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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
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7. ふーん

 「なあ」

想子さんが、リビングで、テレビを見ながら言った。


「なに?」

テレビの中では、若手のタレントたちが、鉄棒や跳び箱やらに

チャレンジしている。


「ダイは、逆上がりで、苦労したことある?」

「ん~。いや、とくにはないな」

「ふ~ん。じゃ、跳び箱は、何段まで跳べた?」

「そやなあ、はっきり覚えてへんけど、10段くらいかなぁ。

そんなに得意ってわけでもなかったから」

「ふーん」

想子さんは、なんだか不服そうだ。

僕のことを苦労を分かち合えない相手とでも思ったのか、

ふーん、の言い方がちょっと冷たい。

「なんで?」

「いや、ちょっと思い出してん」

「うん?」

「小学校のときさ、跳び箱3段が跳べない子ばかりを集めて、

秘密の大特訓があってん」


「秘密って・・・」

「そう。秘密よ。放課後の体育倉庫で。ひそかに

来る日も来る日も跳べるまで」

「何で体育倉庫?」

「放課後は、体育館で、空手やらバトンとかの教室やって

たから。かといって、運動場で、大々的に跳び箱並べて

やるのは、恥ずかしいやろ、という担任なりの配慮?」

「で、跳べるようになったん?」

「3段はね。でも、私らがやっと3段跳べるようになった

ころには、クラスの子たちは、5段6段と先に行ってて」

「そうやろな」

「でね、特訓も4段になってん。だんだん、コツを会得

する子も出てきて、メンバーが1人減り、2人減りして・・・」

「うん」

「最後に、とうとう、私ともう1人の男の子だけが、残って。

焦ったのなんの。どちらかが先に跳べたら、これから先の

特訓は一人きりになるんやもん」

「そら焦るな。で、どうなったん?」


「もうどっちも必死で、無我夢中で練習した」

「でね。最後には、2人とも5段までは跳べるようになった!」

「へ~。すごいやん。」

「もう嬉しくって、2人で手ぇつないでとびはねまくったよ」

可愛い小学生の想子さんが、男子と手をつないで跳びはねて

いる姿が頭に浮かぶ。

「ふーん」

今度は密かに、僕の、ふーん、が冷たくなる。

でも、もちろん、想子さんは気づかない。


想子さんは続ける。

「はじめのうちさ、なんで、跳び箱なんてせなあかんねん。

そんなもん、体操選手以外で、大人になってどこで

必要やねん。跳べたからって、なんもないやん。

そんなもんさせるなよって、めっちゃ思ってた。

当時、秘密の大特訓!って笑いながら言うてたけど、

ほんとは、跳ばれへん自分が情けなくて、恥ずかしくて、

めっちゃみじめな気持ちやった。

逆上がりかって、そう。

なんぼ練習しても、手の皮剥けてずるずるになっても、

ぜんぜん出来なくて、なんで、こんなことせなあかん

ねん~って、何度思ったことか」

「うん」

「でもさ、今、テレビで、こうして跳び箱とかやってるの

見てたら、ふと、思ってん。

あの頃、あれほどいややったし、

どっちかって言うたら、楽しい思い出でもなんでも

ないのに。今思い出したら、

『あのとき、頑張ったよなあ、自分』って。

なんか、ふしぎに懐かしくなってさ。」

想子さんは、笑う。


「そやな。・・・そのとき、めっちゃがんばったから、今、

そう思えるんやろな。 もし、練習いややって言うて、

さぼってたら、今、そんな風に思えてへんよな、きっと」

僕の頭の中には、一生懸命に、鉄棒や跳び箱に立ち向かう

小さな想子さんが浮かぶ。


「そや。わたし、さぼらんと頑張ったからな~、うん」

想子さんは嬉しそうだ。そして、言う。

「なんか思い出したら、あのとき、最後まで一緒に練習

してた子、今どうしてるんかなあ。

ちょっと気になってきたわ」

想子さんの顔が、懐かしさでいっぱいになる。


「ふーん」

再び、僕の、ふーん、が冷たくなる。


(そんなん、気にならんでええから)


(まったく。・・・ひとの気も知らないで)



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