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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
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59.  お互いさま


「……ここに、おったん?」

 僕は、想子さんに声をかけた。



 大学で、両親と出くわしたあと、僕らは4人で、そのまま京都で泊まることになった。夕食のあと、大浴場から部屋に戻ると、両親はいたけど、想子さんの姿がない。「宿の中探検してくる」と言って、出かけたらしい。

「ちょっと見てくるわ」 そう言って、僕も部屋を出る。

「先に寝てるよ~」 両親は、和室に敷かれた布団を指さして、笑った。

「了解。おやすみ~」 僕は言って、部屋をでた。


 お土産物のコーナーを通り過ぎてふと見ると、広くて天井の高いロビーの片隅に、想子さんの姿を見つけた。

 背もたれの高いソファに埋もれるように座っている想子さんは、なんだかちょっと頼りなく小さく見えた。

 

「……ここにおったん?」

 近づいて声をかけると、想子さんが、顔を上げた。目が少し潤んでいるようなのが気になる。

「……ダイ」

 僕は、想子さんの隣に腰を下ろす。

「探検してるって聞いたから。……どこにおるんかと思ったら」

「うん。心の中……探検してた」 想子さんが、ちょっとほろ苦い笑顔で言った。

「そっか。あのさ、……昼間、大学で、手、離したの、なんで?」 僕は、思わず聞いてしまう。

 一瞬、僕を見た目をすぐに伏せて、想子さんは言った。

「……なんでかな。なんか、あかんこと、してる気がしてん」

 

「あかんこと?」

「うん。……なんかさ、純粋で一途な年下の少年をたぶらかしてるワルいオトナになった気がして」

「ふ~ん。……それなら、僕は、純粋できまじめな年上女性をたぶらかしてるワルい少年なんかもな」

「……お父さんとお母さんが、どう思うかな、って。『ダイのこと、頼むね、お姉ちゃん』って言われてたのに。それなのに、お姉ちゃんとしてじゃなくて、ダイのことめっちゃ好きで。6つも年上のくせに、手ぇつないだだけで、ドキドキしてしまうくらい好きって……。それって、どうなん? お父さんお母さん、がっかりさせるんちゃうん? て。今さらやけど、思ってん」


 うつむいた想子さんの頬が赤い。膝の上で何度も小さな拳をにぎり直している。

「そっか。そんなこと考えてたんや。……なんでがっかりすると思うん? 僕は、逆やと思うけどな」

 そっと、想子さんの手をとる。柔らかな小さな手。僕が子どもの頃に、当たり前のようにつないでいた、手。そして、今は、ドキドキしながらつなぐ手。その手を僕の手で包みながら、言う。


「正直、僕な、なんで6つも年下なんやろって、よく思ってた。僕が、せめて1歳か2歳ちがいやったり、それか、弟としてじゃなしに出会ってたらって、よく思ってた。そしたら、想子さんは、もっと僕のこと、本気で1人の男としてみてくれて、好きやって思ってくれるんちゃうかな、って。……よく言うやん? 『年齢なんて、ただの数字。そんなの関係ない』って。でもさ、実際はそんなことないよな。ただの数字、って言い切られへんことも、確かにあるよな。……せやから、僕、こう見えてけっこう、本気で悩んでてん」

「ダイ……」

「でもな、確かに、はじめは、年齢の壁ってあるかもしれへん。せやけど、それって、乗り越えてしもたら、もう壁でも何でもなくなるんちゃうかな。自分より長く生きている分への敬意は持っても、壁ではなくなると思う」

「ダイ……」

 空いている方の腕を、そっと想子さんの肩に回す。細い肩。思いっきり抱きしめたい気持ちを抑えて、僕は、想子さんを包むように抱く。


「僕は、子どものときからずっと想子さんを、姉弟とかそんなこと関係なしに、大好きやねん。一生、一緒におるとしたら、想子さんしか考えられへん、って思ってきた。まだもっと子どもの頃、偶然、想子さんと実の姉弟じゃないって知ったときは、びっくりしたけど嬉しかった。いつか大人になったら、きっと想子さんと結婚するって。結婚できるんやって。でも、ずっと片思いやと思ってた。やから、せめて、姉弟としてでもいいから、そばにおりたいって思ってた」

 僕は、つないでいた手を離して、両腕で、想子さんを包み込む。


「でも、今は、想子さんも僕を好きでいてくれるんやろ。年齢のことも、乗り越えて。姉弟として育ったってことも乗り越えて」

「ダイ……」

「うん?」

「私でいいの?」

「想子さんがいい」

「6つも年上やし」

「乗り越えた。ってか、僕も6つ下やから。プラマイゼロで、お互いさまや」

「ふふ。お互いさま、か。……私、性格もそんなにいい方とちゃうけど。それでもいいの?」

「いい。ってか、そんなん、とうに知ってるし」

「ちょっと。少しは、否定とか、してよ」 

 僕の腕の中で、想子さんが僕を軽くにらむ。そんな想子さんが愛おしくて、僕は笑ってしまう。

「へへ。そんなとこも、全部、ぜんぶ好きやねん、て。それ以上に、素敵なとこいっぱいあるのも知ってるし」

「ダイ……」 想子さんの目の中の光が、揺らめく。



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