何書いてるっすか?」
「ん?アルカイルさんに手紙だよ、仕事が終わったことを報告しとかないとな…」
「ふ〜ん、ねぇねぇウチにも文字の読み書き教えてよぉ!」
「はぁ?やだよめんどくせぇ、スキルを教えるのとはわけが違うんだぞ?ゲータみたいに自分で勝手に覚えてくれるならまだしも、一から教えるなんてやだぜ」
「むぅ、兄ちゃんのけちんぼ…」
「ミーニャはん、あちきでよろしかったらお教えしますえ?」
「ホントっすか!?わーい!ありがとうハナビの姉ちゃん!」
「ふー、すまんなハナビ…そいつのわがままに付き合わせちまって」
「気にすることはありんせん、それにあちきは妖魔の里にいた頃は里の子らに簡単な読み書きや算術を教えていたこともありんす故…」
「へぇ、そうだったのか…」
すると、そこへ…
「失礼致します、リョーガ殿…少しよろしいでしょうか?」
部屋に爺やさんが訪ねてきた。
「ん?何か用か?」
「はい、実はリョーガ殿にご相談がございまして…」
「相談?」
「えぇ、若様からお話を聞きましたが…リョーガ殿が若様を連れ戻しに行かれた際に若様を連れ去ろうとする怪しい男達に遭遇したとの事で?」
「あぁそうだ、多分だが…例の『朝日の党』の連中だと思う」
「何と!?やはりそうでしたか…恐らく彼奴等、君主様がお亡くなりになられた今この時を狙って行動を仕掛けてくるつもりだろうか?」
「だろうな、奴らからすれば君主不在の今この時を逃すはずはない…俺が奴らと同じ立場でも多分同じことを考える、若様が狙われたのも人質にして城を落とす為だろう…」
「たしかに、だとしたら…事は一大事ですぞ!」
すると、その時だった…。
「御家老様!大変でございます!今、密偵より報告があり朝日の党が何やら不穏な動きを見せているとの情報が!」
「何と…!?」
「動き出したか…」
「兄ちゃん…」
「旦那…」
「分かってる、俺らも一緒に討って出るぞ!」
「リ、リョーガ殿…」
「ゲータ、お前は外に出て朝日の党の連中の動きを探れ、何か動きがあれば『念話』で俺に知らせろ!」
「合点でやんす!」
外へ出ていくゲータ
「残りは俺と一緒に若様及び城の守護だ!」
「うぃっす!」
「ガウッ!」
「ぷよ!」
「承知でありんす!」
こうして、迫り来る朝日の党を討って出る為準備を開始した。
・・・・・
「おいおい、何だいありゃ?」
「朝日の党だ!今日は店じまいだ!」
大軍勢を率いて街中を行進する朝日の党、物陰からゲータが隠密スキルで気配を隠し様子を窺う。
(『旦那、聞こえやすか?今、朝日の党の連中が大軍勢を率いて真っ直ぐ城へ向かってるでやんす!』)
(『そうか、ちなみに何人くらいいるか分かるか?』)
(『そうでやんすね…もの凄い数でやんす、ざっと数えて2〜300人、しかも一人やたら強そうな男がいるでやんす』)
(『強そうな男?』)
(『へい、さっき爺やさんに貰った『朝日の党総帥』の人相書きの顔にそっくりなんでやんす!』)
(『へぇ、総帥自らが指揮をねぇ…奴らも本腰入れてきたってわけか…分かった、引き続き見張りを頼む』)
(『へい!』)
ゲータとの会話を一旦切り、続いてミーニャとクリムに繋げる
ミーニャとクリムは城の兵士達とともに城にやってきた朝日の党の連中を迎撃してもらう役を任せた、一方でハナビとぷよたんは俺と一緒に本殿で若様を直接守護している。
(『ミーニャ、クリム!聞こえるか?まもなく奴らがそっちに到着する!迎撃準備だ!』)
(『分かったっすよ!一人残らずウチがやっつけるっす!』)
(『ガウッ!』)
(『よし!頼んだぞ!』)
…そして、とうとう朝日の党の軍勢が城の門の前に到着する
「親愛なる我が同胞達よ!時は満ちた!平和ボケした腐った国の中枢を打ち滅ぼし、引導を渡してやるのだ!今こそ四百年に渡る長き戦いに決着をつける時!勝利の朝日は我らの手の中にあり!」
「勝利の朝日は我らの手の中にあり!!」
先頭に立った男が軍配を掲げて構成員達を鼓舞する
「ではいざ行かん!者共進めぇ!」
「うおぉぉぉぉ!!」
門をこじ開け城内へ乱入する朝日の党
「下郎推参なり!出あえ出あえぃ!!」
迎え撃つ桜庭家の兵士達、それに合わせてミーニャとクリムも敵の軍勢に突撃していく。
「うにゃぁぁぁぁ!!」
「ガルルル、ウガァッ!!」
「…始まったみたいだな」
「ぷよ…ミーニャさん達、大丈夫ですぷよ?」
「心配いらねぇ、ミーニャもクリムもそう簡単にやられるようなタマじゃねぇさ…」
「ご主人様…」
「よっぽど信頼してるんでありんすね、ミーニャはん達のこと」
「それだけじゃねぇよ、俺はお前らだってめちゃくちゃ頼りにしてるからな!」
「フフフ、あい!あちきも精一杯気張らせてもらうでありんす!」
「…よっと、旦那ぁ!ただいま戻りやした!」
「ご苦労、お前は引き続きここで俺達と一緒に若様の守護だ」
「へい!」
・・・・・
…一方で外では
「一人も中へ通すな!何としても守り通せ!」
朝日の党の軍勢相手に必死に抵抗する兵士達
「クリム、まだまだ行くっすよ!」
「ガウッ!(はい師匠!)」
破竹の勢いでバッタバッタと敵を薙ぎ倒していく二人、そのあまりの無双っぷりに敵味方共に圧倒される
「な、何じゃあの娘!?」
「さながら鬼神が如き強さじゃ!」
「…どいてろ、お前達」
「そ、総帥!」
前に出る総帥と呼ばれた右側頭部を刈り上げてそこに首筋から顔の右側全体に鳳凰のような赤い鳥の刺青を入れ萱草色の羽織を着たその男は腰の刀に手をかけて意識を集中する
「…はぁぁぁぁ!!」
そして、瞬きする間もなく目にも止まらぬ速さで兵士達を斬り伏せていく
「ぐあぁぁぁぁ!!」
「な、何すか今の!?」
「ガウゥ…」
「負けるわけにはいかないっす!いくっすよクリム!」
「ガウッ!」
男の前に立ちはだかるミーニャとクリム
「ん?お前達は、コイツらよりも楽しめそうだな」
「お前、コイツらの親分っすか?」
「あぁそうだ、儂が朝日の党 十五代目総帥『朝日奈 ソウエイ』よろしくな、嬢ちゃん」
「お前はここで、ウチらが食い止めるっす!」
「ほぅ、随分と強気だな…ならやれるものならやってみよ!」
すると、フッと姿を消すソウエイ
(消えた!?)
「遅いぞ!」
「ガウッ!ガァウ!(師匠!危ない!)」
咄嗟にクリムがミーニャの服を咥えて避けさせて事なきを得る
「フン、上手くかわしたか…」
「あ、危なかったっす…サンキュークリム」
「ガウッ!」
「…クックックッ、儂の太刀筋を見切って初手からかわされたのは久方ぶりだ、だが…そう易々と何度もかわせるものではないぞ!」
“ガキンッ!”
ソウエイの太刀をガントレットでガードするミーニャ、だが斬られた箇所が割れて破損してしまった。
「そんな!」
「そんな生半可な防具では、儂の太刀は防げんよ…」
「くっ!」
「ガルルル…」
「さて、今度は腕を斬り落としてやろうか?」
・・・・・
戦いが始まってから数分が経過…するとそこへ
「伝令!城門迎撃部隊より、朝日の党総帥『朝日奈 ソウエイ』により壊滅させられたとのことです!」
「な、何だと!?」
「尚、ミーニャ殿とクリム殿も命に別状はないものの重傷の戦闘不能に陥られたとのこと!」
「アイツらが…!?くっ!」
「旦那、まさか…先輩とクリムがこうもあっさり…」
「まっこと、油断ならぬ相手ということでありんすね…」
「………」
「ご主人様…」
「大丈夫だ、それより…何としてもここで食い止めるぞ!二人の頑張りを無駄にするな!」
「へい!」
「ぷよ!」
「あい!」
…すると、迎撃部隊がやられた報告を受けてから間もなく敵が着々とこちらへ近づいてくる気配がした。
「来るぞ!」
襖を斬り崩してきた刺青の男…この男がソウエイか?
「若君は、その奥だな?」
「あぁ、だがこの先には行かせねぇよ!」
「なら…殺して押し通るまで!」
目にも止まらぬ速さで距離を詰め斬りかかるソウエイ、ゲータがそれを受け止める。
「ほぅ、よもやこの儂の『居合い』に着いてこれる者がこれほどいるとは…先程の獣人の娘といい、中々腕が立つ」
「このぉ、ミーニャ先輩の仇!」
両手のナイフを振りかざし斬りかかるゲータ
“ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!”
「ゲータを援護するぞ!」
「あい!」
「『散弾風』!!」
「『狐流妖術 炎舞・飛炎輪』!!」
それぞれ技を放ってゲータを援護する
「…フン、小賢しい」
するとソウエイは、ゲータの攻撃をいなしながら俺達の放った技を意図も容易く刀で撃ち落として見せた。
「なっ!?」
「ぷよっ!?」
「これはまぁ…」
あまりの人間離れした速技に唖然とする俺達
「これで終わりか?拍子抜けだな…」
「ぬかせ!『岩石縛り』!!」
地属性魔術でソウエイの手足を封じる、ご自慢の素早ささえ封じてしまえば後はこっちのもんだ!
「ほぅ…」
「ゲータ!」
「合点!『双刃斬り』!!」
「…フン」
“ガキンッ!”
「!?」
何とソウエイはゲータの振るったナイフを自分の歯で受け止めた。
「『秘技・真剣白歯取り』!!」
いや、上手いこと言ってんじゃねぇよ!なんか腹立つ!
「…フン、他愛もない」
“バキッ!”
「なっ!?」
なんとソウエイは咥えたゲータのナイフを噛み砕いたのだ…コイツホントに人間かよ…
「オ、オイラのナイフが…バケモンでやんす!」
「狼狽えんな、まだ諦めんじゃねぇ!」
「…少しは楽しめると思ったのだがな、興醒めだ…これで終いにしてくれる」
そう言うとソウエイは力ずくで拘束を解き、刀を一旦鞘へしまうと低い体勢となり呼吸を整えて意識を集中する。
「なんだ?何をするつもりなんだ?」
「『神風流抜刀術・疾風抜き』!!」
「!?、ご主人様!」
と、咄嗟にぷよたんは分裂し俺達の前に立ち塞がる
すると風が吹き抜けたかのようにソウエイは俺達の間を通り抜けていった。
「!?」
「ぷ、ぷよ!?」
すると、次の瞬間…目の前のぷよたん達が真っ二つに綺麗にスパッと斬られてしまった。
「ぷよたん!」
「フン、スライムに救われたか…」
「大丈夫か?」
「大丈夫ぷよ…僕は斬撃には強いですからぷよ」
「ほっ、さいでありんすか…」
「しかしなんだあの技?速すぎて見えなかったぜ…」
「あれは、『居合抜刀術』という一撃必殺に特化した剣技ですぷよ…」
「そうなのか?」
「今の一撃を受けて理解したぷよ、あの技はより早く的確に相手の急所を仕留める技ぷよ…」
「フン、我が一撃をくらいながらもそこまで分析するか…中々賢いようだな」
「…何とか対抗する術はあるか?」
「ちょっと、考えてみますぷよ…一分時間をください!」
「分かった!よし、ゲータ!ハナビ!何とか一分奴を足止めするぞ!」
「へい!」
「あい!」
「何をしようと無駄なことだ!」
「ハナビ!」
「あい!『狐流妖術 幻技・無間魔廊』!!」
“パァン!”
「!?」
(ここは、どこだ?真っ暗で何も見えん…)
「…成功でありんす、これでしばらくは動けないはずでありんす」
「よし、よくやった!」
「!?」
「どうした?」
「おかしいでありんす!?じ、術が…破られる」
「何っ!?」
「うぅ…はぁっ!」
ハナビの幻術を打ち破ったソウエイ
「そんなアホな!あちきの幻術を自力で破るなんて…よほど精神力がないと無理でありんす!」
「つくづくバケモン見てぇだな…」
「へへへ、幻覚とはナメた真似してくれおって…」
「ど、どうするでやんす!?」
「ぷよーん!閃いたぷよ!」
「よし!」
「お教えするぷよ!」
と、ぷよたんから念話で奴に勝つ方法を教えてもらう
「…なるほど、よしいくぜ!」
「へい!」
「あい!」
「なんだぁ?何をしようと無駄だと言ったはずだ…」
刀をしまい、集中する
「今だ!ハナビ!」
「あい!『狐流妖術 幻技・朧影魔鏡』!!」
すると、ハナビは俺達の幻覚分身を部屋いっぱいに作りだした。
「…また幻覚か、芸のない奴め…こんなまやかしなど通用せん!」
と、分身達を次々と斬り伏せていくソウエイ
(?、おかしい…本物はどこだ?馬鹿な!まさかこの儂が、幻覚に踊らされているとでもいうのか!?)
するとその時
“ザクッ”
「ぐわっ!?」
後ろから何者かに刺されるソウエイ
「猪口才な…お前が本物か!?」
すぐ後ろにいたゲータを斬るも惜しくも幻だった
「何!?くそ、どこだ!?出てこい!」
するとまた後ろから攻撃され、すぐに反撃するも幻覚だった。
「くそ、だがこの痛みは間違いなく本物!この中に紛れているはずだ…」
すると次に無数のぷよたんに体に纏わりつかれる。
「くっ!これも、幻覚…いや、どっちだ?」
幻覚か実体か考えている間に埋め尽くされてしまう
(これは幻覚だ…幻覚、のはず…いやまさか、これは本物か?)
「…食らいつくせ、ぷよたん!」
「『捕食』!」
「うわぁぁぁぁ!!」
ぷよたんに捕食され跡形もなく吸収されてしまった。
「…フゥ、ゲップ!」
「よくやった、まさか…こんな方法があるなんてな」
ぷよたんが提案した作戦の概要はこうだ…まずはハナビが俺達の幻覚分身を大量に発生させ俺達はぷよたんの体内空間に身を潜め、隙を見て外へ出て攻撃し瞬時に戻り分身と入れ替わる。
それを何度か繰り返しソウエイが混乱してきたところでぷよたんの分身軍団にソウエイを纏わりつかせその中に本物のぷよたんを混ぜて本人も気づかぬように捕食していった、というもの
「流石!天才でやんすね!」
「ほんに、お見それしましたえ…」
「て、照れるぷよ…」
「ま、何にせよ…これで万事解決、だな?」
・・・・・
見事、朝日の党を壊滅に追いやった俺達…ミーニャとクリムも順調に怪我から回復し、無事に一件落着…
国の窮地を救った俺達は、君主代行の若様からその栄誉を讃えられ勲章を授かった。
「もう、行ってしまわれるのか?」
「あぁ…そんな顔すんなって、また遊びに来る…約束だ」
「うむ!我々サクラ公国は、いつでもそなた達を歓迎しておるぞ!またいつでも城に遊びに来い!」
「あぁ、お前も早く一人前の君主になれるといいな」
「分かっておる!儂は絶対に立派な君主となって民を導いていく!約束じゃ!」
「あぁ、男同士の約束だ!」
「兄ちゃん!そろそろ船出ちゃうっすよ!」
「あぁ!すぐいく!じゃあまたな!」
「うむ、達者でな!」
…こうして、東大陸を後にし西大陸へと出発した俺達
新たなる次の冒険が、俺達を待っている…のかもしれない。
To be continued
-----【To days Result】-----
朝日の党 構成員 ×300
総帥 朝日奈 ソウエイ -Win-




