第九話 リョーガと狂剣士
打倒『レイモンド一味』に向けて動き出した俺達、町で一味の下っ端どもを見つけて少々痛い目に合わせたところで幹部達の居所を問い質すも誰一人口を割ることはなかった。
唯一得た情報は船長のレイモンド及び幹部の四人の強さは測り知れず、その実力はAランク相当にもなるらしい…油断は大敵、俺達は海賊どもの情報を集めるのと並行してひたすら鍛えまくってレベルを上げてスキルも強化していった。
【リクルグ冒険者ギルド 空き部屋】
宿に泊まることのできない俺達はギルド長のシーナさんの計らいでこの町に滞在している間ギルドの空き部屋を貸してもらえることとなった。
「…今日も収穫はなしか」
「ふぃ〜、一日中歩き回って成果ゼロっすかぁ…」
「下っ端とは言え、奴ら中々強情でやんすね…痛めつけてもダメ、脅してもダメ…もう手は尽くしたでやんすよ…」
「ガゥン…」
「ぷよぉ…」
「とりあえず、明日も情報収集だな…時間が余ったら特訓するぞ」
「うぃっす!」
「へい!」
「今日はもう遅い、明日も早いんだ…もう寝よう」
明日に備えて早く寝ることにした俺達…疲れていたのかすぐに眠りに落ちた。
数時間後、すっかり深夜となったその時だった…。
「キャアァァァァ!!」
「「「「「!!!?」」」」」
外から突然悲鳴が聞こえて驚いた俺達は跳ね起きた。
「な、なんだ!?」
「ふにゃ!?」
「な、何事でやんすか!?」
「結構近くみたいだ、行くぞ!」
「あ、待ってっす!」
・・・・・
外へ飛び出した俺達、そこで何かを見て怯えている様子の婦人を見つけた。
「おい、どうした!?大丈夫か!?」
「あ、あれ…」
「!?」
婦人が指を差す先は路地裏のゴミ捨て場、そこから血のようなものが滴り落ちていた。
そこにはなんと無惨にも殺された死体が捨ててあった
死体は斬りつけられた跡があった、目立った外傷はこの傷一つでこの一撃で絶命されたようだ…恐らく下手人は相当腕が立つと見える。
「に、兄ちゃん…」
「…あぁ、死んでる」
「酷ぇ…」
「まだ傷が新しい、まだ近くにいるかもな…クリム!」
「ガウ!」
死体の周辺をクンクンと嗅ぎ回るクリム
「…!?、ガウ!ガウガウ!」
何かを感知して急に走り出すクリム
「見つけたか!?」
クリムの後を追う、するとそこへ…
「ひ、ひぃっ!や、やめてくれぇ!」
「おいおい…逃げてんじゃねぇよぉ、大丈夫だって…一思いにスパッと斬ってやるからよぉ…グヒヒヒ!」
剣を持った男が男に詰め寄っていた
「おい、何してる!?」
「あぁん?」
オレンジのモヒカンヘアーに顔にナナメの縫い傷、シーナさんから事前に貰った手配書にあった顔の特徴と合致している…
奴はレイモンド一味の幹部の一人『狂剣のソロイ』だ。
「…そのマントに黒い髪、亜人種やモンスターを引き連れた男…テメェ、最近ウチにちょくちょくちょっかいかけてやがる冒険者かぁ?」
「そうだ!お前、狂剣のソロイだな?」
「あぁそうだ、ヒッヒッヒッ…ウィ〜」
おぼつかない足取りで左手には酒瓶を持っている、コイツ…酔ってるのか?そんな状態でまともに剣なんて振れるのか?
「ヒッヒッヒッ、まだこの町に冒険者なんて残ってやがったのか!最近は骨のねぇ奴ばかりで退屈してたところでよぉ…そろそろちったぁ骨のある奴と戦ってズタズタに斬り裂きたいって思ったとこだったんだよ…こんなところで会えるなんて超ラッキー!」
不気味に笑いながら右手に持った剣を舐めるソロイ、古今東西なんでこういう狂気めいたキャラの奴って自分の武器を舐め回したりすんのかね?汚いだろう…
「さぁ、誰から斬らせてくれるんだぁ?」
「先輩!」
「分かってるっすよゲータ!」
「ミーニャ、ゲータ…油断すんなよ」
「うぃっす!」
「へい!」
「よし、行け!」
二人でソロイに向かっていく
「ヒッヒッヒッ…」
「うにゃーーー!!」
「えぇいやっ!!」
前後方から攻撃を仕掛ける、しかしソロイは二人の攻撃をフラフラした動きでかわした。
「!?」
「遅ぇ」
“ズバンッ!”
「ニャ!?」
「ミーニャ!」
「先輩!」
「だ、大丈夫っす!ちょっと掠っただけっす!」
と、言う割には斬られた肩から血がドクドク流れる
「くそっ!ぷよたん、ミーニャの止血を頼む!クリムはゲータの援護だ!」
「任せるぷよ!」
「ガウ!」
ぷよたんはミーニャの傷口に張り付いて傷を治療する、こんなこともあろうかとぷよたんには俺の治癒スキルを覚えさせておいた。
「先輩の仇!くらうでやんす!」
ダガーを二本構えてソロイに斬りかかる
ゲータには『二刀流』のスキルと『ナイフ闘術Aランク』のスキルを覚えさせた、幹部相手にどれだけ通じるかは分からないが今はかなり互角に渡り合っている。
「へぇ、やるじゃねぇのワニ公…こりゃ俺も本気出すかな?」
まだ本気じゃなかったのか…幹部の名は伊達じゃないってか…
「ガルルル…グワッ!」
ソロイの足に噛みつき動きを止めるクリム、その隙にゲータが仕掛ける
「ヘッ、それで止めたつもりかよ…」
ソロイはクリムを蹴り飛ばしてゲータにぶつける
「おぶっ!?」
「甘いんだよ!」
二人いっぺんにソロイに斬り伏せられる
「ぐあっ!?」
「ゲータ!クリム!ぷよたん、二人をお願いっす!」
怪我の治療を終えたミーニャが向かっていく
“ガキンッ!ガキンッ!”
ガントレットでソロイの剣をしのぎ、猛攻を仕掛ける
「おうおう、中々強えじゃねぇの子猫ちゃん…まともに受けたら剣折れちまいそうだ」
「だったら望み通りへし折ってやるっす!」
更に果敢に挑みかかるミーニャ
「足元がお留守だぜ!」
「ニャ!?」
不意に足を払われて転ばされるミーニャ
「死ね!」
そのまま剣を突きつけられる
「ミーニャ!くそ!間に合え!」
魔術を放って援護しようとしたその時…
“ザクッ!”
突然ぷよたんが間に割って入り、ミーニャの身代わりになって串刺しにされた。
「!?」
「ぷよたん!」
「う、う〜ん…い、痛いぷよ、耐性ついててもやっぱり痛いのは痛いぷよ」
「ほっ…」
どうやら生きてるようだ、あらかじめぷよたんには『斬撃耐性Aランク』を覚えさせておいて正解だったな…
元々の物理防御力が俺達よりも高い為、今となっては剣で刺されたぐらいじゃ死ぬことはない。
「ちっ!邪魔しやがってスライム風情が!」
「ぷよ!スライムナメたら痛い目見るぷよ!」
と、ぷよたんは身体を伸ばして剣に纏わりついた。
「わっ!?なんだ!?離れろこの!」
スライムお得意の『捕食スキル』だ、あぁなったら意地でも離れないだろうな
捕食スキルはスライムの得意技であり専用スキル、対象物を食べてそれを己の糧とする、食べたものによって失った体力や魔力を回復したり、能力が向上したりと様々な効果が得られる。
「くそ!離れろこのクソスライム!」
ぷよたんを取り払おうと剣をブンブン振り回すソロイ
俺はその隙を見逃さなかった。
「隙だらけだ!くらえ!『雷撃波』!!」
「ぐぁぁぁぁ!!」
俺は覚えたばかりのBランク級魔術で攻撃する
効果はてきめんだったようで黒焦げになってその場に倒れ気絶するソロイ
「か、勝ったか?」
「ふぅ、流石兄ちゃんっす!」
「つ、疲れたでやんす…」
「確かに、幹部張ってるだけあってかなりの強さだったな…ぷよたん、鎖を出してくれ、縛りあげてギルドへ連れていく」
「はいぷよ!」
ソロイを鎖で縛ってギルドへ連れていく
・・・・・・
【冒険者ギルド】
「今帰った」
「あらおかえり、ってみんなボロボロじゃない!大丈夫?」
「あぁ、それよりもレイモンド一味の幹部を捕まえた」
「えぇ!?…確かに本物のソロイで間違いないようね、ホントにあなた達が捕まえたの?Aランクの冒険者が束になっても勝てなかったのに…」
「へぇ、まぁいい…とりあえずコイツをこれから尋問するから地下の部屋を貸してくれ」
「えぇ、いいわよ」
地下室を借り、そこでソロイを口が聞ける程度まで傷を治療する
「う、うぅ…」
「よう、気がついたか…」
「テ、テメェ!くっ!なんだこれ!?」
「安心しろ、命までは取りはしない…お前には二、三聞きたいことがある…」
「くっ、俺は何も喋らんぞ!」
「拷問は無意味ってか?…しょうがない、ゲータ、例のアレできてるか?」
「へい、ここに…」
と、ゲータから小瓶に入った白い薬を受け取る
「な、なんだよそれ?」
「安心しろ、ただのリラックスする為の薬だ…頭がスッキリするぞ」
そう言って蓋を開けると、瓶をソロイの口に突っ込んで薬を飲ませた。
「ゲホッゲホッ!何しやが…うっ!」
薬を飲ませてしばらくすると、だんだんと目が虚になっていく
(なんだ?これ…頭がボーっとしてきた)
「兄ちゃん、何飲ませたんすか?」
「『自白剤』だ、要は脳の機能を低下させて嘘をつかせないようにできる薬だ、ゲータに頼んで作ってもらった」
「えぇ、上手くいきそうでやんすか?」
「あぁ、さて…聞かせてもらおうか?ソロイさんよ?」
「うぅ…あぁ…」
「まず、お前以外の幹部は今どこにいる?」
「うぅ…ラムと副船長はお頭の護衛、ビガロの奴は部下を連れて酒場を飲み歩いてるだろうよ…」
「ほぅ、で?お前らの船長はどこにいる?」
「船長は、この町の反対側の入江に船を停泊させてあってそこにいる…」
自白剤の効果で一味の情報を淡々と喋る
「そうか…ならもう一つ答えろ、船長のレイモンドのことを教えろ」
「お頭は、とにかく強え…この町で一番強えAランク冒険者だってまるで赤子のようにお頭の前じゃ何もできなかったんだ…」
Aランク冒険者相手にそこまで…強力なスキルでも持っているのか?
「レイモンドの持っているスキルを教えろ」
「知らねぇ…お頭のスキルや能力については俺らすら何も知らねぇんだ!」
幹部ですらレイモンドの能力は知らないのか…自白剤を飲ませてあるから嘘は言ってないようだが…
「もう一度聞く、レイモンドの能力はなんだ?」
「し、知らねぇ!」
そう言うと、ソロイは急にガタガタ震え出し失禁してしまった
「お、お願いだ…もう勘弁してくれ!死にたくねぇよ!」
挙げ句の果てには泣き出してしまった…
「…こんな状態じゃもう何も聞けそうもないな」
「すいやせん旦那、少し成分が効きすぎたでやんすかねぇ?」
「いやいい、幹部達の居所は分かった…船長のレイモンドは一先ず後回しにしてまずは幹部どもを潰していくぞ」
「と、いうと…」
「あぁ、船にいる二人は置いておくとして…次の狙いは『ビガロ』だ…」
「分かったっす!」
「とりあえず明日からは酒場の辺りを中心に探してみるか…」
「そうでやんすね」
「よし、とりあえずコイツは変なことしでかさないように交代で見張ろう…クリム、まずは頼めるか?」
「ガウ!」
「よし、いい子だ…三十分経ったら俺と交代だ、頼むぞ」
「ガウ!」
一先ず見張りをクリムに託し俺達は部屋へ戻る
「とりあえず、ビガロへの対策を考えよう…奴はソロイ以上の曲者らしい、しっかりと対策を練るぞ」
「うぃっす!」
「へい!」
「ぷよ!」
To be continued…
-----【To days Result】-----
狂剣のソロイ -Win-




